働き方改革や新型コロナウイルスの影響で、テレワークの注目度は飛躍的に上昇した。ただし、テレワークをスムーズに導入するには、正しい知識を身につけることが必要だ。そこで今回は在宅勤務との違いや、テレワークを導入するポイントなどを紹介していく。

テレワークと在宅勤務の違いとは?

テレワーク
(画像=Pormezz/stock.adobe.com)

テレワークと在宅勤務は混同されがちだが、厳密には意味がやや異なる。その点を正しく理解するために、まずはテレワークの概要から確認していこう。

テレワークとは、インターネットなどの情報通信技術を活用し、場所や時間にとらわれず柔軟に働く方法のこと。インターネットの進化とともに増え始めた働き方であり、厚生労働省が働き方改革の一環として推奨している点でも広く知られている。

それに対して在宅勤務とは、自宅を就業場所として働くことだ。在宅勤務に至る理由は人によってさまざまだが、主なきっかけとしては妊娠や出産、介護、病気、ケガなどが挙げられる。

つまり、在宅勤務はテレワークの一種であり、一般的には「自宅で行うテレワーク」のことを在宅勤務と言う。

モバイルワークとはどう違う?テレワークの3つの種類を解説

ほかにもモバイルワークなど、テレワークと混同しやすい言葉はいくつか存在する。つい混同してしまいがちな方は、テレワークには以下のように「3つの種類」があることを覚えておくと良いだろう。

テレワークの種類仕事をする場所
在宅勤務従業員の自宅
モバイルワークカフェ、電車、バス、飛行機、ホテル、他社のオフィスなど
施設利用型勤務シェアオフィス、サテライトオフィス、コワーキングスペース、レンタルスペースなど

ちなみに「リモートワーク」は、テレワークと同じ意味合いで使われることが多い。ややこしい部分ではあるが、用語の意味を間違えると従業員が誤解する恐れがあるため、各用語の意味は正しく理解しておこう。

テレワーク(在宅勤務)のメリット・デメリットを徹底解説!

ここからはテレワークの中でも、「在宅勤務」を中心として解説を進めていく。

テレワークの導入を検討している企業は、通常の勤務と比べた場合のメリット・デメリットをしっかりと理解しておきたい。なかには、テレワークが適していない業種や業務形態も存在しているため、特にデメリットについては細かく確認をしておこう。

テレワークを導入する3つのメリット

まずは、テレワークを導入する主なメリットから紹介していく。

・1.移動のコストを削減できる

テレワークの導入によって在宅勤務が可能になれば、従業員の移動コストを大幅に削減できる。通勤はもちろん、取引先によってはオンラインでの打ち合わせも可能となるため、長い目で見れば多くの交通費を節約できるだろう。

また、金銭的なコストだけではなく、時間的なコストを節約できる点もテレワークの大きな魅力だ。さまざまな業務にテレワークを導入すれば、これまで無駄になっていた時間を有効活用できる。

・2.ストレスの軽減により、生産性向上を期待できる

従業員が通勤のストレスから解放される影響で、生産性が向上する点もメリットとしては非常に大きい。特にこれまで満員電車で通勤していた従業員は、人混みから解放されることで精神的な負担が大きく軽減する。

また、会社全体でテレワークを導入すると、社内での予定外の会議や連絡が発生することを防げる。細かい部分ではあるが、業務が中断される可能性を抑えられるため、各従業員の集中力を維持しやすくなるだろう。

・3.良質な人材を確保しやすくなる

多くの労働者にとって、テレワークが導入されている企業は魅力的に映る。さらに、労働時間短縮制度などと組み合わせて導入すれば、さまざまな形での働き方が可能となるため、幅広い層の求職者が集まるようになる。

