最近になって、「サステイナブル経営」「サステイナブルデザイン」といった「サステイナブル」と名のついた用語を耳にする機会が多い。従来は環境問題を論じるうえで使われてきた用語だが、近年はビジネスシーンでも用いられるようになっており、その重要性は高まっている。そこで今回の記事では、サステイナブルの意味や提唱された背景、関連する用語(サステイナブル経営など)の意味について詳しく解説する。
サステイナブルのもともとの意味
サステイナブルとは、一体どのような意味を持つ用語なのだろうか?この章では、語源を交えつつサステイナブルの意味について詳しく解説する。
「サステイナブル」の語源
サステイナブルという用語は、英語の「sustainable」が語源だ。「sustainable」という単語には「持続できる」「耐えられる」「持続可能な」といった意味がある。もう少し詳しく解説すると動詞の「sustain(維持する、耐える)」が形容詞の形を取っている単語だ。つまりsustainableを文章で使う際には、名詞を詳しく説明(修飾)する目的で用いる。
例えば、「利益の成長を持続できる」ことを相手に伝える場合には、「sustainable growth profit(持続可能な利益の成長)」というのが正しい。つまりサステイナブル(sustainable)は、本来は何かのできごとや行為を持続的に行えることを表す際に使う用語である。
「サステイナブル」の意味合い
前項で述べた通り、本来サステイナブルは「持続可能な」「持続できる」などの意味を名詞に付け加える形容詞に過ぎない。しかし、近年は、サステイナブルという用語自体が特別な意味合いを持つ用語として認識されるようになった。具体的には、自然環境や経済活動、社会的な活動の維持など、全世界の人々に関係する大きなテーマに対して用いられることが多い。
例えば近年は、石油の枯渇が問題となっており、このままでは「車に乗る」「飛行機に乗る」などの行動ができなくなるリスクがあると言われている。そこで、代替エネルギーの開発やエコシステムの推進などにより現在の経済・社会活動を持続することを目指す動きが高まっている。このような経済や社会、自然の持続可能性を高めることを「サステイナブル〇〇」と呼んでいるわけだ。
「サステイナブル」が提唱された3つの背景
サステイナブルという用語は、この20~30年で提唱されるようになった用語の一つである。この章では、「サステイナブル」が提唱されるようになった背景を3つ説明する。
1.天然資源の枯渇
サステイナブルの概念が提唱された1つ目の理由は、天然資源の枯渇である。18~19世紀以降、世界の経済は大きな飛躍を遂げた。特に中国やインドをはじめとした新興国は、人口の増加も相まって急速に経済が発展している。こうした経済成長に伴い、2000年以降は石油や石炭などの天然資源の消費量も急激に増加傾向だ。
例えば、経済が発展すれば自動車に乗る人が増えることで石油の消費量が増加するだろう。また、生活に欠かせない電気を生み出すために、ウランなどの資源も消費される。世界的な経済成長に伴い天然資源の消費量が増える一方で、天然資源は人工で作り出せるわけでないため限りがある。そのため、今後も天然資源の消費量が増加すると予想されており、天然資源の枯渇が危惧される。
石油や天然ガスなどの資源が枯渇すれば、自動車の運転や飛行機での輸送など私たちの生活は維持できなくなるだろう。一般社団法人日本原子力文化財団の「原子力・エネルギー図面集」によると2018度末の可採年数※1は、石油が約50年(約1兆7,297億バレル)、天然ガスは約51年(約197兆立方メートル)で枯渇すると予想されている。
※1:ある年の年末の埋蔵量(reserves:R)を、その年の年間生産量(production:P)で除した数値
今後新興国がさらなる経済発展を遂げることで、より資源の枯渇は早まる可能性もあるのだ。このような深刻な事態を打破する目的で「代替エネルギーの開発」「エネルギーの再利用」といった施策によりサステイナブルな経済開発を目指す動きが高まっている。
2.環境汚染や温暖化の進行
サステイナブルが提唱され始めた理由としてもう一つ大きなものが、環境汚染や温暖化の進行である。産業革命以降、多くの国が経済発展のために工業に注力して生産活動を行ってきた。その成果もあり19世紀以降は世界全体で経済が加速度的に発展したものの、その代償として水質汚染や大気汚染も深刻化した。
現代においても、新興国を中心に経済発展のために環境汚染を繰り返している。このまま環境汚染が深刻化すると、人々の健康寿命に支障をきたしたり、森林火災や海中の生物を死滅させたりするなどのリスクが上昇すると予想されている。
また、環境汚染と同様に危惧されているのが温暖化だ。地球温暖化は、自動車や電化製品の利用といった人間活動により発生するCO2などの温室効果ガスによって引き起こされる。産業革命以降の世界的な経済発展に伴い、自動車や電化製品などの利用量は増加すると同時に、森林が減少した。結果的に大気中の CO2濃度は大幅に上昇し、地球に熱が蓄積することとなった。
CO2濃度の大幅な上昇に伴い、地球の温暖化は深刻化しているのが現状だ。このまま温暖化が進行すればゲリラ豪雨や海面上昇などの問題がさらに悪化すると予想される。
