(本記事は、中山 亮氏の著書『社長、僕らをロボットにする気ですか?』2020年8月28日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

本当に使えるマニュアルとは?

社長、僕らをロボットにする気ですか?
(画像=rido/stock.adobe.com)

マニュアルが会社の成長基盤を作る

この章では、正しいマニュアルを作り、導入することで、会社や業務がどれだけ変わるかについて説明していきます。

第一章でも説明しましたが、マニュアルとは「目的に応じた行動が明示され、求められる結果を誰もが再現できる」ためのルールであり、ツールです。仕事のうえで「マニュアルがない」ということは、「ルールがない」ということになります。

ルールがないと、人は自分のやり方で仕事をします。

そのやり方は、その人の経験や勘から生まれます。これがいわゆる「暗黙知」です。暗黙知はそれぞれの個人の中に蓄積されていきますが、主観的な知識なので、それをほかの人と共有することは簡単ではありません。

しかし、集団で仕事をする以上、個人が持つ暗黙知に依存していては、仕事は成り立ちません。そこにはルール=基準があるべきです。そこで、主観的な知識(=暗黙知)を客観的な知識(=形式知)に置き換える必要があります。

つまり、暗黙知を可視化し、形式知化したものがマニュアルなのです。

マニュアルにはこれだけの効果があります。

①工夫を共有できる
②正確な習得と検証ができる
③業務のよりどころになる
④ムリ・ムラ・ムダに気づき、改善効果がある
⑤思い込みに気づく
⑥現場力が鍛えられる
⑦経営の思想や期待を共有できる

その結果、コストも大幅に削減されます。さらに、社員の質がボトムアップされることは、成果に直結します。マニュアルを導入することで、会社が成長していくための成長基盤ができあがるわけです。

しかし実際のところは、「もう基本は身についているから大丈夫」「マニュアルは知っているけど、違う手順の方が、早く仕上がるよ」などと、マニュアルを脇に置く感覚が、結構心の中にあるんじゃないでしょうか。

僕自身は、マニュアルを読むのが好きなほうでしたが、それが会社を成長させるものだとは思っていませんでした。しかし、そんな僕がやらかした″失敗″と″苦手″にしていたことがきっかけで、2.1のマニュアルは生まれたのです。

″すごい″マニュアルとの出会い

僕が″失敗″して″苦手″になったもの。それは部下マネジメントです。実は初めて部下を持ったときに、自分の都合だけで行動したことで部下が離反し、僕を批判するメールが全社員に送られたという事件がありました。これは、新卒で入社したシステム会社での出来事です。

当時の僕は、
「なんで部下は自分と同じようにできないんだ?」
「仕事ができない人間には任せられない」
「一番仕事ができるのは自分なんだから、自分でやるほうが効率がいい」
と思い、部下には雑務ばかり振っていたんです。確かに、そんなことじゃ部下も怒りますよね。

この事件があって、自分にはマネジメントはムリだ、と完全に苦手意識を持ったんです。

その後、リクルートに転職した僕は、初めて営業の世界に足を踏み入れました。もともと人と話をするのは好きでしたし、自分のやり方で契約まで運ぶことができるうえ、自身の働きぶりは契約成立件数として目に見えるわけですから、やりがいがあるのはもちろん、営業の仕事自体とても面白い。

気がつけば営業成績はトップになり、社内のMVP賞も受賞しました。

その一方で、前職での失敗が頭にあったので、人をまとめるような役回りからは逃げ回っていました。

そして、さらなるステップアップを目指して、次の転職先に選んだのがプルデンシャル生命保険でした。

入社後、噂にも聞いていた、充実したマニュアルに出会いました。この会社には、経営理念に始まり、生命保険の詳細、見込み客の考え方、商談プロセスごとの解説、クロージングの方法、契約後のフォローなどについて事細かに書かれた、営業だけで20冊にも及ぶ業務マニュアルがありました。

