シンカー: 菅官房長官は、消費税は将来的に引き上げざるをえない、と発言した。安倍政権で、基礎的財政収支の黒字化目標を2020年度から2025年度にを先送りしたことがお守りになり、引き上げはかなり先の話であり、目先は新型コロナウィルスとデフレ克服のための緩和的な財政政策を継続すると冷静に受け止めることはできる。しかし、野党が消費税引き下げでまとまり、消費税が争点化してしまえば、早期の衆議院解散で連立与党が大きく議席を減らすリスクは大きくなるだろう。消費税に対して拒否反応が出てしまうほど、新型コロナウィルス問題などにより多くの国民の生活は困窮しているからだ。大きな財政措置による更なる家計支援、例えば再度の現金給付や所得税の定率減税などが、消費税を争点化させないために必要だと思われる。かなり先の消費税率引き上げができる経済状況にすることを目標にして、目先の財政拡大によりデフレ完全脱却の力を強くするのも一つの戦略だ。もちろん、消費税率引き上げはデフレ完全脱却宣言後という条件付きになる。更に、消費税率引き上げをベーシックインカムの一部の財源にするなど、更なる予算規模の財政拡大の種にしてしまうこともできるかもしれない。団塊ジュニアが年金受給者となる約20年後までは、企業と政府のネットの金融負債の状態をみれば、消費税率引き上げは必要ないとみられる。高齢化がかなりの速度で進行したこの20年間でも、企業と政府のネットの金融負債(除く株式・出資金)のGDP比は110%程度で極めて安定している。言い換えれば、日本の財政構造は安定していることを示す。これから団塊ジュニアの高齢化まで、高齢化比率の上昇は緩やかになる。それまではできる限り財政から経済に負荷をかけず、経済活性化が投資を誘発することによる生産性向上を目指すべきだろう。単純な財政緊縮となり、経済と投資停滞のリスクとなるような消費税率引き上げは止めるべきだろう。菅官房長官も、今後10年間は引き上げは不要であるという安倍首相と同じ考え方だと発言を補足している。

図)企業と政府のネットの金融負債

企業と政府のネットの金融負債
(画像=日銀、内閣府、SG)

グローバル・レポートの要約

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

●欧州経済(9/11):ECB理事会:ユーロ高への強い抵抗は無し、インフレ予測を 引上げ

ECBは、金融政策決定に関するプレスリリースを7月政策理事会から事実上変更しなかったが、考えられる追加策を議論する準備はしていないというシグナルを明確に発した。代わりにラガルド総裁は、ユーロ高懸念、インフレ見通し、景気回復の力強さに関して余りにも中立的で、市場が完全に安心することは無かったかも知れない。弊社は、このことが示すのは様子見を続けたいという希望や意図ではなく、追加情報の必要性(特に、労働市場やバランスシートが弱くなる可能性があり、財政政策からの取組みも薄れる、2021年の景気の力強さについての情報)だと考えている。コアインフレ率のECBスタッフ予測が驚くほど上方修正されたが、金融政策や財政政策のポジティブな影響ということで一部は説明がつく。だが弊社は、6月予測が過度に悲観的だったことを映した面が強いとみている。ECBは現時点では、インフレ率予測は弊社と同様だが、今年のGDP成長率に関しては引続き弊社より悲観的だ。また2022年インフレ率予測が低水準(1.3%)なことで、ECBは何故追加策を打ち出さないのかという疑問が出てくる。弊社は、ECBは12月にPEPPを調整するまで待っているだけだと考えている。

●債券市場(9/14):“様子見”モード

最近の債券相場下落は、インフレに対する懸念や米連邦準備制度理事会(FRB)の平均物価目標へのシフトによるものではなく、新規供給の余地を生み出す意味合いがあるのかもしれない。ただ、インフレ・リスク・プレミアムが再び大きく拡大すれば、どのみち相場の下落は避けて通れなくなる。8月の米国債四半期定例入札や欧州の供給シーズン再来を受けて、我々はこれから年末に向けた債券売りやイールドカーブのスティープ化を確信している。中央銀行が任意に買い入れを強化できるため、債券相場の下落はかなり抑制的なものになるはずだ。投資家はキャリー・トレードに満足しており、スプレッド拡大の動きを抑えるのにパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)が用意されている。こうした環境では、ユーロ圏周縁国のスプレッドに良好なパフォーマンスが期待できよう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司