中小企業経営者の多くは、金融機関からの借入を個人で保証している。個人保証がある場合、会社が破産すると経営者も自己破産するおそれがある。この記事では、会社が破産すると経営者はどうなるのか、自己破産のメリット・デメリット、手続方法、また会社設立に再チャレンジする際の注意点について解説する。

会社の破産とは?

破産
(画像=ilkercelik/stock.adobe.com)

会社の破産とは、会社の債務を整理する方法の1つである。債務超過や資金繰りの悪化によって負債の支払いができなくなった場合、その時点で保有している資産によって負債の支払いを行う。

会社が破産すると会社の資産はすべて失われ、法人格は消滅する。個人の自己破産の場合は、破産した当人が消滅することはない。したがって法人格の消滅は、会社の破産と個人の自己破産の最大の違いと言える。

また個人の破産の場合は、破産後の生活を立て直すため、財産の一部を保有する自由財産制度や免責制度などが設けられている。しかし会社の破産の場合は、法人格が消滅するためにこれらは認められていない。

会社の破産手続きは、裁判所によって選任された破産管財人が行う。破産管財人は会社の資産をすべて現金化して、債権者に分配する。法人格が消滅するため、従業員は全員解雇される。解雇に伴って、未払いの賃金や退職金が発生するケースも多い。

会社が破産したとき経営者も自己破産しなければならないケースとは?

会社が破産したとしても、経営者の自己破産が法的に義務付けられているわけではない。会社と経営者は、別のものだからだ。しかし、会社の破産にともなって経営者も自己破産を迫られるケースが多い。

会社が破産したときに経営者も自己破産しなければならなくなるのは、経営者が会社の債務を個人保証している場合だ。会社が債務の支払いをできなくなった場合、保証人である経営者がその債務を全額弁済する義務が発生する。一般的に会社の債務をポケットマネーで支払える経営者は少ないため、会社が破産したときは経営者も自己破産することが多いのだ。

自己破産とは?

自己破産とは、支払不能の債務が発生した際に、裁判所で債務を免除してもらう手続きのことだ。「自由財産」と見なされる最低限の財産以外は処分しなければならないが、債務が免除されるため自己破産以降は取り立てなどがなくなる。連帯保証人などになっていない限り、家族にも直接的な影響は及ばない。

自己破産のメリットとデメリット

自己破産のメリットとデメリットを見てみよう。

自己破産のメリット

自己破産のメリットは、以下のとおりだ。

1.最低限の財産を手元に残せる

破産法では破産後に個人が生活を立て直し、経済的に更生していくことが配慮されている。そのため、「自由財産」と呼ばれる最低限の財産を手元に残せることになっている。自由財産とは、以下のものだ。

・破産手続きが開始した後に取得した「新得財産」
・99万円までの現金
・生活するために最低限必要な衣服や家具、生活用品、食料などの「差押禁止動産」
・その他、重病な人は生命保険、足が不自由な人は自動車など、裁判所が個別に必要と認めたもの(おおむねそれぞれ20万円以内)

2.債権者の取り立てなどがなくなる

自己破産が裁判所で認められれば、債務は免除される。したがって、債権者の取り立てなどはなくなる。自己破産を申し立てる場合は、弁護士に依頼するケースが多い。その場合、弁護士が受任通知を債権者に送ると、それ以降の取り立ては一切なくなる。

3.家族に直接的な影響が及ばない

自己破産をしても、債務の連帯保証人などになっていない限り、家族に法的な責任は及ばない。したがって、家族の財産が処分されることはない。

自己破産のデメリット

自己破産のデメリットは、以下のとおりだ。

1.ブラックリストに登録される
自己破産をすると、信用機関の事故情報(俗にいう「ブラックリスト」)に登録される。ブラックリストに登録されれば、以後約10年にわたってお金を借りたり、ローンを組んだりすることができなくなる。賃貸住宅を借りる際は、保証会社が信用情報を確認することもあるため、家を借りにくくなる可能性もある。

2.最低限必要なもの以外の財産が処分される
最低限必要なもの以外の財産がすべて処分されることは、デメリットと言えるだろう。所有していた家や土地などは、基本的にすべて手放さなければならない。

3.官報で公告される
自己破産をすると、住所や氏名が官報で公告される。官報を見る人はそれほど多くないとはいえ、誰にも知られることなく自己破産することはできないのだ。