それらを読めば、これから携わる業務のことが手に取るようにわかるわけですから、研修中はマニュアルを読むのがとても楽しくて、早く現場に出て学んだことを試したいと、もうワクワクしっぱなしでした。

そして、晴れて営業の現場に出た僕は、マニュアルで身につけたトークやスキルをフル活用。ここでも順調に契約数を伸ばし、数年後には業界の上位1%の保険営業マンに送られる「MDRT」という称号を獲得するまでに至りました。

そんなある日、僕は上司に「話がある」と呼ばれました。

「営業所長をやってくれないか」
そう言われたのです。

営業所長になれば、当然部下ができます。
つまり、マネジメントをすることになるわけです。

最初の会社での、あの″失敗″以来、遠ざけていた唯一の苦手業務ーー。

しかも、今度部下になるのは、みんな優秀なプルデンシャルの営業マンです。言い方は悪いですが、自分と同じように我が強くて、独自の道を行くような人間だらけです。

なので、最初は断りました。
「自分には無理です」と。

その一方で、マネジメントについて、「どこかでリベンジしたい」という気持ちはずっと持っていました。負けっぱなしのままではいたくなかった。上司から熱烈なオファーを受けつづけたこともあり、一念発起して営業所長を引き受けることにしました。

売れない部下が売れるようになった秘策とは?

そうはいっても、マネジメントには苦手意識しかありません。しかし、不安を払拭してくれたのが、今度もまたマニュアルでした。この会社には、僕が読み込んだ営業マニュアルだけでなく、マネジメント用のマニュアルも整備されています。そのマニュアルに沿って営業マンを育成していけば、経営理念から営業プロセスまで、彼らに均一で具体的な教育を施すことができるわけです。

そこで、部下たちにはまず、営業マニュアルを徹底的に読み込ませました。

そして、早朝のロールプレイングから深夜のフィードバックまでとことん付き合い、自分のお客様に頼み込んで、部下に見込み客の紹介をしてもらったりもしました。

そんなふうに、考えられる限りのことをやって、部下たちを手取り足取りサポートしたんです。

でも、部下たちの売上げは上がりませんでした。

ある意味、僕は自分を殺して徹底的に彼らを助けていたのに、まったく売れないんです。

彼らがサボっているわけではないのは知っていました。

時には、部下がお客様と商談しているカフェにこっそり行って、すぐそばで様子をうかがったりしましたが、みんなマニュアルのとおりにきちんと話を進めています。

でも、ちょっとずつ何かが違う……。

彼らの商談を聞いていると、「そのトークはまだ早いだろう」とか、「お客様が何も言っていないのに、なんで次に行っちゃってるの?」とか、「クロージングのときの声が小さすぎるよ」などと、僕だったらそうはしないと思うことをやってるんです。

僕と同じマニュアルを読んで、そのとおりにやっているのに、なぜ僕は売れて、部下は売れないのか……?

そこで試しに、各マニュアルの内容について、自分がその文章をどう解釈したか、実際にどう実行したか、ということを、マニュアルの行間を埋めるように全部書き出しました。

「僕の真似をさせてみたらどうだろう」と思い至ったわけです。

たとえば、「お客様から信頼を得るためには、レスポンスを早くしましょう」という内容があったとします。

「レスポンスを早く」というのは、具体的にどのくらいの早さを指すのか。お客様からメールをいただいたら即レスするとか、きちんとメールを書いている時間がなければ、「のちほど詳細をご連絡します」という旨だけでも返信するとか、遅くとも1時間以内には連絡を入れる、といった具合に、自分がとっていた行動を事細かに書いていったんです。

それをもとにして、部下にも同じようにやらせたところ、ようやく売れるようになりました。

このことで、同じマニュアルを見ていても、人によって理解度や再現度に差が出るということを知りました。僕の中では当たり前と思っていたことも、部下たちにとってはそうじゃなかったんです。

マニュアルには確かに行動指針や業務の手順が書いてあります。

でも、理念ややり方だけでは、全員が同じようにはできません。

その理念とやり方の間をつなぐことを言語化し、可視化することが大切で、マニュアルにはそこまで書いてあるべきだということに気づいたわけです。

″マニュアル人間″に負けた!

