少子高齢化の影響で、デイサービス業界に対する需要は大幅に増加傾向だ。しかし、需要の増加とは裏腹にデイサービスの経営は難しいといわれている。今回の記事では、デイサービス業界の現状を踏まえたうえで、デイサービスの経営が難しいといわれる理由や、デイサービス経営を存続させる方法を詳しく説明していく。

デイサービス業界の現状

デイサービス
(画像=akoji/stock.adobe.com)

デイサービスの経営について知るうえで、まずは業界の構造や現状を知っておくことが重要である。そこでまずは、デイサービスの業界の現状を簡単におさらいしておこう。

デイサービス自体に対する需要は増加中

高齢者人口の増加により、デイサービス自体の需要は右肩上がりで増加している。デイサービス利用者数が約113万人だった2008年から7年後の2015年には、利用者数は約190万人に増加した。デイサービスの需要が急増している事実が見て取れるだろう。もちろん、利用者数の増加でデイサービスにかかった総費用も大幅に増加している。

デイサービスの倒産件数が増加

需要の増加に反して、デイサービスの倒産件数は年々増え続けている。東京商工リサーチが行った「2019年『老人福祉・介護事業』倒産状況」によると、2019年度の介護事業所の倒産件数は111件(前年度比で4.7%増加)で2017年と並んで過去最多となった。このうちデイサービスを含む通所介護事業者の倒産件数は32件だ。

2011年の倒産件数はわずか19件(内デイサービスは4件)だったがその後急激に倒産数が増加し、2016年以降は毎年100件を超える倒産数を記録する形となっている。デイサービスの倒産件数は、2017年の44件がピークであり、2019年にかけては減少傾向だ。とはいえ、わずか10年弱で倒産件数が数倍増加した事実は知っておくべきだろう。

約半数のデイサービスが赤字経営

独立行政法人福祉医療機構(WAM)が公表している「2018年度通所介護事業所の経営状況について」によると、地域密着型の44.3%、大規模型(Ⅰ)の28.2%、大規模型(Ⅱ)の23.6%のデイサービスで、赤字経営に陥っている。約20~40%のデイサービスが赤字経営に陥っている点を踏まえると、今後さらに倒産件数が増加するケースも想定されるだろう。

デイサービスの経営が難しい理由

デイサービスの経営が難しい理由は、主に以下の6つの理由があるためだ。

人材確保が困難

デイサービスの経営が難しい理由の一つとして、人材確保が困難であることが挙げられる。高齢者のサポートに多大な労力を要するが、デイサービスで働く職員の給与は高くない。そのような事情から「労力と収入が割に合っていない」と考える職員は多く、結果的に多くのデイサービスでは慢性的な人手不足に陥っている。

人材を確保するだけでも難しいのに、ようやく確保した人材が業務の大変さや給与の安さからすぐに離職するケースは少なくないのだ。

人件費の上昇

介護業界では慢性的な人手不足に伴い、人件費の上昇傾向が見られる。デイサービスの経営を続けるには、増加する需要に対応するために人手を確保することが不可欠だ。しかし、安い給与では「仕事の大変さの割に給与が安い」と思われてしまい、十分な人材を確保できない。そのため、確実に人材を確保するには、一人あたりの給与を増やす形で人材を確保する必要がある。

ただし、一人ひとりの給与を増やした結果、全体でかかる人件費が上昇し、かえって経営状況が悪化する事業所は少なくない。

介護報酬の削減

人材確保や人件費の上昇に追い討ちをかけるように、介護報酬の削減もデイサービス経営を困難にさせる要因の一つだ。介護報酬とは、介護事業者がサービスを提供する対価として国から受け取れる報酬である。2015年の介護報酬の改定により、通所介護施設の中でも小規模型事業所の基本報酬が2012年度と比較して約10%削減された。

つまり、単純な計算で収入が1割も減ったことを意味する。2018年の改正で若干のプラス改正が行われたものの、以前と比べると減少分は大きなものとなっているのだ。人件費が増加した一方で報酬が減り、赤字経営や倒産に追い込まれたデイサービスは少なくない。

競合他社との競争が激化

デイサービスの経営が難しい理由としてもう一つ考えられるのが、競合他社との競争激化だ。報酬の減少や人件費の高騰により、多くのデイサービスが利用者を増やす方向でなんとか利益を確保しようとしている。その結果、同じ地域にあるデイサービス同士が顧客を奪い合っているのだ。

