自社の課題や特徴を把握して、経営戦略を立案するためのフレームワークの一つとして、VRIO分析がある。VRIO分析は、自社の強みや弱みだけでなく、他社に対する優位性の発見にも活用できる。ここでは、VRIO分析の詳細やメリット、活用法などについて説明する。

目次

  1. VRIO分析とは?
  2. VRIO分析のメリット(効果)とは?
    1. VRIO分析のフレームワーク
    2. VRIO分析のフローチャート
  3. Value(経済価値)評価の狙い
  4. Rarity(希少性)評価の狙い
  5. Inimitability(模倣困難性)評価の狙い
  6. Organization(組織)評価の狙い
  7. VRIO分析の手順
  8. VRIO分析における強みのレベルとは?
  9. VRIO分析の注意点とは?
  10. リスクマネジメントにも役立てられるVRIO分析
  11. VRIO分析に関するQ&A
    1. Q1.VRIOの読み方は? 
    2. Q2.VRIO分析の目的は? 
    3. Q3.VRIO分析の方法は?
    4. Q4.VRIOのフレームワークの読み方は? 
  12. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

VRIO分析とは?

VRIO分析
(画像=tiquitaca/stock.adobe.com)

VRIO分析とは、「企業戦略論 競争優位の構築と持続」の著者である、経営学教授のジェイ・B・バーニー氏が考案・提唱した、企業が有する経営資源に注目するフレームワークだ。経営資源を4つの視点から評価し、その企業独自の強みと弱みについて分析するスキームである。

4つの視点とは以下の通りであり、これらの頭文字を取ってVRIO分析と呼んでいる。

  1. Value:経済的価値
  2. Rarity:希少性
  3. Inimitability:模倣困難性
  4. Organization:組織

冒頭で触れたバーニー氏の著書「企業戦略論 競争優位の構築と持続」では、企業が有する経営資源の中にある競争優位の源泉を見出す「リソース・ベースト・ビュー(以下RBV)」というアプローチ法が説かれている。

RBVは、1984年にB・ワーナーフェルト氏が提唱したものだが、バーニー氏がその具体的なフレームワークとしてVRIO分析を確立したことで、広く知られるようになった。

RBVにおける経営資源には、以下のようなものが含まれている。

・有形資産:企業が所有している生産設備や不動産など
・無形資産:これまで培ってきたブランドネームや特許など
・組織的能力:客対応能力など、組織としての得意領域

VRIO分析のメリット(効果)とは?

VRIO分析を用いると、経営資源という観点から自社の強みと弱みが浮き彫りになる。自分の会社のどのようなところに競争優位性があるのかが明らかになるとともに、どのような弱みを克服し、強化すべきかについても把握できることが最大のメリットだ。

言い換えれば、その企業に内在している競争優位性を明確化したうえで、優位性を維持したり、さらに高めたりすることがVRIO分析を用いる目的となる。

VRIO分析を行う際には、一覧表やフローチャートを用いながら4つの評価項目を順序立てて評価していくので、現状を視覚的にも非常にわかりやすく把握できる。

VRIO分析のフレームワーク

VRIO分析のフレームワークは、経営資源に対する4つの各視点を「YES」か「NO」で評価し一覧表にまとめたものだ。一覧表にすることでVRIOの各視点の優位性をより緻密に分析しやすく、大規模な経営戦略や施策の構築に利用価値がある。一方で、それだけ整理すべき情報も多くなるため、作業にかかる時間や手間もかかる。

VRIO分析のフローチャート

VRIO分析のフローチャートは経営資源に対して各視点が「YES」か「NO」かを回答、次の視点に進んでいく。フローチャートは、もっと簡略化した工程で作業を進められるが、一覧表と比べれば概要的な把握にとどまることもある。それぞれに一長一短があるといえよう。

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Value(経済価値)評価の狙い

VRIO分析において、最初に判定を行うのが自社のValue(経済価値)である。この観点を最優先するのは、経営資源の中に経済価値が存在しなければ、ビジネスとして成り立たないからだ。

Value評価では、自社の経営資源が、顧客、ひいては社会に対して何らかの価値を提供しているか否かを客観的に評価する。具体的には、経済価値に関するさまざまな確認項目に対して、イエスもしくはノーで評価を行っていく。

例えば、特定の設備に対する評価として、所有していることが売上の拡大やコストの低下に寄与しているか否か、といった評価項目になる。

なおVRIO分析では、以下の「Rarity(希少性)」「Inimitability(模倣困難性)」「Organization(組織)」の3つの観点に関しても、すべて個々の項目ごとにイエスかノーで回答していく。

Rarity(希少性)評価の狙い

続いては、自社の経営資源にどの程度のRarity(希少性)があるかについて評価を行う。希少性が高ければ競合に模倣されにくくなり、厳しい市場環境の中でも有利にビジネスを進められるため、顧客から高い支持を獲得することにもつながる。