実は営業所長になる前にも、マニュアルそのものの存在価値を強烈に感じた経験がありました。

自分の中で″マニュアル人間″だと思っていたヤツに負けた、これもまた苦い思い出です。

自分で言うのもなんですが、僕は物事の理解が早いほうだと思っています。概要をつかむのが早くて、たとえばマニュアルを読んでもすぐ内容が理解できるし、研修の課題なんかも人より早く終わる。そして、現場に出ても初速が早いんです。いきなりガーンと結果を出します。営業をやっていた時代には、実際、誰よりも売りました。

そうやって、3年ほどトップを走っていたら、僕の1年後に入ってきた後輩に追いつかれたタイミングがあったんです。

その後輩は、僕の目から見たらまあ平均値というか、特に突出したところもない男でした。ひとつのことを言ったら、ひとつのことしかできないみたいな。愚直とでも言ったらいいでしょうか。

彼はとても真面目で、必ず毎朝ロールプレイングしてから出ていって、帰ってきたら毎晩復習する。そして、とにかくマニュアルを読み込んで、わからないことは上司に聞いて、ひたすらマニュアルどおりに営業するんです。

まさに、″マニュアル人間″です。

保険のお客様は当然個人だけじゃなく、法人もありますが、法人のほうが難易度が高い分、売上げもいいので、僕は個人はそこそこに、さっさとそっちのほうにシフトしていきました。

でも、彼はずーっと個人のお客様だけを相手にしていた。

そして、あるとき、彼が僕の成績を追い越しました。

個人相手の営業だけをやっていた彼が、個人と法人の両方を売っていた僕の数字を抜いたんです。

彼がしてきたのは、マニュアルどおりの営業だけ。新人がやっていることと一緒です。

それなのに、すごい数字を出した。

僕は″マニュアル人間″に負けたーー。

なんでそうなったのか。

僕は考えました。

そして、気がついたんです。マニュアルのおかげなんだと。

僕も当然マニュアルは読んでいましたが、一通りの基本は頭に入れたものの、しっかり染み込むほどではなかった。

そして、わかった気になって、そこに自分のオリジナルのやり方を入れたりするんですが、そのやり方だと後で振り返れないんですよね。その時々の状況に左右されてしまうので、あのときは何が悪くて、前回と今回で何が違っていたのか、ということがわからない。答え合わせができないんですよ。

でも、マニュアルで基本をたたき込んで、それに対して毎回フィードバックを受けてきた後輩は、どのケースのときにはどのパターン、ということが明確にわかっていて、それぞれのシチュエーションに応じた対応ができる。つまり、「型」が身についているんです。

第一章でも説明しましたが、型は何年もいろいろな人がやってきて見つけた、「これが一番うまくいく」という方法です。″王道パターン″です。

だから、それを真似するのが一番の近道だし、最良の方法なんです。

でも、型が身についていないうちに、過去の成功体験や自分のエゴなんかにとらわれて、それを優先してしまうと、迷って、悩んで、行き詰まってしまう。結果として、愚直にひたすら王道パターンのやり方を続けた後輩に、″素人″のアレンジを加えた僕は負けてしまったわけです。

このときに改めて、僕はマニュアルのすごさと大切さを思い知りました。

そして、この経験から、のちにマニュアルが「守破離」の「守」を実現するツールであると思い至るわけです。

そして″マニュアル屋″の道へ

これまで僕が在籍していたどの会社にも言えるのは、しっかりした研修制度とマニュアルが整備されていたということです。特に3社目のプルデンシャルは、一営業マンに20冊に及ぶマニュアルを配布し、そのマニュアルで徹底的に教育する会社でした。

