8年ぶりに下落傾向に転じた地価、今後もトレンド継続へ
AAAコンサルティング 副社長 COO(不動産鑑定士・CMA) / 賀藤 浩徳
週刊金融財政事情 2020年8月31日号
本欄4月27日号で不動産価格の下落を予想したが、取引事例や鑑定価格に明確に現れてくるには時間を要すると考えていた。しかし、国土交通省が8月21日に発表した地価LOOKレポートにより、すでに地価は下落していることが明らかになった。
「レポート」は、主要都市の地価動向を先行的に表しやすい高度利用地等全国100地区について、四半期ごとに地価動向を把握するものだ。不動産鑑定士が種々の情報を収集し、不動産鑑定評価に準じた方法で行う。これによれば、前期(2020年1~3月期)は地価の下落地区は全体の4%であったが、今期(20年4~6月期)は38%となった(図表)。また、前期は73%の地区で地価が上昇したが、今期上昇した地区は1%にとどまる。今期以降、突然真逆の風向きになったのである。ちなみに、「下落」が上位の構成率になったのは、8年ぶりである。
下落地区はほとんどが商業地だが、名古屋市、大阪市、京都市では、住宅地においても下落が見られる。国土交通省のコメントには、「リーマンショック時の地価下落の主因となった、マンションやオフィスの需給バランスに大きな変化は見られていない」とあるものの、「レポート」中の鑑定士コメントをつぶさに見ると、マンション素地(用地取得対象となる民有地)など住居系への影響も無視できず住宅地の地価下落へとつながっている。CBREによれば、東京ではオフィスの新規想定成約賃料が、今期8年ぶりに下落に転じた。
コロナ禍でホテル・店舗系不動産の稼働が大幅に悪化し、価格下落が見られる一方、物流施設はネット通販の拡大で堅調な推移が見込まれ、投資対象として最も選好されやすい資産分類となっている。しかし、物流施設に関する見通し等についての最近のアンケート調査(一五不動産情報サービス)の結果は、依然強気の見方が大半であるものの、価格・賃料の下落を予想する回答者が徐々に増えてきており、物流市場でも転換点を迎えたとの見方がある。
第一生命経済研究所は、経済が以前の水準に戻るのは24年末ごろとの見通しを示しており、先行き不透明感は払拭されそうにない。企業業績も悪化しており、今後、不動産への影響があらためて浮き彫りになる可能性が高い。金利が低位安定していることが救いだが、前述の状況から、20年4~6月期以降も継続的な地価下落が標準シナリオと筆者は考える。
(提供:きんざいOnlineより)