シンカー: 政策当局がインフレ・リスクにかなり許容的であることを背景に、財政拡大と金融緩和のポリシーミックスが継続すれば、総需要の回復とともに、景気とマネーが拡大する力が強くなることで、物価上昇には加速感が出てくる可能性がある。財政赤字の拡大に対して、家計と企業の貯蓄率の上昇が小さければ、国際経常収支の赤字幅は膨らむことになる。米国は国際経常収支を赤字にすることで、世界に向けてドルを供給しているのが、ドル基軸通貨の体制であると考えられる。米国の国際経常収支の赤字幅が増加し、しかもFEDの強力な金融緩和が継続するということは、グローバルにドル供給が増加することを示唆している。ドル供給の増加は、資産価格の上昇、そしてこれまでのグローバルなデフレがインフレへ変化していくきっかけとなるかもしれない。4?6月期の米国の国際経常収支の赤字は拡大した。一方で、資金循環統計でみた米国の海外への資金不足は拡大せず、ギャップが生まれている。これは、グローバルにドルの流動性の需要が大きく、国際経常収支に含まれない資本移転や把握されていないマネーフローとして、米国にドルが戻ってきてしまっていることを意味する。結果として、まだリフレ的な動きはそこまで感じられない。今後、新型コロナウィルス問題の緩和にともないビジネスが正常化に向かい、ドルの流動性の需要が減退する中で、ポリシーミックスが継続すれば、米国の国際経常収支の赤字と海外への資金不足がともに拡大するだろう。グローバルにドル供給が増加し、リフレ的な動きが鮮明になってくる可能性がある。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・レポートの要約

●米国経済(10/15):11月3日の選挙…結果の確定は遅れるのか

米国大統領選挙では、投票所が閉鎖されて数時間以内で最終結果が明らかになることが望ましいが、郵便投票の 集計が続くことで遅れる可能性がある。市場はそうした不確実性には敏感である。本レポートでは、郵便投票の期限や各州の投票終了時期をテーマにする。特に、選挙結果を左右するとみられる激戦州に注目したい。

主な注目点は、激戦となっており優劣不明の州

カリフォルニア、ニューヨークや選挙人が多数選出されるその他のいくつかの州では、票の計算について争う余地がほとんど無い。ただし弊社の計算では、185名の選挙人が共和党、民主党(の大統領候補)のどちらの支持にもなる可能性がある。選挙結果決定のタイミングという意味では、こうした州が注目される。

弊社はバイデン氏勝利を予測

弊社は6月と9月にも選挙の見通しを発表したが、その後に大統領選でのバイデン氏勝利、および民主党が(上院も過半数を占め)完全勝利する可能性が高まったとみている。9月末から10月初めの世論調査をみると、バイデン候補はいくつかの主な州でリードを広げている(特に、ペンシルバニア、ミシガン、ウイスコンシン)。このように差が広がったことで、開票結果で争いが発生する可能性は低くなった。市場参加者は、開票の遅れや、結果を巡る争いが生じることを懸念している。いずれかの候補が小差で勝利すればそうした争いが発生する可能性は高くなるが、比較的大差の勝利になれば、特定の州の重要性や、激しい争いを呼びかねない結果となる可能性は低くなる。

フロリダ、ジョージア両州で結果が早く判明、最終結果の土台になる

接戦となっている州の多くで、投票所は11月3日午後7?8時(東部時間)に閉まる。各州には独自の郵便投票プロセスがあり、現時点では有権者に不在者投票を要請する時間もまだ残っている。郵便投票の規模(投票数)は不明だが、(民主党に投票する傾向が強い)人口の多い都市部では、郵便投票を選好する向きが多いことが明らかになっている。

●中国経済(10/20):Q3のGDPは弊社見込み未達も、回復は力強い

中国のGDP成長率は2020年第3四半期(Q3)には4.9%に回復した。これは事前見込みには届かなかったが、現況を考えると他国が羨む(良い)結果といえる。より重要なことに、9月の経済指標からは、景気モメンタムがさらに強まり、回復も引続き広がっていることが明らかだ。これではPBoCの追加緩和は正当化されず、PBoCは様子見を続ける可能性が高い。Q3のGDPは弊社見込みに届かなかったため、2020年通年の弊社成長率予測は2.5%から下方修正する。しかし9月のメンタムが力強かったため、2%近くはまだ達成可能と考えている。

●インド経済(10/14):新しいサンタが街に来た=RBIの追加対策

財政刺激策が不十分なことでインド経済と(本来は可能性がある)景気回復の足取りは依然として定まらないが、RBI(インド準備銀行)はインド経済を通常軌道に戻すという大変な作業を引続き進めており、あらゆる手段を講じている。MPC(金融政策委員会)会合は政府による外部委員3名の指名が遅れたことで(当初予定の9月末から)延期されていたが、10月7?9日に実施され、RBIは 広く見込まれていた通り政策金利据置きを発表した。だがその他に、RBIは経済成長を支援する多数の政策を打ち出しており、国と様々な州の借入れプログラムで生じる可能性がある破壊的な影響に対する懸念を和らげるとみられる。8月MPC会合の議事要旨では、委員の1人がインフレの推移に関する強い懸念を示し、中央銀行のハト派的な意図に対する疑念が発生していた。だがRBIは(MPCに)複数の外部委員を迎えて、弊社がここしばらく述べてきたことを再確認した。即ち、インフレ加速は一時的なもので 、原因は国とそれに続く地方のロックダウン(都市封鎖)による悪影響であり、経済が完全に再開すれば状況はすぐ正常化する、というものだ。重要なことにRBIは、(弊社が以前に論じたような…参照)ステルス的な債務マネタイズプログラムも発表した。同時に、信用伸び率の急低下が続いていることを受けて、銀行に対し融資を拡大するように促した。

●債券市場(10/19):第2波の襲来

新型コロナウイルス感染率の世界的な上昇や、ワクチン開発の後退、米大統領選まで3週間を切った中での経済対策協議の行き詰まりは、債券投資に慎重なスタンスで臨むことを求めている。金利上昇局面では米国債がドイツ国債をアンダーパフォームすると見込まれるが、すでに市場は利回りの上昇やイールドカーブのスティープ化に身構えており、そのぶん金利上昇は抑制される可能性が高まっている。当面のリスクは金利低下の方向に傾斜している。

●アセットアロケーション(10/14):現在の高値を利用して米テック大手から他にスイッチ‐アジアと欧州のグロース株に目を向ける

弊社が直近のMULTI ASSET PORTFOLIOで提案した主なアイデアの一つは、米テック大手から他に資金を分散化することであり、これは同セクターがより不安定化しているためである。拡張された形(EXPANDED FORM)のテックセクター(GICSテックセクター+通信サービスセクター)のS&P 500指数全体のボラティリティへの寄与は8月末に64%に達した。これは同指数における同セクターのウェイトを優に上回り、2000年代初めの「テックバブル」時の水準(約70%)とそれほど変わらない。このボラティリティ上昇は、2つの要因が同セクターの目覚ましいパフォーマンスを損ないかねない脅威となっているなかで起きている。それらの要因とは、景気見通しの改善と、より厳しい規制枠組みであり、米大統領選でバイデン氏が勝利するとの見通しは後者に拍車をかけている。では弊社が推奨する投資先はどこかと言えば、アジアと欧州に無理なく買える成長(AFFORDABLE GROWTH)が存在すると考える。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社調査部
チーフエコノミスト
会田卓司