シンカー: 市場ではバイデン候補の勝利を織り込み始めているようだが、前回の選挙の記憶、バイデン氏の息子に関する疑惑、郵便投票に関する混乱など、大統領選に関係する不透明感は継続するだろう。郵便投票については、事前に投票を集計し始める州・当日になるまで集計しない州など、郵便投票の制度的な違いによって、発表が始まる段階では片方の候補が優勢に見えるといったことが起こるかもしれない。今回の選挙の環境は議会のねじれが政策運営を停滞させ、国民の不満が強まっているという点で2008年のリーマン危機時の大統領選と共通点が多く、国民から変化を求める動きが高まっている可能性がある。歴史的には、米国議会と政権がねじれ状態に陥いった場合、政権が変わることでねじれが解消された例がほとんどだ。バイデン氏が当選することで、同氏の政策が経済に対して与えるインパクトが懸念されているが、短期的には雇用回復を第一優先とするという点で両者の政策に大きな違いは生まれないとみられ、税制、規制、通商政策などの違いによる経済的な影響は何年かにわたって表れてくると考えられる。バイデン氏が唱えている法人税の21%から28%への引き上げだが、民主党が議会を掌握した場合でも党内から増税に反対する意見が出てくるとの見方もあり、注目は経済刺激策、低所得者への支援、環境問題といった話題になるだろう。これまで、バイデン氏の当選は増税などを通して株式にとってはネガティブとみられていたが、家計のサポートに積極的な民主党が政権と議会をおさえることで、株高+イールドカーブのスティープ化が加速するかもしれない。
グローバル・レポートの要約
●欧州経済(10/22):2021年予算案…イタリアとスペインに注目
財政ルールの適用は控えられているが、2021年の各国予算案(DBP:Draft budgetary Plans)は興味深い。各国の財政スタンス、国債発行、復興計画に関して有意義な情報が含まれているからだ。イタリアとスペインのDBPに注目すると、2021年はともにコンセンサスに沿う内容だが、両国とも明らかに下振れリスクがある(新型コロナ感染者が最近急増していることや、新しく社会的規制が課されていることから)。
スペイン、イタリア両国の予算案をみると、欧州復興基金の重要性が明らかになっている。両国とも、復興基金に頼って景気回復を計画している。実際にも復興基金は、イタリアでは2022-23年にかけての楽観的な景気および政府財政見通しの主因になっている。スペインも、計画より速い(復興基金からの)資金提供を望みつつ、早くも2021年には経済へのインパクトが発生するという明らかに強気の見通しを採っている。
最後になったが、イタリアとスペイン(および独仏)は2021年も緩和的な財政スタンスを維持するとみられる。つまりEUは今の所、欧州債務危機の時と同じ失敗は繰返していない。
●グローバルストラテジー(10/23):セクター・分類別の株価:決定要因は、債券か極端なバリュエーションの修正か
セクター別・分類別(グロース株、バリュー株などに分かれる)の株価パフォーマンスは、これまでに無いほど国債に左右されている。シクリカル性の回避という「氷河期」のテーマが株式市場にも深くしみ込んでおり、非常に極端なほどFAANG銘柄がアウトパフォームすることが可能になった。ではいま現在の状況はどうだろうか。
・筆者は先週、同僚のAndrew LapthorneとGeorge Oikonomouが、弊社の旗艦的イベント「SG 2020 Derivatives Conference」に登場したのを熱心に見ていた。彼らは“Seriously… what's wrong with Value-”(バリュー株の欠点は何か)と題した興味深いクオンツ戦略レポートも発表したばかりで、 テーマを拡大することができた(筆者もレポートを実際に手に取ってみた)。 弊社は調査部サイトにも主なプレゼンテーションのビデオを載せており、彼らの話を聞く(見る)ことができる。バーチャルとはいえ、人が話すのを見るのは良いものだ。
・何とイベント2日目の“The Ice Age is about to take its final bow. How deep will it be-”(差し迫る氷河期最後の一撃はどれだけ深刻か)と題した筆者の講演ビデオも視聴できる。20分に詰め込んだが、筆者も多くのことを盛り込みたかった。筆者はこうしたビデオには初の出演となる。マクロ経済・投資戦略の同僚とは異なりカメラの前に立つのは遠慮しがちだ。
・筆者がカメラを向けられると自信が無くなるのは、幼少時にいわゆる(大きな)立ち耳だったことが理由かも知れない(今は手術で矯正)。1960年代に 子供向け番組キャラクターのピンキー&パーキー(Pinky and Perky)がグレート・オーモンド・ストリート病院(英国の代表的な小児対象病院)を訪れた時をまだ覚えている。カメラマン達は筆者の頭に貼られた大きな絆創膏を見て、最も病気の重い子どもと誤解して筆者を連れ出しピンキー&パーキーとの写真を撮り、それが全英タブロイド紙の1面を飾った。これは1968年の出来事だが、筆者はまだペテン師症候群(自分が詐欺師だと考える傾向)を抱えている。
・ペテン師症候群に触れたところで、米国ハイテクセクターの話に戻る。本レポートの読者諸氏はご存じのように、筆者は米国ハイテクセクターを「『グロース株』の仮面を被るシクリカル株に支配されている」と長い間見ており、膨張したバリュエーションがリセッション入りで吹き飛ぶと見込んでいた。筆者は大きく間違っていたが、5月末にそれを認めており、改めて謝罪するつもりはない。だが筆者もFAANG銘柄は「信念のバブル」(での株価上昇)で年内に株価が下落すると自信を持っていたので、検証する必要がある。その際の重要な問題は、筆者の同僚であるラプソーンの最新レポートと強く関連している。
●債券市場(10/26):インフレを祈って
新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、英国のEU離脱をめぐる協議も難航する中で、市場の注目は米大統領選のわずか数日前、10月29日に開かれるECB理事会へとシフトしつつある。欧州中央銀行(ECB)はハト派的な金融政策を維持し、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の延長を準備する以外に選択肢はない。現在、米国とユーロ圏の金利は逆方向に押されているが、米国外の投資家にとって米国債の魅力が徐々に増しているため、そうした傾向は弱まるかもしれない。新型コロナウイルスをめぐる悲観的なムードが強まらなければ、米国の選挙結果が年末に向けて市場の方向を左右することになろう。弊社の中期的な基本シナリオは、米国のイールドカーブが着実にベア・スティープ化し、欧州のイールドカーブが遅れて追随するというものだ。ただし、リスク回避の機運が台頭してくれば、ドル金利が押し下げられ、ユーロ金利に収斂していく展開も起こり得る。このため、ユーロ金利に対するドル金利ボラティリティーのロング・ポジションを維持すべきである。
●アセットアロケーション(10/23):米国中心の60/40ポートフォリオから脱却
ある投資家が米国中心の60/40ポートフォリオ(60%がS&P500 + 40%が米10年国債)を保有しており、ポートフォリオは月次ベースでリバランスされると仮定しよう。次に単純化のため、この投資家の期待リターンは利回りの総和(株式益回り+国債利回り)であると想定しよう。この場合、過去40年間で名目期待リターンは1980年代初めの10%台前半から現在の約2.0%まで徐々に低下してきたはずである。また、債券部分がこの低下の主因となってきただけでなく、積極的な財政拡張へのパラダイムシフト(IMFからドイツまで)は株価と債券価格の負の相関を危うくし、また、株価下落局面でのドローダウンを緩和することで60/40ポートフォリオの存在意義を薄れされている。このため、米国資産から資金をさらに分散化するだけでなく、「安全」資産とは何かを再考することが求められている。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社調査部
チーフエコノミスト
会田卓司