大規模自然災害の常態化が経済成長の足かせに
(米国海洋大気局(NOAA)「平均気温」ほか)
第一生命経済研究所 主任エコノミスト / 桂畑 誠治
週刊金融財政事情 2020年10月5日号
米国では、大型ハリケーンの襲来、豪雨や融雪に伴う洪水、森林火災、暴風雪などによる大規模な自然災害の発生回数が増えており、「過去3年で3回目の、500年に1度レベルの大洪水」といった説明を聞くこともある。その主因として、米国を含む世界的な気温の上昇が挙げられている。米国の平均気温(12カ月移動平均)は、1951年1月の10.8℃から2020年8月に12.3℃と、1.5℃も上昇した(図表)。
気候変動は自然災害のリスクを高める。例えば、海面温度の上昇などが原因で、規模の大きなハリケーンが大量に発生するようになっている。今年は、ハリケーンやトロピカルストーム(熱帯低気圧)の大量発生で、準備された21の英語の名前すべてが使用ずみ。05年以来となるギリシャ語の名前に移行し、24番目の「ベータ」まで使われている。また、米国立ハリケーンセンター(NHC)によると、ハリケーン「マルコ」がルイジアナ州に上陸する前にトロピカルストームに変わった後で、後続の「ローラ」がハリケーンに発達した。観測史上初となるメキシコ湾でのハリケーンの同時発生は回避されたものの、3日以内に同じ州にトロピカルストームとハリケーンが相次いで襲来した例は過去ほとんどない。
ハリケーンなどが過去と異なる進路をたどる傾向もある。今年は二つのトロピカルストームが例年より太平洋北部の経路をたどったことで落雷が多発し、気温の上昇が引き起こした熱波や干ばつとあいまって、西部3州で森林火災が大規模化した。9月15日時点で少なくとも87件の山火事が11州で発生し、山火事により焼失した面積は、過去最大だった18年の約198万㌈(約8,012平方キロメートル)を大幅に上回る450万㌈となり、さらに拡大している。
今年は7月8日までに、被害額が10億ドルを上回る自然災害が10件発生した。その後に発生した過去最悪の森林火災や、過去最多となりそうなハリケーンの発生件数を考慮すると、被害額10億ドル超の自然災害の発生件数は、過去最多だった17年の16件を上回る可能性が高い。ただし被害総額が、過去最大だった17年の3,062億ドルを上回るかは、今後の自然災害が都市部などで起きるかしだいである。
今後も気温の上昇は続く公算が大きい。自然災害の規模拡大や回数の増加は避けられず、復旧・復興により時間やコストがかかることが予想される。米国では国土が広く予算も限られるため、その被害を完全に防ぐ対応は困難であろう。大規模な自然災害が頻繁に起きることが新常態となる可能性が高く、経済成長への悪影響はさらに大きくなる恐れがある。
(提供:きんざいOnlineより)