カンブリア宮殿,北海道,鈴木直道
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コロナ禍の観光地~北海道の独自策

コロナショックで客足が遠のき、全国の観光地から悲鳴が上がっている。だが8月、北海道千歳市・支笏湖を訪ねてみると、いち早くにぎわいが戻っていた。聞けばほぼ全員が北海道内から来た旅行客。気軽な日帰りの客が多いが、出掛けたくなる理由もあった。

それが「道内旅行商品割引」、通称「どうみん割」。北海道民が道内旅行で利用できる割引キャンペーンだ。例えば支笏湖で人気のガイド付きカヤック体験は、通常1人7000円のところ「どうみん割」で4000円に。このどうみん割、日帰り旅行なら1人最大5000円、宿泊なら1人1泊最大1万円安くなる。

「毎年ゴールデンウイークはすごく忙しい時期なのですが、今年は全く人がいなくなったので、夏が来て良かったと思います」(カヤックガイド・板谷この実さん)

春先の客数は9割減まで落ち込んだが、8月はほぼ例年並みまで戻ったという。

やはり「どうみん割」の恩恵を受けた「しこつ湖 鶴雅リゾートスパ 水の謌」。「ミシュランガイド北海道」で四つ星を獲得した高級ホテルだ。室内に専用の露天風呂まであるゴージャスな部屋の宿泊料金は、通常なら1人1泊2食3万8650円(平日大人2名利用)が、「どうみん割」で1人1万円も安くなる。

レストランの食事のこだわりは北海道の食材。そして新たな取り組みで評判を呼んでいるのがビュッフェのコーナーだ。以前は大皿を並べた定番のスタイルだったが、現在はコロナ対策であらかじめ小分けして蓋をするなど、感染対策をして出すようになった。幾つとってもいいので食べ放題は変わらない。鍋料理や北海道の海の幸、美しいデザートを少しずついろいろな形で味わえる。小皿ビュッフェが新たな目玉になっている。

「食材のロスが減り、よりお客様にいい食材を提供できるようになったと思います」(料理長・尾崎友昭さん)

このホテルも「どうみん割」が導入された7月以降、客の数は例年並みまで持ち直したと言う。支配人の永田義幸さんは、「海外のお客様はゼロになりましたが、その分、道内のお客様に来ていただいている。非常にありがたい効果がありました」と言う。

カンブリア宮殿,北海道,鈴木直道
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GoToトラベルより早く実施~北海道・鈴木直道知事の決断

カンブリア宮殿,北海道,鈴木直道
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こんな独自の仕掛けで北海道を元気付けようとしているのが、現職最年少知事の鈴木直道(39)だ。鈴木は今年2月、国より40日も早い段階で緊急事態宣言を発令。道内1600の小中学校を一斉休校にし、外出も自粛。経済を止める荒療治だったが、第一波の感染拡大を抑えることに成功。

観光業への支援が必要となれば、独自の判断で「どうみん割」を導入した。導入はGoToトラベルより3週間早かった。こうした手腕に、道民の支持率は88%に及ぶ。

一方で、鈴木はSNSを使って食の生産者の応援も始めていた。それが自ら出演して牛乳を飲み干す「牛乳チャレンジ」。学校の給食がなくなり、困った酪農家のために「もっと牛乳を飲もう」と動画を流した。すると、賛同者が続々と続いた。

8月、「大丸」札幌店で開かれていたのが北海道の物産展。並んだのは北海道の隠れた名品だ。道内の豚肉を使った「元祖ぐる巻きソーセージ」(880円)は粗挽きの手ごねだから肉汁もたっぷりで、熱烈ファンが多いと言う。酪農の町・美深町の「ラクレットチーズ切り落とし」(1296円)も。お得でおいしいと大人気だ。

「春の催事に向けて準備していたのが全部ダメになりました。5ヵ月ぶりの出店です」(「お肉屋さんたどころ」の田所達朗さん)

コロナショックで全国の催事が中止になり、多くの食品事業者が売り場を失い困っていた。そこで北海道庁が道内の百貨店と交渉。まず札幌市内から物産展を再開させたのだ。

さらに鈴木は「どうみん割」に続く第2の矢も放った。修学旅行誘致作戦だ。

留寿都村の「ルスツリゾート」に9月の下旬、続々と大型観光バスが到着した。乗っていたのは千歳市立千歳中学校の生徒たち。修学旅行で立ち寄った。4月に京都に行くはずだったが、コロナの影響で延期に。それが9月、やっと実施されたのだ。

修学旅行の誘致の準備は8月半ばに始まっていた。北海道庁で観光業をどう立て直していくかという作戦会議が開かれていた。会議を主催したのは鈴木知事の片腕で観光部門を任されている経済部の山﨑雅生次長。呼び集められたのは道内のホテルグループの若き経営者たち。コロナで修学旅行を延期、あるいは中止した学校を全国から呼び込もうという作戦だ。

その基本は感染対策。千歳中学校の旅を例にとると、移動は観光バスだが、座ったのは窓側の席ばかり。通路側の席は開けている。これまでは5台で済んでいたバスを今回は倍の10台用意した。宿泊地は北海道を代表する湯けむりの里、登別温泉の「ホテルまほろば」。ここでも部屋は余裕を持って3人で使う。

余分にかかるバスや部屋の料金を北海道が持つ。この誘致作戦で道政は11億円の予算を計上。これまで1500件の申し込みがあったという。

カンブリア宮殿,北海道,鈴木直道
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夕張市長から北海道知事へ~支持率88%のリーダー

