シンカー: 8月の雇用統計は、前月比の伸びはコンセンサスに近い結果となったものの、失業率は8.4%と10%を大きく上回る水準まで低下し、総じて好調な内容となった。この雇用統計の結果を受けて、FEDのパウエル議長は雇用統計が良好な内容だったとの見解を示したが、同時にここからの回復の道のりはさらに厳しくなるとし、ガードを緩めることなく低金利が長期にわたって継続することを再確認した。また、FEDだけではなく財政による支援が引き続き重要であることを強調している。現在、追加の経済対策について共和党、民主党の間の議論が膠着した状態が続いているが、強い雇用統計を受けて財政政策に消極的になるリスクを意識しているのかもしれない。雇用統計が好調だった一方で、航空、レジャー産業ではリストラの第二波が来るとの懸念も高まっており、今後政府の対応の遅れが労働市場、そして金融政策の効果に悪影響を与えることを避けられるかが注目だ。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・経済指標・クイックコメント集

●米NFP (9/4): 1371k (予想1350k / 過去1763k -> 1734k)

●米失業率 (9/4): 8.4% (予想9.8% / 前回10.2%)

●米平均時給 (9/4): MoM 0.4% (予想0.0% / 前回0.2% -> 0.1%) / YoY 4.7% (予想4.5% / 前回4.8% -> 4.7%)

・8月の非農業部門雇用者数は前月比1371k(cons: 1350k)、失業率は8.4%(cons: 9.8%)と労働市場は4か月連続で改善を示している。
・ただ、今回の増加には2020年の国勢調査のために一時的に雇用された政府部門の労働者が2380k含まれている。
・民間部門では、小売りをはじめとして幅広い業種で雇用の増加が確認され、前回よりもペースは減速したものの回復が進んでいるようだ。
・平均時給は前月比0.4%、前年同月比4.7%となっており、コロナを背景に変動が大きい状態は今後も継続するとみられる。
・8月の雇用統計は総じて好調な内容となったが、リスクとしては今後政府内で追加の財政政策を行う機運が低下してしまうことだろう。

●米ISM非製造業指数 (9/3): 56.9 (予想57.0 / 前回58.1)

・8月のISM非製造業指数は56.9とコンセンサスの57.0をわずかに下回り、先月から小幅に低下した。
・新規受注指数は56.8と前回の67.2から低下する一方、入荷遅延指数は60.5と前回の55.2から大幅に上昇し、需要が持ち直す中で供給面の問題の継続を示唆している。
・雇用指数は47.9と引き続き50を下回る水準ではあるものの改善がみられ、一部で経済活動再開が進む一方で、必要な人員を確保するのに苦労しているとの声もあった。
・まだ活動を再開できていない業界も多く、財政刺激策、コロナ再感染などの不透明感が継続する中で回復ペースは落ちてきているようだ。

●米ISM製造業 (9/1): 56.0 (予想54.8 / 前回54.2)

・8月のISM製造業指数はコンセンサスを上回って上昇、特に新規受注指数は67.6(2004年1月以来の高水準)と好調な結果を示している。
・その他の指数も総じて上昇している一方で、在庫指数が減少したことは経済活動の正常化を受けて生産が活発化していることを示唆。
・原材料価格が持ち直す中で価格指数も上昇が続いており、企業の価格決定力が強くなっている可能性があるだろう。
・今回の結果は比較的明るい内容となったものの、一方で企業は設備投資や雇用に慎重な姿勢を続けているようだ。

●米NY連銀製造業景況感指数 (8/17): 現況3.7 (予想15.0 / 前回17.2)・期待34.3 (前回38.4)

・8月のNY連銀製造業景況感指数は予想以上に低下、持ち直しは続いているものの、7月と比べてペースは緩やかになってきている。
・内訳では、新規受注、出荷などで減少がみられた一方、 雇用、仕入価格、販売価格で持ち直しがみられた。
・7月はロックダウン措置の解除などを背景に大きく反発したものの、感染者数の増加といった不透明感が引き続き重しになっているようだ。
・多少は低下したものの期待指数は引き続き高水準で企業は将来への楽観を保っているが、米中間の緊張感の高まりなどが企業センチメントに悪影響を与えるリスクもある。

●米小売売上 (8/14): 1.2% (予想2.1% / 前回7.5% -> 8.4%)

・7月の米小売売上高は前月比1.2% (prev: 2.1%)と3か月連続で増加したが、予想は下回った。
・ロックダウン措置の解除などを背景に電化製品、衣料品、飲食店などを中心に改善が継続したものの、伸びは減速している。
・7月末で週600ドルの失業保険の上乗せが期限を迎えたことも家計動向に影響を与えるとみられ、与野党の協議の行方が注目される。
・今後も消費者動向は政府のサポートの影響に大きく左右されると見られ、いかに需要の喪失によるデフレに陥ることを避けるかが重要になってくる。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司