シンカー:SGマルチ・アセット・ポートフォリオ(MAP)では四半期ごとにマクロの経済・マーケット見通しを考慮したグローバルかつクロス・アセットのアセットアロケーションを推奨している。先日公表した最新のMAPでは、2021 年 1Q まで市場は引き続き3 つの主要テーマに牽引される可能性が高いと判断している。財政政策主導による景気刺激を通じた経済復興の推進; 早期の引き締めはしないという各国政府の明確なコミットメント、中央銀行による新発国債 および社債購入を通じた大規模なマネタイゼーションを考慮したアセット・アロケーションが必要と判断している。ただ、その後のV字回復モメンタムの鈍化局面への備えを考える必要があるだろう。引き続き、リスク資産へ対して強気姿勢を維持する中、景気回復や政策効果によるインフレ期待の上昇に対するヘッジの強化やグロースというテーマへの過度な集中を修正する必要があると判断した。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

SGマルチ・アセット・ポートフォリオ(MAP)では四半期ごとにマクロの経済・マーケット見通しを考慮したグローバルかつクロス・アセットのアセットアロケーションを推奨している。現在のグローバルな市場の動きは2021年前半まで続くだろう。米国株への過度な集中化の修正やV字型景気回復のモメンタムが鈍化した局面に対しての備えを考え始める必要があると判断した。日本株に関しては、引き続きファンダメンタルスは堅調であるが、安倍首相の辞任を受け、次期首相がアベノミクスの政策をすべて継承し、日本経済の拡大モメンタムが維持されるかを判断するためエクスポージャーを若干引き下げた。

●インフレヘッジを強めるためにリンカーへのエクスポージャーを復活

新型コロナウィルスの対応として各国政府は過去になり水準での財政拡大に踏み切った。また、金融政策も昨年から一転し、今までの利上げをすべて消す形の緩和策へ踏み切った。失業率の上昇と、低金利環境の長期化による多くのゾンビ企業を延命させることで世界的にインフレ率はしばらくの間、低水準にとどまろう。しかし、FRB と ECB の直近の政策シフトは 明らかにインフレ期待を高めることを意図している。また、過去に類のない緩和的な財政政策は中期的なインフレ圧力を強めているだろう。弊社では6月時点で、中期的なインフレ期待の上昇に対してのヘッジを始める必要性を唱えた。新型コロナウィルスの問題が落ち着き、企業が今回の危機の教訓をビジネスプランに反映させ始め、サプライチェーンの見直しや危機時の安定した供給体制の強化に踏み切るだろう。そうなると、安定供給に対するプレミアムを価格に反映させる動きも強まる可能性があり、コストプッシュインフレは加速するだろう。商品市場は景気回復が進み、需要が回復しても、供給サイドが協調的な減産などで供給量が調整され、価格の上昇圧力は維持される形は保たれているだろう。弊社では物価連動債(リンカー)より商品がより魅力的と考えていたが、政策当局が低金利環境を長期化するコミットメントをより明確化したことで、実質金利の上昇も下がった。結果的に、今回は商品への投資ウェイトを最大で維持したと同時に、米物価連動債へのエクスポージャーも引き上げた。

●安倍首相辞任を受け、後任の政策先行きを判断するために日本株のエクスポージャーを若干引き下げたが、世界的な株式へのエクスポージャーは引き上げ

マーケットではグロースというテーマを好意的に捉えているが、大いに喧伝されているごく少数の米国株にポートフォリオを大きく集中化させることには強く反対している。米テクノロジーセクターは よりボラタイルになると予想されるため、米国以外で投資可能なその他のグロース資産に資金 を分散化させることを勧めたい。循環的な景気加速が 2021 年の主な特徴になるとみられるア ジアの株式は魅力的だと見ている。また、FRB の新たな政策枠組みとファンダメンタルズの改善によるさらなる追い風を背景に、株式に一段の上値余地があると判断し、米国のエクスポージャーを維持しながら中国株と新興市場株へのアロケーションをそれぞれ 3 ポイント引き上げた。ウェイトは中国本土株を最大ウェイトに引き上げることを推奨する。また中期的な成長へのエクスポージャーを拡大するために、複数年にわたる構造的成長をもたらす欧州のグリーンディールやアジアの 5G などメガトレンドテーマも魅力があると考える。今後の、リスク資産のモメンタムがさらに強まると の見通しと早期のワクチン開発進展の可能性も考慮し、株式市場へのエクスポージャーは49%とポートフォリオ全体の約半分を株式に割り当てている。一方で、、安倍首相の辞任を受け、後任がアベノミクスの枠組みを維持できるかのリスクが一時的に高まったことから、日本株のエクスポージャーを2ポイント引き下げ、様子見姿勢を強めた。ただ、引き下げは日本経済や日本企業へ対する見方を大きく変えたためではなく、引き続き、企業のバランスシートが健全な日本株は今後の回復局面やその後のニューノーマルでアウトパフォームするポテンシャルを維持していると考えている。

●イールドカーブのスティープ化リスクに備えるためにも国債エクスポージャーを引き下げ

FRB と ECB の直近の政策シフトは欧米の実質債券利回りを人為的に 低く維持することになるだろう。ただ、景気回復モメンタムが強まるにつれ、インフレ期待が強まり、名目金利は上昇するだろう。また、欧米各国政府が大規模な経済対策を実施するために国債の追加発行に踏み切り、国債は過供給の状態になるだろう。イードルカーブへののスティープ化圧力は強まる可能性がある。一方で、既に低下している金利が更に低下する可能性は低く、国債のトータルリターンのアップサイドは限定的だろう。インフレヘッジを強めると同時に今後のスティープ化に向けての備えとして、米国債のエクスポージャーを6%から0%へ引き下げる。ただ、中期的には欧米債利回りが上昇してくるとそれ自体が投資根拠となり、国債への資金フローが復活するだろうがそれにはまだ時間がかかるだろう。

●引き続き、クレジットへの投資を推奨しているが中期的なクレジットスプレッドの拡大に向けて準備を開始

4月のMAPで社債への投資推奨を大幅に引き上げた。新型コロナウィルスの感染拡大で企業の先行き不透明感が強まり、リスクプレミアムが上昇し、社債スプレッドは拡大する一方で、各国政府の政策対応の効果もあり、今後のリータンを確保する機会が増えていると判断した。その後、中央銀行は引き続き、社債買入の拡大や信用供与プログラムの追加などで企業の資金繰りを支えていた。新型コロナウィルス後のポリシーミックスによるクレジットのリターンの拡大(クレジットスプレッドの低下)は一服し始めている。米ハイイールド債 に新たなリスクの非対称性が生まれ始めている。米企業のデフォルト・レートも若干上昇し始めている。リーマン危機時やITバブル崩壊後のデフォルト水準に比べればまだ格段に低く、同じような形になるリスクも小さいだろう。ただ、足許のクレジットラリーの一服感、年末までのスプレッド縮小の最終段階に入っていること、2021 年 前半には景気モ メンタムが現在の V 字回復から鈍化し始め、クレジットスプレッドが上昇する可能性を考慮し、クレジットのウェイトを 2 ポイント引き下げた。ただ、クレジットのエクスポージャーは23%と引き続き高い水準を維持している。

図)SG マルチ・アセット・ポートフォリオ

SG マルチ・アセット・ポートフォリオ
(画像=SG)

図)SGマルチ・アセット・ポートフォリオのパフォーマンス

SGマルチ・アセット・ポートフォリオのパフォーマンス
(画像=SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司