2020年に世界で感染が拡大した新型コロナウイルスは、日本のエネルギー政策にも大きな影響を与えました。なぜなら化石燃料の大幅な落ち込みで再生可能エネルギーの必要性がますます高まったからです。コロナ後のエネルギー政策はどう変わるのでしょうか。日本のエネルギー事情の最前線を探ります。

コロナはエネルギー需要にも影響を与えた

再生可能エネルギー
(画像=sharaku1216/stock.adobe.com)

新型コロナウイルスは2020年2~3月から急速に拡大し、世界の大都市でロックダウンが実施されるなど世界経済の大きな停滞を招きました。日本でも感染拡大防止のため2020年4月7日に政府が緊急事態宣言を発令。同年5月25日に全国で緊急事態宣言が解除されるまで、約1ヵ月半の外出や営業自粛を余儀なくされました。世界規模で見た場合、コロナの影響が最も顕著に出たのが原油価格です。

資源エネルギー庁の資料によると、原油価格は2020年3月はじめに1バーレル50米ドル前後で取引されていましたが、同年4月はじめにかけ20米ドル前後まで急落。原油価格が下がった大きな理由として、コロナによる主要都市のロックダウンや人の移動の禁止や自粛を挙げています。また車の通行量減少や飛行機の減便、工場の稼働停止などで石油の需要が減少したことも原因と分析されています。

一方、電力そのものの需要も減少しています。株式会社三菱総合研究所の分析によると、コロナの影響により平日の電力需要が2020年3月初旬に比べ同年4月中旬では10%程度減少。需要が減った要因は、外出自粛などによる家庭の電力需要の増加よりも店舗や工場の閉鎖といった産業用の需要減少のほうが大きかったためと考えられています。

化石燃料は大幅に落ち込み、再エネが伸びる

自然エネルギー情報サイト「SOLER JOURNAL」の2020年6月の報道によると電気などのもととなる資源の化石燃料(石炭、石油、天然ガス)の大幅な落ち込みが生じる中、再生可能エネルギーの生産は拡大傾向にあるといいます。IEA(世界エネルギー機関)の報告書によると、1次エネルギー(加工されない状態で供給されるエネルギー)で見た場合、以下のようになっています。

資源前年比
石炭-7.7%
石油-9.1%
天然ガス-5.0%
原子力-2.5%
再生可能エネルギー+0.8%

石炭や石油、天然ガス、原子力が落ち込む一方で再生可能エネルギーは拡大し全体で0.8%の増加となるなど、世界のエネルギー需要の中で存在感を高めています。

エネルギー転換による経済効果

エネルギー政策の転換は、大きな経済効果をもたらす見方もあります。一般社団法人環境イノベーション情報機構によると、経済効果についてIRENA(国際再生可能エネルギー機関)の分析をもとに次のような見通しを発表しています。2017年の時点で世界全体のエネルギー産業の雇用者数は5,790万人(そのうち約半分は化石燃料の生産や販売などに従事する人たち)でした。

一方化石燃料から自然エネルギーへ転換が進むと2050年には雇用者数が2倍近い9,980万人に拡大するとしています。自然エネルギーの開発や販売などに従事する人が4,000万人を超え、エネルギーを効率的に利用できるサービスなどを提供する事業の雇用者が増加する見通しであることが、拡大の要因となっています。

化石燃料と再エネを巡る民間企業の取り組み

化石燃料から再生可能エネルギーへのシフトは、民間企業でも積極的に取り組む動きが出ています。代表的な2社の事例で見てみましょう。

・丸紅
大手商社丸紅は、持続的な開発目標としての気候変動を緩和する低炭素社会の実現に向けて、石炭火力発電事業の縮小と再生可能エネルギー発電事業のさらなる拡大を目指し、発電事業に伴う環境負荷の低減に取り組むとしています。同社は石炭火力発電事業の縮小について、保有持分容量約3GW(2018年度末目標)を2030年までに半減させることを目標にしています。

また再生可能エネルギー発電事業拡大については、ネット発電容量ベースで現在の約10%を2023年までに約20%へ拡大することを目標にしています。

・九州電力
九州電力グループの九州電力みらいエナジーでは、自然が持つさまざまな力を活かしたエネルギー事業を展開しています。鴨猪(かもしし)水力発電所では、地域のかんがい用水路を有効活用した水力発電事業を展開。菅原バイナリー発電所では、自治体との協働による地熱発電事業を行っています。

このほかにも大手企業グループによる再生可能エネルギーへの取り組みが全国各地でなされており、今後も参入する企業が増えるものと予想されます。

コロナ後の再エネはどうなる?

新型コロナウイルス収束後の再生可能エネルギーはどうなるのでしょうか。アフターコロナのエネルギー政策で目標とされているのが分散型エネルギー社会の構築です。コロナウイルス感染拡大に伴い普及が進んだテレワークにより、これまでの利便性を重視した東京一極集中を見直す動きが出ています。2020年6月に内閣府が公表した「新型コロナウィルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると地方移住について全体の15%が「関心が高くなった」と答えています。

東京23区に住む20歳代に限定すると35.4%とさらに関心の高さが上昇。テレワークでどこにいても仕事ができるのであれば、あえて密集する東京に住む必要性はないと考える若い人が増加傾向にあるといえます。これは企業の場合にも同じことがいえ、テレワークによる勤務が中心になるのであれば広いオフィスや東京のような高い家賃のオフィスは必要ないと考える経営者もいるでしょう。

このようにコロナをきっかけに人や企業の地方への分散が進む可能性があります。こういった見通しからコロナ後のエネルギー構成比率は、化石燃料中心から原子力や再生可能エネルギーを組み合わせた分散型エネルギーの形へ変化していく可能性が高いでしょう。経済産業省の目標は、2030年度の電源構成比率を再生可能エネルギー22~24%程度、原子力20~22%程度にすることです。

このエネルギーミックス政策によって化石燃料(LNG27%程度、石炭26%程度、石油3%程度)の比率は56%程度まで低下します。

エネルギーは地産地消が基本の社会へ

コロナは入国制限や海外渡航禁止等を通して世界の分断をもたらしました。これまで輸入に頼ってきたエネルギーを地域ごとに生産し消費する「地産地消」の必要性が高まっているといえるでしょう。Webサイト「Energy Shift」の「エネルギーから見える私たちの「岐路」」という記事の中で、日本再生可能エネルギー総合研究所の北山和也氏はエネルギーの地産地消について次のように論じています。

「地域や地元で作り出され、その場所で使うことのできる再生エネは、地産地消が可能な良きツールである。再生エネは、グローバルからの脱却、ローカルへの移行がベースとなる新しい新型コロナとの共生時代を先取りしていると言える」
出典:Energy Shift

先述した九州電力の例などは、地域で電力を生み出し消費する地産地消の有力なモデルケースです。新型コロナウイルスの収束が見通せない中、エネルギーを化石燃料に頼ることなく「自分たちのエネルギーは、自分たちの地域でつくる」という再生可能エネルギーによる地産地消の動きが全国的なトレンドになることが望まれます。(提供:Renergy Online