例えば、とある回転寿司チェーンが製造・供給工程を完全に自動化して、大幅な人件費削減を果たしたと仮定しよう。その装置(経営資源)は業績の向上に直結しそうだが、競合も導入可能なものであれば、希少性が高いとは言えないだろう。

企業が抱えている人材にしても、極めて特殊な分野で、かつ教育・育成にも相当な時間を有するならば、競争上において優位に立っていると判断できる。しかし、現時点ではニッチな分野で強みを発揮していても、教育・育成にさほど苦労しないのであれば、他社がすぐに追随することになろう。

Inimitability(模倣困難性)評価の狙い

希少性とも深く関連する項目だが、Inimitability(模倣困難性)とは、競合他社が容易に模倣できるか否かという観点での評価である。当然ながら、誰でもすぐに模倣できるものであれば、目先は優位に立っていたとしても、その状況が持続するのは困難と言えよう。

例えば外食業界では、新たなビジネスモデルが脚光を浴びると、直ちに競合が類似店を立ち上げて対抗してくることもある。技術的な優位性があるならば特許申請によって法的に希少性をガードできるが、商品そのものやサービスなどはすぐに模倣できるため、外食業界では模様困難性を獲得するのは容易ではないだろう。

それに対して、SPA(製造小売)というビジネスモデルを確立したファーストリテイリングは、高い模倣困難性を獲得していると言える。同社のユニクロは、単に安価な服を販売するというわけではなく、品質やデザインにおいても高い評価を得られる衣料品を提供できる体制を整えており、このシステム構築は簡単に模倣できるものではない。

また、これまでに培ってきた企業の歴史的な背景も、模倣困難性に結びつく。「創業○年の老舗」という看板は、誰でも掲げられるものではないからだ。

さらに、製品・サービスが生み出されて世の中に供給されるプロセスがブラックボックス化されているビジネスも、自社以外は把握できないという点で模倣困難だと判定できる。

Organization(組織)評価の狙い

報酬体系や管理手法など、企業内のさまざまな仕組みや制度まで含めて、経営資源が積極的に活用される組織になっているかどうかを評価するのが、Organization(組織)評価の狙いである。

ここまでの3つのプロセスにおいて、その企業が有している経営資源の経済価値とその希少性、模倣困難性は明確になっており、最後に、それらのポテンシャルをフルに発揮できる組織になっているかどうかを判定するわけである。

自社のビジネスが、稀少で模倣されにくく、売上拡大やコスト抑制に結びつく経営資源を有しているにもかかわらず業績が悪いのならば、組織のあり方や運営の仕組みに何らかの問題がある可能性が高い。

例えば、高度な特許技術を用いて価格競争力の高い製品を有していながら、組織全体ではその事実をきちんと認識できていないというケースだ。明確な経営戦略が打ち出されていなければ、営業部門は容易に販売できるコモディティ化した製品ばかりを取り扱い、せっかくの技術が“宝の持ち腐れ”になりかねない。

VRIO分析の手順

VRIO分析は、常に「①V:経済的価値→②R:希少性→③I:模倣困難性→④O:組織」の順に評価を行っていく。

4つの項目がすべてイエスであれば、「持続的な競争優位(VRIO)」とみなされる。つまり、稀少で模倣されにくい高価値の経営資産を有しており、そのフルパワーを引き出す組織が構築されているとの評価になる。

逆にすべてがノーであれば「競争劣位」との判定になる。企業が有している経営資源に価値すら見出せず、組織力においても他社との競争力がないという判定となるため、事業として存続させるか否かについても考えなければならない。

一方、経営資源に価値はあるものの、他の価値がない場合は「競争均衡(V)」と位置づけられる。価値と希少性があるものの、模倣が可能で組織力がなければ「一時的な競争優位(VR)」とみなされ、他社の追随を覚悟すべき状況にある。

価値、希少性、模倣困難性についてはイエスだが、組織がノーであれば、持続的な競争優位性のポテンシャルがあるにもかかわらず、それを生かせてないことを意味する。

VRIO分析における強みのレベルとは?

VRIO分析においては、企業が有する強みのレベルを以下の3段階に分けて評価する。

レベル1:普通の強み
レベル2:独自の強み
レベル3:持続的な独自の強み

「普通の強み」は他社も持ち合わせているもので、それだけで差別化を図ることは困難だ。これに対し、「独自の強み」は競合に対して優位性を持っているが、あくまで一時的なものにすぎない。つまり、他社にキャッチアップされる可能性があるわけだ。

「持続的な独自の強み」に達していれば、競合に対して優位性を発揮し続けることが可能であり、最強の強みを有した会社であると判断されるのだ。

VRIO分析の注意点とは?