つまり、中小企業にとってテレワークの導入は、「人材不足への対策」にもつながるだろう。

テレワークを導入する3つのデメリット

次は、テレワーク導入のデメリットを紹介する。自社なりの対策を考えながら、各デメリットをしっかりと確認していこう。

・1.コミュニケーション不足が生じやすい

テレワークを導入すると、上司や同僚と顔を合わせる機会が減少するため、どうしてもコミュニケーション不足に陥りがちになる。あまりにもコミュニケーションが不足すると、業務がスムーズに進まなくなるので、各従業員が丁寧なやり取りを心がけるなどの対策が必要だ。

そのほか、従業員同士の勤務時間にズレが生じることで、そもそも連絡がつかない可能性が高まる点も事前に意識しておきたい弊害だろう。

・2.正当な評価が難しくなる

勤務状況を監視できないテレワークでは、正確に勤怠管理をすることが非常に難しい。場合によっては、「いつ働いているのか?」という点さえ把握できないので、従業員を正当に評価しづらいケースも出てくるはずだ。

仕事の結果や成果物で評価をする手段もあるが、この方法では勤務態度や雑用など、結果として現れない部分は評価できない。したがって、従業員の間で不平等感が生じないように、特に評価システムは慎重に作り直す必要がある。

・3.場合によっては生産性が低下してしまうことも

勤務時間とプライベートの線引きが難しい点も、企業側が知っておきたいテレワークのデメリットだ。たとえば、仕事に適した環境が自宅になかったり、家族から家事を押し付けられたりすると、従業員の集中力はどうしても途切れてしまう。

その結果、本来は生産性を高めるためのテレワークであるはずが、結果的に生産性が低下してしまった例も存在する。社内でのルールを明確にするなど、従業員の集中力を保つような仕組みは、テレワーク導入の前にぜひ考えておきたい。

テレワークをスムーズに導入するポイント

新型コロナウイルスの影響でテレワークを導入する企業は増えたが、これは全国的に必要な対策であったため、本来の意味でテレワークが広く普及したとは言えない。なかでも国内の中小企業の業務は、テレワークには適していないケースが多いので、日本は海外に比べてテレワークの導入が遅れていると言われる。

では、スムーズにテレワークを導入するには、どのような点を意識すれば良いのだろうか。以下では、企業がテレワークを導入する際に意識したい3つのポイントをまとめた。

1.こまめな情報共有を徹底する

その場の雰囲気や暗黙の了解で業務を進めると、コミュニケーション不足に陥るばかりか、深刻なミスが発生するリスクも高まる。そのため、テレワークではグループウェアやビジネスチャットツールなどを活用しながら、「こまめな情報共有」を心がけることが必須だ。

特に在宅ワーカーとオフィスワーカーが混在する企業は、両者の間で情報格差が生じないように対策をしておこう。

2.評価方法と勤務管理方法を明確にする

前述でも触れたが、テレワークでは「評価方法」と「勤務管理方法」を明確にする必要がある。これらが曖昧になっていると、従業員の間で不平等感が広まっていき、結果として生産性の低下を引き起こしてしまう。

また、いくら自宅で仕事をするテレワークとは言え、できれば勤務の開始時間と終了時間はきちんと確認をしておきたい。開始時間・終了時間をチェックすることは、程よい緊張感を保つことにもつながる。

3.テレワークの種類を使い分ける

テレワークを導入したからと言って、在宅勤務だけにこだわる必要はない。状況によってはモバイルワークや施設利用型勤務をとり入れたほうが、業務全体の効率は上がるはずだ。

もちろん、必要が生じればテレワーク自体を一旦中止し、オフィスワークに戻す方法でも問題はない。テレワークはあくまでも生産性を高める手段のひとつなので、テレワークだけにこだわりすぎず、広い視野で労働環境を整えていこう。

テレワークは従業員側の意識も重要に!成果や評価を上げるコツ

テレワークによって生産性を高めるには、言うまでもなく従業員側の協力も必要になる。特にテレワークに慣れていない従業員に対しては、会社側から「成果や評価を上げるコツ」を伝えておくことが重要だ。この点を伝えるだけで、各従業員は自宅での正しい働き方や、意識の持ち方などを考えるようになる。

