アメリカの歴代大統領にも愛された米国のアパレルブランド「ブルックス・ブラザーズ」が経営破綻した。コロナ前から経営状況が悪化していたが、コロナ禍によって店舗の休業を余儀なくされたことが主な要因だ。日本の既存店舗も10店舗が閉店される。アパレル業界は今後、どうなるのだろうか?
ブルックス・ブラザーズはどんなブランド?ケネディ元大統領も愛用
ブルックス・ブラザーズは、世界最古の紳士服ブランドと言われている。1818年にニューヨークで創業し、1890年代に発売したボタンダウンのシャツが人気を集めた。ビジネス向けのスーツやネクタイの販売などで事業を拡大し、「アメリカン・トラッド(アメトラ)と言えばブルックス・ブラザーズ」と言われたほどだ。
同ブランドはケネディ元大統領やリンカーンなどにも愛され、2018年に創業200年を迎えたばかりだった。日本にも1979年に進出しており、約500店舗を世界40ヵ国以上で営業している。
経営破綻の予兆はコロナ前から アメリカで連邦破産法第11条の適用を申請
そんなブルックス・ブラザーズが2020年7月8日、アメリカにおいて「連邦破産法第11条」の適用を裁判所に申請した。連邦破産法第11条は日本における「民事再生法」に相当し、経営破綻を意味する。老舗アパレルブランドの破綻は、ファッション業界のみならず世界に大きな衝撃を与えた。
ブルックス・ブラザーズが経営破綻に至った理由は2つある。1つ目はビフォーコロナにおける経営不振、2つ目はコロナ禍による売上減だ。
破綻の原因1,ビフォーコロナにおける経営不振――カジュアル服の浸透
ブルックス・ブラザーズは、企業で働くビジネスパーソンのニーズに支えられてきた。ブルックス・ブラザーズのスーツを身にまとって働くスタイルは、かつてはアメリカの有能なビジネスパーソンの象徴だった。
しかし近年は、その傾向に変化が見られた。多くの企業でカジュアルな服装で働くスタイルが浸透したことで、ビジネススーツの需要が落ち込んだのだ。このような変化への対応が遅れ、ブルックス・ブラザーズの業績は悪化していった。
破綻原因2,コロナによる店舗休業が追い打ち
そのような状況の中、ブルックス・ブラザーズは経営再建に取り組んでいたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの店舗が休業に追い込まれた。休業期間の売上減少が、業績悪化に追い打ちをかけた。
売上減少によって同社のキャッシュフローの悪化に歯止めがかからなくなり、店舗家賃支払いなどの資金繰りに窮し、最終的に経営破綻に追い込まれたと見られている。報道によると、負債額は5〜10億ドル(約525〜1,050億円)に上るという。
今後、米・ブルックス・ブラザーズは競売に
今後ブルックス・ブラザーズは競売にかけられ、買い手企業の傘下で事業が継続されると見られている。同社は、もともとアメリカ国内の約250店舗のうち約50店舗を閉店する予定だった。以前よりスリムな体制になることは間違いないだろう。
競売における買い手企業としては、米ブランド管理会社オーセンティック・ブランズ・グループ(ABG)が率いる企業連合が有力とされている。報道によれば、購入価格は3〜4億ドル(約315〜420億円)になる見込みだ。
日本ブルックス・ブラザーズは米国業績とは無関係だが、10店舗閉店……
ブルックス・ブラザーズは日本にも約80店舗あるが、日本法人は衣料事業を展開するダイドーリミテッドとの合弁会社であり、米国法人からは財務的に独立した法人であるため、米国法人の経営破綻の影響は限定的だろう。
そのため、今後も事業を継続すると見られている。報道によれば、9月にオープン予定だった表参道の店舗も、計画通り開業するという。米国法人の経営破綻とは無関係とされているが、日本店舗のうち10店舗を閉店することを発表している。
コロナがアパレル企業に与えた影響は?株価が回復している企業はあるものの…
米国の老舗ブランドの閉店は、新型コロナウイルスがアパレル業界に与える深刻な影響を象徴している。米アパレル大手のナイキは、ビフォーコロナの水準を少し下回る程度まで株価を回復しているが、GAPのように株価がなかなか回復しない企業も多い。
日本国内も似たような状況だ。ユニクロを展開するファーストリテイリングはコロナ前の水準まで株価を回復しているが、準大手のアパレル企業の中には株価低迷に苦しんでいる企業も少なくない。
民間調査会社の東京商工リサーチによると、7月27日時点で負債額が1,000万円以上のアパレル企業の経営破綻は43件に上る。上場企業であるアパレル大手レナウンが倒産したことは記憶に新しい。
コロナ前の経営状況も確認しよう
6月は国内で新型コロナウイルスの感染拡大が一服したが、7月中旬以降に東京や大阪などの大都市圏で第2波が到来し、今後再び緊急事態宣言が出される可能性もある。そうなれば、外出自粛や大手ショッピングセンターの休業などで、アパレル業界は再び大きなダメージを受けることになるだろう。業界にとっては、予断を許さない状況が続く。
今後のアパレル業界を占う上で参考になるのは、「ビフォーコロナ」の業績だ。レナウンもブルックス・ブラザーズも、コロナ以前から消費者の需要に対応できず、経営不振にあえいでいた。コロナだけでなく、そのアパレル企業がそもそも時代の波に乗れていたか、という点は冷静に判断したい。
文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。
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