ニーズこそ増加しているものの、それを打ち消すほど競争が激化しているため、思ったように需要の増加による恩恵を得られていないデイサービスは多い。

価格以外での差別化が困難

競争が激化する一方で、その競争に打ち勝つための差別化が困難である点にも注意が必要だ。食料品やレストランの場合、商品のパッケージや店内デザイン、味、食感、接客サービスなど、あらゆる部分で差別化を図ることができる。一方、デイサービスの場合、飲食などと比べて差別化できるポイントが少なく、差別化による競争優位の確立は難しいのが現状だ。

都市部では固定費が多くかかる

首都圏にあるデイサービスの場合、固定費が多くかかる点も経営が難しい理由の一つだ。デイサービスの性質上、被介護者が通うための施設が必要となる。首都圏は地方と比べて土地や物件の購入・レンタル費用が圧倒的に高いため、運営に多額の固定費がかかるわけだ。

人件費だけでも相当な負担であるにもかかわらず、不動産に関連した固定費もかかるため、赤字経営や倒産に追い込まれるデイサービス事業者は多く見受けられる。

難しいデイサービスの経営を存続させるには

難易度の高いデイサービスの経営だが、工夫次第で市場で生き残ることはできる。そこでこの章では、難しいデイサービスの経営を存続させる方法を5つ説明する。

IT技術を駆使した業務の効率化

最もおすすめなのが、IT技術を駆使した業務の効率化だ。例えば、勤怠管理をクラウドサービスで行ったり、システムを利用して職員間で患者のデータをリアルタイム共有したりするなどの施策を行えば、これらの業務に費やしていた人的な労力を削減できるだろう。より少ない労力・時間で一定の成果を出せるようになるため、結果的に費用の削減や職員の負担軽減といった効果が期待できる。

労働環境の改善

デイサービス経営の課題である「人材不足」を解決するうえで、労働環境の改善は欠かせない。例えば、無駄な会議や朝礼、研修などを削減することで残業を削減したり、前述したようなITツールを導入して職員の負担を削減したりするなどの施策が効果的である。このような取り組みにより労働環境を改善すれば、確保した職員の離職を減らすことが期待できるだろう。

また、「働きやすい職場」というイメージが広まれば安定的に職員を採用できるようになる。人材を安定的に確保すれば、増加する需要にも対応でき、結果的により大きな収益を安定的に得られる可能性も出てくるだろう。

人材育成の充実

高齢者の増加に伴い、今後のデイサービスには認知症のケアや機能訓練(身体機能の改善や悪化防止を目的とした訓練)の充実が求められる。このようなサービスの充実を図るには、単純に人材を確保するだけでなく人材育成にも重点を置かなくてはならない。近年は、デイサービスの競争激化により以前と比べてサービスの質が平均的に上がっている。

サービスの質向上に対応しなければ、競合に顧客を奪われる可能性も十分に考えられるだろう。そのような事態にならないためにも、人材育成を充実させることは必須である。

経営管理や資金繰りの徹底

デイサービスの経営に限らないが、経営管理や資金繰りの徹底は、ビジネスを成功させる(大失敗しない)うえでは不可欠だ。「高齢者の人口増加によりデイサービス事業を始めれば、簡単に利益を得られるだろう」と安易に思うのは危険である。何も考えずに始めると思ったように入居者が集まらなかったり資金繰りがうまくいかずに赤字が続いたりする事態になりかねない。

報酬削減や人件費高騰など、昨今のデイサービスをめぐっては経営を困難にする要因がいくつもある。そのため、資金繰りや経営管理(人材の採用や戦略の見直しなど)は、常日ごろから意識して行わなくてはならない。

競合他社との差別化

前述した通り、困難ではあるもののデイサービスの経営を成功させたい場合は、競合他社との差別化は図るべきである。例えば、機能訓練や認知症のケアなど特定の分野に特化したデイサービスを経営するのは一つのアイデアとなるだろう。また、ICT(情報通信技術)を駆使した先進的なサービスを提供することも、他の事業者が行っていない点では差別化となり得る。

いずれにせよ競合他社が行っていない内容で、利用者にとって価値のあるサービスを提供できれば安定的な収入を得られる可能性が高まるわけだ。

ITの活用や他社との差別化を図ることで安定的にデイサービス事業を経営

デイサービスの経営が難しい背景には、人材確保の困難さや介護報酬の改定などあらゆる要因がある。しかし、差別化や労働環境の改善、ITの活用などを行えば困難な状況下でも経営を安定的に継続できる可能性は十分あるだろう。「デイサービスの経営を始めたい」「すでに行っている」という人は、今回解説した内容をぜひ役立ててみてはいかがだろうか。(提供:THE OWNER

文・鈴木 裕太(中小企業診断士)