従業員が成果や評価を上げる具体的なコツとしては、たとえば以下の点が挙げられる。

・オフィスと同じような環境を作り出す
・「1時間ごと」のように時間を決めて、目に見える成果を目指す
・連絡事項によって、使用するコミュニケーションツールを変える
・スケジュール管理とタスク管理を分ける

上記の中でも「使用するコミュニケーションツール」は、意外と見落としがちなポイント。すぐにでも重要事項を伝えたい場合には電話、エビデンスを残したい場合はメールのように、テレワークでは業務内容に合わせてツールを選ぶことが重要になる。

また、予定通りに業務を進めたいのであれば、「スケジュール」と「タスク」は分けて管理することが必要だ。まずは大まかなスケジュールを決めて、そこから具体的なタスクを設定することで、より効率的な計画を組み立てられるようになる。

このようなコツやポイントを従業員が押さえるには、企業側の協力が必須となるため、従業員の環境づくりは積極的にサポートしていきたい。

テレワークを導入した成功事例

もう少しテレワークのイメージをつかむために、最後にテレワークの成功事例を3つほど見ていこう。

○Web会議を活用したテレワーク/パナソニック株式会社

総合エレクトロニクスメーカーのパナソニックは、生産性向上とワークライフバランスの実現を目指して、2007年からテレワークを本格導入している。当初はコミュニケーション不足を懸念する従業員も見られたが、テレワークの頻度を週2~3回に抑えたり、月間3,000~4,000回ものWeb会議を開催したりすることで、スタッフ間でのコミュニケーションを図ってきた。

この施策が見事に功を奏し、全従業員のうち7割超が「生産性の向上」を実感。なかには、5割増しの効率アップを報告する従業員も見受けられた。
○多様な働き方を実現したことで、優秀な人材を獲得/株式会社LiB

人材紹介業を営むLiBは、育児中の女性や地方人材などをサポートする目的で、「メンバーシップオプション」と呼ばれる制度を実施。この制度によって在宅勤務を導入するとともに、勤務時間中に他社の業務を並行して行うことも認めた。

リスクが増えそうな制度にも見えるが、結果として同社は優秀な人材の確保に成功している。複業を行う従業員同士が良い影響を及ぼし合い、「人材の定着」につながった点も、この施策の大きな成果と言えるだろう。
○前準備として、バーチャルオフィスを導入/株式会社ソニックガーデン

東京のソフトウェア企業であるソニックガーデンは、社員の在宅勤務が増え始めた2016年に、「オフィスを撤廃する」という大胆な施策を講じた。ただし、いきなり全てのオフィスを撤廃すると弊害が生じるため、同社は雑談やコミュニケーションを図る場として、仮想空間にバーチャルオフィスを創設。

最終的に物理的なオフィスは撤廃されたが、従業員がバーチャルオフィスの世界観に慣れたことで、同社はスムーズなテレワーク導入を実現している。

上記の事例を見てわかるように、テレワーク導入の流れや仕組みは企業によってさまざまだ。自社のスタイルに合った導入方法を見つけることが、生産性向上などのメリットにつながっていく。

テレワーク導入を検討している企業は、上記の成功事例も参考にしながら、自社に必要なルールや制度、環境などを慎重に考えていこう。

自社のスタイルに合った導入プランを検討しよう

本記事で解説してきたように、テレワークは在宅勤務を命じただけで導入できるものではない。特に会社のオフィスと自宅では、業務に取り組む環境が大きく異なるため、従業員が戸惑わないように企業側はしっかりとサポートすることが必要だ。

今回紹介した導入のポイントや成功事例などを参考にしながら、自社に最適な導入プランを慎重に検討してみよう。(提供:THE OWNER

文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)