シンカー:鉱工業生産指数は持ち直しの動きが明らかになってきた。先行きを見ても、輸出の持ち直しに加え、消費・設備投資という内需が支えとなるだろう。在庫水準は大きく低下しており、今後の生産持ち直しの動きを支えるだろう。新型コロナウィルス問題による生産活動の底割れの危機は既に脱したとみてよいだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

7月の鉱工業生産指数は前月比+8.0%と、2か月連続で上昇した。

7月の実質輸出が同+7.4%と、同じく2か月連続で上昇したのと整合的だ。

2月から5月までに、新型コロナウィルス問題などによる経済活動の停滞で、鉱工業生産指数と実質輸出は両者とも20%程度も低下した。

50%程度も減少した自動車を含む輸送機械工業だけで、生産の減少の半分程度を説明できることになる。

鉄鋼や非鉄金属などの生産への波及を考えれば、自動車の影響はより大きいものとなろう。

米国向けを中心に自動車輸出が大きく落ち込んだ影響が強い。

6・7月には、米国で自動車販売の持ち直しが確認され、自動車や部品に挽回生産の動きで、生産は持ち直した。

6月の輸送機械工業の生産は前月比+24.1%と増加した後、7月も引き続き同+30.5%と強く増加した。

4-6月期の実質GDPは前期比年率-27.8%と、緊急事態宣言などの経済活動の低迷の影響で極めて弱い結果であった。

一方、実質輸入は同-2.1%と堅調であった。

中国の生産活動が再開し、消費財(感染対策と在宅勤務対応など)や部品を中心に持ち直しの動きがみられる。

米国の自動車販売の持ち直しと、中国の生産活動の再開が進むことによるサプライチェーンの正常化で、日本の鉱工業生産の持ち直しにも勢いがついてくる可能性がある。

更に、4-6月期の実質設備投資も同-5.8%と、実質GDPをアウトパフォームし、実質設備投資のGDP比率は16.1%から17.2%(1992年以来の水準)へ上昇した。

短期の業況感に左右されない、人口動態にともなう労働需給逼迫を含む生産性と収益率の向上の必要性、AI・IoT・ロボティクス・5Gを含む技術と産業の革新、遅れていた中小企業のIT投資、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、研究開発が大きな後押しとなっているとみられる。

政府の経済政策などの支援もあり、コロナショック下でのIT技術の活用の経験がデジタル・トランスフォーメーションなどのイノベーションを促進するだろ。

機械受注統計でも、情報通信機械の受注は1-3月期前期比+2.0%、4-6月期同+18.4%と、衰えを見せてはいないようだ。

IT関連を中心とした設備投資の拡大が、鉱工業生産の持ち直しに勢いをつけてくる可能性がある。

6・7月の耐久消費財の出荷は、前月比+21.7%・+24.7%と強く持ち直しており、消費活動の持ち直しは、サービス関連はまだ弱いものの、財関連は強くなってきていることが確認できる。

在庫指数は3か月連続で低下し、2017年9月以来の水準まで低下し、今後の生産持ち直しの動きを支えるだろう。

8月の経済産業省予測指数は前月比+4.0%と堅調で、9月も同+1.9%となり、7-9月期の鉱工業生産指数は前期比+9.5%と、4-6月期の同-16.9%の落ち込みから持ち直すことが予想されている。

経済産業省は鉱工業生産の判断を 「下げ止まり、持ち直しの動き」から「持ち直しの動き」へ変更し、持ち直しが明らかなことを示した。

新型コロナウィルス問題による生産活動の底割れの危機は既に脱したとみてよいだろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司