環境汚染や温暖化は、長期的に見れば地球の資源を減少させたり生活や健康に悪影響を与えたりするため、現在の生活は維持できなくなるだろう。そうした事態を避けるためにも環境汚染の防止やCO2排出量の削減が求められているわけだ。
3.地球全体での人口急増
発展途上国や新興国の急速な経済成長に伴い、地球規模で人口が急激に増加している。2019年時点で世界の人口は約77億人だった。しかし、2050年には約97億人、2100年には約110億人にまで増加すると予測されている。このような地球全体での人口増加は、前述した天然資源の枯渇や環境汚染・温暖化問題をより加速させる要因となり得るだろう。
例えば、人口が増加すれば、その分だけ自動車に乗る人が増えて石油の使用量は増加する。また、自動車から排出されるCO2も増加し温暖化の進行も早まる可能性が高い。以上のような理由により、現在の世界では持続可能な社会の実現に向けて行動を始めている。後述するサステイナブルデベロップメントやサステイナブル経営も、この章で解説した問題を解決し社会の持続可能性を高める一環として行われているわけだ。
サステイナブルに関連した用語の意味
あらゆる業界でサステイナブルが提唱されるようになった影響で、サステイナブルに関連した新しい用語も生まれている。ここでは、サステイナブルに関連する3つの用語について意味を解説していく。
サステイナブル経営
サステイナブル経営とは、一般的に以下のような考え方を指す。
「環境の保全や人権などの社会問題の解決に貢献する経営を行うことで、取引先や従業員、株主などの利害関係者からの信頼を獲得し、結果的に企業価値を向上させて事業を継続すること」
消費者やステークホルダーの価値観が変わり、環境に配慮した商品やサービスが重視されるようになった。そのため、一昔前までのように自然環境を破壊してまで自社の利益を優先していては、企業のイメージが悪化してしまい、株主からの出資を得られなかったり消費者が商品を購入しなくなったりするリスクがある。そこで必要となるのが、サステイナブル経営の考え方だ。例えば、環境に配慮した原材料を使ったり、人権や貧困などの社会問題を解決したりするようなビジネスモデルを実践する。
これにより自社のイメージを良くすることができる。その結果、商品の購入や自社への出資につながり、事業活動を持続させることが可能となる。つまりサステイナブル経営とは、環境保全や貧困問題の解決といった社会問題に重点を置くことで、戦略的に自社の企業価値を高めて事業の持続可能性を向上させる戦略といえるだろう。
サステイナブルデザイン
サステイナブルデザインとは、自然環境に配慮した商品のデザインのことだ。サステイナブル経営は環境問題に加えて貧困や人権など社会問題全体に関する考え方である。一方でサステイナブルデザインは、自然環境に配慮したデザインに限定しているのが特徴だ。例えば、「再利用できる資源を使っている商品」「本来は捨てられるはずの自然物を使った商品」などがサステイナブルデザインに該当するだろう。
また、廃棄したときにCO2やメタンなどの有害物質を排出しない商品もサステイナブルデザインの考え方が適用されていると見て取れる。サステイナブルな経営を実現する場合、突然貧困や人権問題に取り組むのはコストやノウハウの観点からハードルが高いだろう。そのため、まずは環境に配慮した(サステイナブルデザインを意識した)商品を販売することから始めると手軽にサステイナブル経営を実践できる。
サステイナブルデベロップメント
サステイナブルデベロップメントとは、「持続的な開発」という意味の用語である。従来は経済成長を目的に行う開発と環境保護は、トレードオフ(どちらかのみ達成できる)であると考えられていた。しかし、サステイナブルデベロップメントでは、環境保護と開発を同時に実現することが可能とする考え方だ。具体的には、環境保全を前提に節度のある開発を行うことを重視している。
1980年にIUCN(国際自然保護連合)やUNEP(国連環境計画)が提唱されて以来、多くの国や機関、団体がサステイナブルデベロップメントの考え方に基づいて行動を続けてきた。2015年9月にニューヨーク国連本部で開催された国連サミットでは、サステイナブルデベロップメントの考え方をより進化させた「SDGs(持続的な開発目標)」が採択された。
SDGsでは、自然環境の保護や気候変動への対策のみならず「飢餓や貧困」「不平等」「ジェンダー格差」など問題の解決に向けて17の目標と169のターゲットを掲げている。環境のみならず世界中のあらゆる問題を解決することで、立場や国に関係なくすべての人が持続可能な生活を送れるようにするのが、SDGsの大きな目的である。
「サステイナブル」をキーワードにした企業経営を追求
従来は単純に、持続可能性を表す用語に過ぎなかった「サステイナブル」は、今や自然環境の保護や社会問題の解決により経済や社会を持続させる考え方となっている。ビジネスでもサステイナブルの重要性は高まっており、戦略的にサステイナブルな経営方針や商品デザインを導入することが、自社の企業価値向上にもつながるだろう。
今後、長期的にビジネスを継続させるためにも「サステイナブル」という考え方を経営の中に取りいれてみてはいかがだろうか。(提供:THE OWNER)
文・鈴木 裕太(中小企業診断士)