シンカー:7月には米国向けの自動車の輸出が大幅に増加、米国の小売統計でも自動車販売の持ち直しが確認されており、7月の鉱工業生産で自動車や同部品に挽回生産の動きがみられたことと整合的だ。一方で、欧州においては製造業における回復ペースが鈍化していることが示されており、欧州向けの資本財輸出は今後も弱い状況が継続する可能性があるだろう。貿易収支は改善したものの、新型コロナを背景とした海外の子会社の業績悪化などが直接投資収益の悪化を通じて経常収支の黒字幅増加をオフセットしている。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

米国向け自動車輸出の持ち直しは鉱工業生産の結果と整合的

7月も経済活動再開に向けた動きが継続し、特に米国向けの自動車の輸出が大幅に増加した。米国の小売統計でも自動車販売の持ち直しが確認されており、7月の鉱工業生産で自動車や同部品に挽回生産の動きがみられたことと整合的だ。一方で、欧州においてはドイツをはじめとして製造業における回復ペースが鈍化していることが示されており、欧州向けの資本財輸出は今後も弱い状況が継続する可能性があるだろう。今後も輸出の持ち直しが続けば、経常収支の黒字幅も拡大するとみられるが、新型コロナ危機が継続する中で見通しは不透明だ。また、第一次所得収支は黒字が継続しているものの黒字額は減少し、新型コロナを背景として海外の子会社における業績が悪化、配当の減少などが直接投資収益の減少として表れている可能性があるだろう。ただ、短観やGDPの結果が示しているように日本の企業による投資意欲は底割れしておらず、コロナ問題が落ち着くにつれて再び対外直接投資が再び活発化していくとともに、直接投資収益も持ち直していくとみられる。

経常収支(兆円、季調)

経常収支(兆円、季調)
(画像=財務省、SG)

国内投資家によるイタリア国債への投資が再び増加

7月の国内投資家による米国ソブリン債(含むエージェンシー)への投資は、2兆258億円の買い越しとなり、引き続き米国債への需要の強さが示された。同時に、イタリア長期ソブリン債が3727億円の買い越しとなり、2005年以降で最大の買い越しとなったことが注目を引いた。イタリア10年国債利回りは6月末の1.27%程度から7月末には1.01%程度と大幅に低下している。格下げのリスクが遠のいたとみられる中、PEPPと復興基金への期待を背景として、キャリーの魅力が大きいイタリア国債への非居住者による需要は継続しているようだ。

国内投資家によるソブリン債投資(累積、兆円)

国内投資家によるソブリン債投資(累積、兆円)
(画像=財務省、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司