会社が経営不振に陥り、事業の継続が難しくなった場合、会社が取るべき手段はいくつかある。代表的な方法は、破産手続きや民事再生、会社更生などであり、それぞれの状況に応じて選ぶ。今回は、会社が経営危機に遭遇したときに選ぶべき手段を詳しくご説明しよう。

経営危機の会社を再生させる方法

民事再生
(画像=Freedomz/stock.adobe.com)

会社が経営危機に陥ったときに取るべき手段は大きく分けて2通りある。

手段1.破産手続き

破産とは、可能な限り借金を返済し、清算する手続きだ。会社の借金が大きくなりすぎたり、取引などで支払いが困難になったりした場合に手続きを行う。

会社が破産すると社会から消滅する。しかし、個人が破産しても今までどおり生活できる。この点が、会社の破産と大きく違う。

また、個人が破産しても再スタートできるが、会社が破産すると同じ会社で再スタートできない。しかし、会社の代表者は個人の資産が処分されるわけではなく、再スタートできる。

会社は法人格、代表者は人という人格であり、それぞれは法律的に別だからだ。ただし、会社が所有していた財産は全部なくなる。

また、会社が破産すると労働環境も消滅するため、従業員は職をなくす。当然、従業員に対する未払いの賃金や退職金の支払い義務も会社に残る。

手段2.民事再生

会社を継続させる手段として民事再生がある。これは、債務者の債務を圧縮してから返済する方法だ。債務を全て返済することで債務者が再生する。この方法は個人と会社で用いられる。

民事再生では、債権者の同意を得る前提で現在の借金を減らせる。つまり、手元の借金に対して会社が可能な範囲で返済していく。圧縮された借金を全部返せば会社を消滅させずに存続できる。

経営陣を入れ替えずに経営を維持させることも可能であり、これらの点が破産と大きく異なる。

ただし、民事再生は負債が圧縮されるだけで、なくなるわけではない。また、破産とは違って債務者(会社)が主体となって手続きを進めなければならない。

では、どのような場合に民事再生を選べばよいのか。具体的なケースは以下の通りだ。

・現在の会社をそのまま存続させたい
・圧縮すれば負債を支払える
・自分(又は代理人)で債務整理などの手続きを進めたい

ただし、現在の負債を圧縮することから、手続きを進めるためには債権者全員の同意が必要だ。もし債権者(個人や会社)が同意しなければ手続きを進められない。

手段3.会社更生

会社更生は、裁判所が選んだ会社更生人が会社の更生を進めていく方法だ。会社の借金を圧縮し、スポンサーになる会社などを探す。

一般的に、この方法は大企業が活用し、個人や小規模な会社、株式会社以外の会社は基本的に選ばない。

大企業が破産すると社会に大きな影響を与え、連鎖倒産や景気の悪化につながることもありえる。その点、会社更生であれば民事再生と同様に会社を存続させられる。

民事再生と会社更生との違いは?

民事再生とは、債権者の同意にもとづき現在抱えている債務を圧縮してから返済する方法だ。経営陣を交代することなく事業を継続できる。

会社更生とは、裁判所が選任した会社更生人の主導にもとづき会社の債務を清算する手続きだ。会社を再生させる点では、民事再生と会社更生は同じだ。決定的に違う点は、主導権を握る立場である。

民事再生は会社更生と同じく裁判所を通じて手続きを行う。しかし、民事再生では裁判所が監督委員を選び、債務者はその監督委員の指示に従わなければならない。

つまり、裁判所に選ばれた監督委員が主導する形で手続きが進められる。債権者が同意しなかった場合、手続きを先に進められないどころか破産手続きに移行する。

一方で、会社更生は、裁判所が選んだ会社更生人(主に弁護士)が債権者の窓口になって交渉する。交渉のプロである弁護士が間に入るので、民事再生に比べて手続きがスムーズに進む。

ただ、会社更生では会社更生人が代わりに交渉を行うので、民事再生に比べて高額な費用が発生する。したがって、大企業が倒産を回避して事業を存続させたい場合に適した方法といえよう。

民事再生の手続き

会社更生は大企業などに適した方法であるため、あまり身近ではないかもしれない。その点を踏まえ、民事再生の手続きに絞ってお伝えする。

ステップ1.民事再生の申し立て

まず、裁判所に民事再生の申し立てを行う。この場合、民事再生法第4条にもとづき、事業所や営業所、財産が日本国内になければならない。

同時に保全処分の申し立てを行うと、債権者は会社の財産を差し押さえたり、仮処分したりできなくなる。つまり、財産を現状維持できるのだ。

それぞれの申し立ては専門的な手続きであり、会社だけで行うことは難しい。通常、民事再生を専門とする申立弁護人に手続きを依頼する。

ステップ2.監督委員の決定

裁判所に民事再生を申し立てると、裁判所は監督委員を選ぶ。民事再生法第54条にもとづき監督委員には、少なくとも1名の弁護士が任命される。

申し立てた再生債務者(会社側)は監督委員に従わなければならない。民事再生の過程で、会社は財産の管理処分権を持っているが、あくまで監督委員の管理下で行わなければならない。

ステップ3.債権者に対する説明会

申し立て後から2週間程度で民事再生の開始が決まる。会社の債権者に向けた説明会で反対意見がなければ、申立日から1週間以内に手続きが始まる。ただ、債権者が反対すると手続きがストップし、申し立てが却下されて破産手続きがスタートする。

ステップ4.財産評定と財産状況の報告

民事再生の手続き開始後は、債権者が自らの債権を明確にするために債権届出を行う。さらに会社の資産と負債を明確にするために財産評定と財産状況を報告する。なお、この手続きは、通常申立代理人の補助人である公認会計士が行う。

ステップ5.認否書の作成と提出

債権届出が行われたら、会社はその認否を行う。具体的には、債権者が届け出た債権内容について認否書を作り、債権者に提出する。債権の内容が間違っていれば当事者で話し合って調整する。

ステップ6.再生計画案の作成と提出

債権内容と会社の資産・負債が確定したら、再生計画案を作成する。民事再生を申し立てた会社は、債権届出期間が満了したら、再生計画案を裁判所に提出する。一定期間内に異議申し立てがなければ、再生計画案が有効となり、記載された計画案どおりに清算される。

以上、経営危機に遭遇したときの手段を解説した。会社を倒産させることなく存続させたい場合、民事再生や会社更生の手続きを取ることになるだろう。

いずれの方法も負債額を圧縮するため、厳密な手順を踏まなければならない。今回紹介した民事再生の手続きを参考にして、万が一のケースに備えておくとよい。(提供:THE OWNER

文・井上通夫(行政書士・行政書士井上法務事務所代表)