4.手続き中は公的な資格が制限される
自己破産の手続きをする数ヵ月間は、弁護士や行政書士などの士業、宅地建物取扱業、旅行業者、貸金業、建設業などの資格が制限され、それらの資格を使った仕事ができなくなる。ただし、この制限は自己破産の手続きが完了すれば解除される。

5.手続き中は住所の移転が制限される
自己破産の手続き中は、裁判所の許可がなければ住所の移転や長期間の旅行などができなくなる。ただし連絡先がはっきりとしていれば、裁判所は許可を出すことが多い。

自己破産手続きの流れ

自己破産の手続きでは、生活必需品以外の価値のある財産を所有している場合は「管財事件」として取り扱われる。管財事件の手続きにおいては、裁判所によって「破産管財人」が選任される。破産管財人は債権者の代表者という立場であり、財産を調査し、処分を行う。管財事件の流れは、以下のとおりだ。

  1. 必要な書類の準備をした上で裁判所に自己破産の申し立てをする
  2. 破産管財人が選任され、管財人との面接が行われる
  3. 管財人が財産などの調査を行う
  4. 債権者集会が行われる
  5. 財産を売却するなど現金化した上で債権者に対して財産の配当を行う
  6. 裁判所から免責許可決定が通知され、約1ヵ月後に確定する

管財事件の手続きに要する期間は、3ヵ月~1年だ。

自己破産をしても再び会社を設立することはできるのか?

自己破産した経営者が、再び会社を設立することはできるのだろうか?これは、難しいができないことはない。なお、自己破産者が会社を設立する際の公的支援もある。

自己破産した経営者でも会社を設立することはできる

自己破産した経営者が再度会社を設立することに、法的な問題はない。旧商法では破産者は取締役の欠格事由となっており、借金がゼロになるまでは会社の取締役にはなれなかった。しかし中小企業経営者の多くは、会社の債務を個人保証している。破産者の市場への再参入を促進し、経済の活性化を図るため、2006年に施行された会社法でこの欠格事由は削除された。

破産者が会社を設立する際の注意点

破産者が会社を設立する際の注意点として、以下のものが挙げられる。

資格が制限されることがある

自己破産手続きを行うと、前述のとおり手続きの期間中は、士業や宅地建物取扱業、旅行業、貸金業、建設業などの資格が制限される。また、業界によっては代表者が破産者であると、許認可を与える際の欠格事項に該当することもある。業法などを確認し、破産者が許認可を得られるかどうかを確認する必要があるだろう。

融資を受けられなくなる

前述のとおり、自己破産をすると以後10年程度はブラックリストに登録される。それにより、事業資金の借入ができなくなったり、店舗や事務所などを借りられなくなったり、事務設備などのリース審査に通らなくなったりする可能性がある。自力での資金調達が難しくなることは、会社設立にあたって大きな問題となる。

しかし、これは以下の方法で克服することができる。

1.自己資金を十分に蓄えてから会社を設立する
自己資金を十分に蓄えれば、資金の借入ができなくても会社を設立できる。これは破産者が会社を設立する上で、最も確実な方法と言えるだろう。業種を選べば、多額の資金がなくても会社は設立できる。

2.会社の代表を他の人に任せる
ブラックリストから抹消されて資金の借入ができるようになるまで、会社の代表を親族など他の人に任せるという選択肢もある。事業資金の借入の審査では、代表者以外の信用力が詳細に調査されることは稀だ。したがって代表者の信用力に問題なければ、融資を受けられる可能性は高い。

3.公的支援を利用する
公的支援を利用する方法もある。日本政策金融公庫や信用保証協会、商工組合中央金庫には、事業に失敗して自己破産した中小企業経営者が再度会社を立ち上げる際に特化した融資制度がある。

たとえば日本政策金融公庫では、「再挑戦支援資金」として融資限度額が7,200万円(うち運転資金4,800万円)、返済期間が設備資金は20年、運転資金は7年という融資が用意されている。融資には要件と審査があるので必ず利用できるわけではないが、検討する価値は十分ある。

参照:日本政策金融公庫『再挑戦支援資金』

自己破産しても再チャレンジしていこう

会社の債務に対して個人保証をしている中小企業経営者は、会社が破産すると経営者自身も自己破産を迫られる。自己破産をすれば資産をすべて失うだけでなく、以後10年程度は借入などが難しくなる。しかし、自己資金を十分蓄える、あるいは公的支援を利用するなどの方法で、再び会社を設立することはできる。

自己破産したとしても、望めば敗者復活戦に参加できる。ぜひ、再チャレンジしていただきたい。(提供:THE OWNER

文・高野俊一(ダリコーポレーション ライター)