自社の強みや弱みを客観的に把握できるVRIO分析にも、注意すべきポイントがある。

まずは、VRIO分析の判定項目を緻密に設定して詳細な分析を行うことで、正確な自社の状況を掴みやすい反面、それだけ時間も要してしまうという点だ。評価の中には刻々と変化を遂げていくものもあるので、あまりにも時間を費やしていると、現実とのギャップが生じかねない。

これに加えて、定義や要件の設定が分析結果にも大きく影響を及ぼすため、それらの設定に関しては慎重に取り組む必要がある。

リスクマネジメントにも役立てられるVRIO分析

企業にとっては、不祥事の発覚などによって炎上騒ぎが起これば、経営活動への影響は計り知れない。昨今の企業にとっては、リスクマネジメントが大きな課題となっているが、VRIO分析によって自社の強みと弱みを正確に認識することが重要である。

VRIO分析によって経営分析を行うことは、リスクマネジメントにおいても大きな役割を発揮する。VRIO分析の基本を学んだうえで、自社の強みを伸ばして弱みを克服するために役立ててほしい。

VRIO分析に関するQ&A

Q1.VRIOの読み方は? 

A.VRIOを日本語読みすると「ブリオ」となり、VRIO分析は「ブリオぶんせき」と呼ばれている。VRIOは、次の4つの英語の頭文字を取ってつなげたものだ。

・Value(バリュー):経済的価値
・Rarity(レアリティ):希少性
・Inimitability(インイミテイビリティ):模倣困難性
・Organization(オーガニゼーション):組織

VRIO分析は、これらの4つの視点から自社の経営資源を評価し、自社の強みと弱み(競合優位性)を分析するものである。『企業戦略論 競争優位の構築と持続』の著者である米国の経営学教授のジェイ・B・バーニー氏が考案・提唱した企業が有する経営資源に注目するフレームワークだ。

Q2.VRIO分析の目的は? 

A.VRIO分析の目的は、その企業に内在している競争優位性を明確化したうえで優位性を維持したりさらに高めたりすることだ。自社の競争優位性を向上させることは「企業のブランド力を高める」「市場でのシェア拡大や顧客満足度を向上させる」といった観点からも大切なポイントである。社会および消費者の嗜好や意識が目まぐるしく変化する昨今ではなおさらだろう。

VRIO分析は、上述したように自社の「Value(経済的価値)」「Rarity(希少性)」「Inimitability(模倣困難性)」「Organization(組織)」の4つ視点から自社の経営資源を評価するフレームワークだ。評価といってもこれらの4つの項目に「YES」か「NO」かを答えるだけである。

しかしそのどちらかを答えるためにあらためて自社の経営資源について洗い出すことが必要だ。VRIO分析によって経営資源という観点から自社の強みと弱みが浮き彫りになり自分の会社のどのようなところに競争優位性があるのかが明らかになる。それによって「強みの質をさらに高める」「克服すべき弱みや弱みの強化」などの経営課題が明確になるのだ。

結果的に経営戦略も立てやすくなる点はメリットである。

Q3.VRIO分析の方法は?

A.VRIO分析は、「Value(経済的価値)」「Rarity(希少性)」「Inimitability(模倣困難性)」「Organization(組織)」の4つ視点について評価を行うが、評価はYesかNoで答える。その際常に「①V:経済的価値→②R:希少性→③I:模倣困難性→④O:組織」の順に評価を行っていく。

4つの項目すべてがYesであれば「持続的な競争優位」とみなされ経営資源を最大限に活用できていると考えられる。稀少で模倣されにくい高価値の経営資産を有しており、そのフルパワーを引き出す組織が構築されていると評価できるということだ。

一方、すべてがNoであれば「競争劣位」と判定される。企業が有している経営資源に対する価値が見出せず組織力においても他社との競争力がないと判定されるため、最悪の場合、事業存続の要否も考えたほうがいいだろう。

この評価および判定をするための方法には、一覧表やフローチャートを利用する方法がある。一覧表は、4つの評価項目に対するYesかNoの答えがまとめて記載されるため、現状を視覚的にわかりやすく把握できるのが特徴だ。フローチャートは、Noとなった時点でその経営資源の分析が止まってしまう。一覧表の場合に比べて簡略化した工程で分析作業を進めやすい特徴がある。

Q4.VRIOのフレームワークの読み方は? 

A.VRIOのフレームワークは自社の「Value(バリュー)」「Rarity(レアリティ)」「Inimitability(インイミテイビリティ)」「Organization(オーガニゼーション)」の4つの項目を分析するものだ。これら4つの頭文字を取ってつなげ、VRIO分析(ブリオぶんせき)と呼ばれている。

VRIO

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文・大西洋平(ジャーナリスト)

(提供:THE OWNER