ずっとそうした環境に身を置いていたので、僕の中では「会社にマニュアルがあるのは当たり前」で、「マニュアルで仕事を学ぶのは当たり前」という認識ができあがっていました。

でも、プルデンシャルで法人営業をしているうちに、その環境が当たり前ではないことに気づきました。

僕のお客様には中小企業の経営者の方も多くいましたが、その方たちから、

「社員教育が大変なんだ」
「人材の雇用が難しくてね」
「離職率を減らしたいんだよ」
「業務を効率化させたいんだけど」
「おたくの会社ではどうやってるの?」

という悩みや質問をよく受けたんです。

そのたびに、自社ではマニュアルを活用しているということを、僕自身の経験を交えてお伝えしていました。

みなさん興味を持って話を聞いてくれるんですが、決まってこんな反応が返ってきます。

「うちでは社員を自社で教育するノウハウがない」
「マニュアルを作る時間も、人材も、ノウハウもない」

要するに、マニュアルが整備されている会社がとても少ないんです。

考えてみれば当たり前の話で、特に中小企業のオーナー社長は、たとえば自社の商品を作ったり、商品を売ることにかけてはプロですが、雇用や社員教育といった自分の専門分野外のことについては″素人″ですよね。しかも、創業間もない頃なら、まずは売上げを上げることに全勢力を投入します。社長の目は社内よりも社外に向きますから、余計にそうした面が手薄になりがちです。

これは中小企業に限ったことではなく、東証一部に上場しているような大企業でも同じです。

適切なマニュアルがあれば、スピーディーに経営側が意図した水準の人材を育成できるし、効率的に業務が進められるのに……。

これは、世の中にもっとマニュアルの大切さを広めるべきではないのかーー?

そうした思いが、僕の中に芽生えてきました。

そんな頃、僕の思いを強くするきっかけがありました。

マニュアル作成会社との出会いです。

その会社は、社長の広い人脈のおかげで、広告やPRをいっさいやっていないにも関わらず、クライアントは名だたる大企業ばかり、というすごいところでした。

でも、社長は当時63歳、在籍している社員の平均年齢は50歳オーバーということで、会社を引き継ぐあてがないというんです。

マニュアル作成のニーズはあるのに、マニュアル技術の跡継ぎがいない!

その状況を知った僕は、迷わず「僕がやります」と手を挙げました。

いつか起業することが人生の目標でしたし、何よりマニュアルの重要性や必要性については、身をもって経験しています。

その後、半年間その会社で学び、マニュアル整備代行とマニュアルによるマネジメント支援のサービスを立ち上げました。

言ってみれば、僕の性格、夢、目標、僕が学んできたこと、見聞きしてきたこと、経験してきたこと、それぞれの点と点がすべてガチンとつながったのがマニュアル整備支援サービスだったわけです。

社長、僕らをロボットにする気ですか?
中山 亮
株式会社2.1代表取締役
内閣官房「業務の抜本見直し推進チーム」アドバイザー
長崎大学大学院を修了後、株式会社アルファシステムズに入社。SEとして従事。その後、株式会社リクルート、プルデンシャル生命保険株式会社に勤務。住宅情報誌の提案営業でのMVP受賞、業界の上位1%の保険営業マンに贈られるMDRTの称号などを獲得後、部下のマネジメント業務を行いながら組織づくりにおけるマニュアルの重要性に気づく。しかし、多くの企業に戦略的なマニュアルが無く、そのことで生産性が妨げられ、人材の活躍までも妨げられている事実に気づき、2014年、企業の人材育成や業務の改善を、マニュアル導入によって実現するサービスを発案し、株式会社2.1を創業。代表取締役に就任。これまで500社以上の企業に対し、マニュアルによる業務改善を行い、2019年より、内閣官房「業務の抜本見直し推進チーム」アドバイザーに就任。

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