東京一極集中の問題は、昔と今では内容が変わってきている。現在は、地方経済が弱体化することで東京都との格差が広がる現象のことを、東京一極集中と言って問題視している。地方経済の衰退は、若者が好条件の働き口を求めて、全国で一番合計特殊出生率の低い東京都へ集まる流れをつくっている。それが、全国の少子化を加速させる弊害をもたらしている。

赤ちゃん
(画像=PIXTA)

東京一極集中とは何を指すのか?

1980年代を覚えている人は、東京一極集中とは、東京都の人口過密の弊害だと思うだろう。当時、地価が高騰し、東京の人は住宅コストの負担に苦しんだ。通勤電車の苦痛、道路の大渋滞なども批判の的だった。この現象を問題視するのは、東京都の人だった。

近頃は、同じ東京一極集中という言葉を使っていても、その内容は昔とは大きく異なっている。地方経済が衰退し、東京都など南関東だけが経済的繁栄を維持している。この格差のことを地方の人が、東京一極集中だと言って問題視している。同じ名称で違った問題を批判しているのをみて、へんだなと違和感を覚えるのは、筆者だけであろうか。

筆者が問題視するのは、東京の恩恵が地方に及ばないことへの不公平感ではなく、この現象が少子化を助長させて、日本全体の地盤沈下を加速させている構造の方である。

猛烈に加速する出生数の減少

日本全体の出生数は、2016~2020年にかけて4年連続で減少している。2019年の出生数の前年比▲5.8%は、ひのえうまの1966 年以来の大幅なマイナスであった(図表1)。この推移を縦から横に並べ替えると、人口ピラミッドになる。0歳の人口から、1歳、2歳、3歳と年齢別人口の推移と重なる。出生数の減少傾向は、人口ピラミッドの逆三角形を形成していくことになる。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

こうした変化をさらに地域別の年齢別人口の推移として捉え直してみた。総務省の住民基本台帳(2020年1月1日)のデータでは、都道府県別の5 歳毎の人口の遷移がクロスセクションでわかる(図表2、詳細は巻末の別表)。全国平均では、0~4歳の人口は、5~9歳の人口に対して、▲9.3%と少なくなっている。これは、同期間の出生数の減少を反映したものであろう(人口動態統計の出生数は同じ期間▲9.2%減少)。

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さらに、都道府県別の0~4歳人口と5~9歳人口の比較でみると、特にマイナス幅が大きいのは、秋田県▲17.4%、岩手県▲14.8%、岐阜県▲14.4%、愛媛県▲14.4%である。菅義偉首相の出身地である秋田県が最も少子化が激しく起きている。全国の分布でみると、北海道、東北、甲信越、中国、四国、九州で0~4歳が減っている傾向が強い。

逆に、0~4歳人口が5~9歳人口よりも増えたのは、東京都である(0.8%増)。しかし、全国47都道府県では、東京都が唯一の増加である。他の46道府県は軒並み減少している。東京都では、5~9歳人口も10~14歳人口に対して4.4%と多くなっている。

(参考)東京都の出生数を調べてみると、東京都の一人勝ちという風でもない。やはり、全国的に出生数は減少していて、東京都もそれとシンクロしている(図表3)。ただ、相対的に東京都の出生数減少が他地域よりも小幅であるため、5年毎に累計するとその差が大きく見えるのだ。

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東京問題

東京都では、0~4歳の子供の人口が、全国で唯一増えている。この事実は、不思議に思える。その理由を少し丁寧にみていこう。

まず、東京都の0~4歳の子供の人数は544,875人と、5~9歳の540,334人に比べて0.8%の増加になっている。他県に比べて東京都の子供だけが増えるのは、東京都の出生率が高いからではない。東京都の合計特殊出生率は、2018年は1.15と全国の1.36よりも低い。実は、東京都の合計特殊出生率が全国で最も低いのが実情だ。出生率が最低なのに、出生数が唯一増加するのは、なぜなのだろか。

理由は、親になる年齢の若者25~34歳が東京都に流入しているからだ(前掲図表2)。これは、社会的人口増加が活発であり、地方から若者を東京都が大量に吸収していることによる。つまり、子供をつくる年齢層が東京都に集まるから、その結果として、出生率は最低であっても、出生数は最高になる。これは、よく考えると大問題である。

東京都と地方ではどちらが子育てがしやすいかというと、費用面では地方の方が安い。待機児童問題をはじめとして、大都市では子育てを行う制約・負担は大きい。それが東京都の出生率の低さに表れているのだが、若者は大量に東京都に移動してくる。

ここからは、非常に複雑な少子化の構造が透けて見える。若者が東京都に移動してくるのは、企業活動の中心が東京都であり、若者がよりよい待遇で働きたいと思うと、東京都に上京して来ることになる。大手の企業に就職したならば、自然と東京都で働くことになったという人も多いだろう。これが25~34歳の若い男女が東京都に吸収される構図を作っている。

その裏返しとして、地方では25~34歳の若者人口が相対的に減ってしまい、結婚・出産をする人が全国平均よりもさらに減ることになる。この人口減少圧力は、地方経済にとってはさらなる下押し圧力になる。地方経済が悪化すると、雇用機会が乏しくなり、給与水準も落ちていく。だから、地方から東京都へ若者人口がさらに流出する。ネガティブ・フィードバックの流れができる。一連の流れが、地方の人口減少が加速度的に進む構造になっている。

例外的な動きに注目

若者が東京都に吸収されて、少子化に拍車がかかることにどのように歯止めをかければよいのか。正直、それに明快な対応策を描くことはできない。

少しだけ光明を見出そうとすると、やはり年齢別人口の移動のデータの中にヒントがあるように思える(前掲図表2)。それは、15~19歳の人口について、東京都では、24~29歳の人口よりも▲31.0%も減っている変化からわかる。なぜ、この年齢層の人口が東京都で減っているのかというと、東京都から他の地域へと大学進学によって移動しているからだ。都道府県別データをみると、東北、中国、四国、九州では15~19歳の若者が増えている。これは、東京一極集中とは正反対の動きになっている。

残念ながら、この動きは長続きしない。若者が大学卒業後は再び東京都へと戻っていく流れに変わってしまうからだ。地方大学を卒業して、地方の地場企業に就職するケースは以前よりも少なくなっているとも聞く。地方における好条件の就職口はとても少ない。

政治的に「東京一極集中を是正せよ」といくら声高に叫んでも、地域経済が地盤沈下する変化を逆転させない限りは、この構造を修正することはできない。地方の地場企業の競争力を強化して、そこがよい好条件の就職口を提供するしかない。そうした競争力強化は一朝一夕には叶わない。

実際、多くの地方自治体が東京都など大都市から企業誘致を行って、地元の雇用創出をしてほしいと願っている。しかし、税制優遇に余地は乏しく、地方のメリットとして人員確保、人材の優良さを強調することに限られてしまう。地方自治体が、大都市から企業誘致を行うパワーはどうしても限られている。地方大学が地場企業との間で技術交流・人材交流を行って、地道に共存共栄を図っていくしかないのが実情だ。東京一極集中という現象は、容易には是正されにくく、それが助長している少子化問題もまた修正することが困難な課題になっている。秋田県出身の首相誕生ということが、人口減少や少子化に特別に重大な問題意識を置くような変化を生むことを期待したい。(提供:第一生命経済研究所

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