「高校生の時から働いていますが、いろいろな課題に向き合って、それをどうやって乗り越えればいいかを考えること自体は嫌いではない。当然つらいですけど」と、鈴木は言う。

鈴木が高校生の時に両親は離婚。学費を稼ぐため、アルバイトに明け暮れる日々を送った。その後、東京都の職員となった鈴木が北海道と関わったのは27歳の時。財政難で職員の減った夕張市役所を手伝いに来たのだ。

当時の夕張市は350億円の負債を抱え財政破綻した日本初の自治体。そんな夕張を立て直そうと派遣されてから3年後の2011年、鈴木は市長選に立候補。30歳で市長となった。

目的は財政再建。給料は自ら7割カットし、手取り20万円で走り回った。都の職員時代から付き合っていた麻奈美さんと結婚。夫婦で夕張の暮らしをスタートさせた。

夕張市が抱える最大の問題は点在する3700戸もの古い市営住宅だった。空き家率は40%。1棟に1人でも住んでいれば、市がメンテナンスしなければならない。維持管理費が年間2億円近くかかっていた。

そこであちこちに分散していた住宅を1ヵ所に集約。市役所や病院、商店街も集める計画を立てて財政を立て直そうとしたのだが、反対する者が続出。当時、その説得に当たったのが鈴木だった。

なんとか納得してもらおうと、住民の元に何度も説明に通った鈴木。しかし、反対の声はなかなか収まらなかった。ところが2年後、反対していた住民達は新しい市営住宅に移っていた。しかも、満足そうな表情まで浮かべていた。

鈴木は何をしたのか。2015年に出演したカンブリア宮殿でその答えを明かしていた。

「みんなが疑問を持ったら、いつでも行く制度を設けてあるんです。最初の頃は吊るし上げのために呼ばれて、3時間も4時間も『これはどうなっているんだ』という話になります。でも私の経験からいうと、だいたい1時間か1時間半で疲れてくる。疲れてくると『お前も大変だな』という話になる。『今の時代は申し訳ないけど我慢してもらわないといけない。でも子供の代にはたぶんいい形になる』と言うと『納得いかない』と言うけど、呼ばれなくなる。話は平行線でも、そういう考えもあるということは伝わったんじゃないかと思います」

この経験が現在の支持されるリーダー像の土台となった。

カンブリア宮殿,北海道,鈴木直道
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北海道No1コンビニ~セイコーマートの貢献

カンブリア宮殿,北海道,鈴木直道
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北海道には困っている生産者を救うコンビニもある。

増毛町は40軒の果樹園が集まるフルーツの里。ただし、この夏は散々だった。コロナの影響でサクランボ狩りの客が途絶え、7月の売り上げは4割も減ってしまった。

そこで手を差し伸べたのが「セイコーマート」だ。もともと増毛の洋梨を使った「洋なしゼリー」(135円)や「洋なしアイス」(129円)などを製造していたが、その販売を強化。今年は洋梨の仕入れ量を予定の1.5倍の14トンまで増やすことにした。

「どんどんセイコーマートさんが欲しいと言ってくれるので、出荷量は増えています。ありがたいことです」(農家・仙北要さん)

「セイコーマート」は北海道ナンバーワンのコンビニチェーン。店舗数では道内最多、王者「セブンイレブン」を抑え、1128店を展開する。8割以上が過疎という北海道の市町村だが、ほぼ全域をカバーしている。

日本海に面した人口1200人余りの初山別村には6年前に出店。コロナの中にあっても休むことなく営業してきた。道民にとってはライフラインともいえる店だ。

「セイコーマート」はマスクも作り始めた。実はこれまで道内にマスクの製造工場はなかった。今回のような非常事態に備え、製造ラインを持つことにしたのだ。

「コロナはリーマンショックと違い、生産者や原料の供給者にまで影響を及ぼしていることが分かってきました。コロナの中で我々ができること、地域に貢献できることを、常に考えながら行動しています」(丸谷智保セコマ会長)

創業115年になる新十津川町の金滴酒造も「セイコーマート」の取引先。北海道随一の酒米の産地にあり、こだわりの日本酒を造ってきた地元メーカーだ。しかし、やはりコロナショックが響いた。

「4~6月で7割近くの減少。お酒を飲む会合がなくなり大打撃です」(名取重和社長)

宿や居酒屋の休業などもあり日本酒の消費は減少。タンクには去年作った酒が売れ残っていた。この窮地に駆け付けたのが、「セイコーマート」アルコール飲料担当の日下陽介。取り扱う量を増やす前提で、売り方の提案にやってきたのだ。

それは「お得なサイズを作ってみては」という提案だった。救済ではなく、あくまで一緒に売っていこうというスタンスだ。

「コロナで清酒メーカーの売り上げが減ると、酒米農家の収穫にも影響する。少しでもプラスに変えられるように助けることができたらいいと思います」(日下さん)

蔵元も応えようと懸命だ。

「1本でも多く1店舗でも多くセイコーマートさんに扱っていただけるように、うちも努力しないといけないと思っています」(名取社長)

生産者と共に、北海道のものづくりを守り抜く。

カンブリア宮殿,北海道,鈴木直道
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~村上龍の編集後記~

両親が離婚、大学をあきらめる。高卒で東京都職員に。昼は都庁に、夜は夜間大学へ。夕張へ真冬の着任。職場は17時以降マイナス5度。市長に請われる。給料が下がる。東京では歯車の一つ、住民の顔が見えない。夕張では「自分は必要とされている」と思えた。妻が「死ぬわけじゃないから」 歩きづめで両足の親指の爪が内出血で真っ黒に。

知事に立候補したのは、財政再建団体の長として8年働いて、一定の道筋を作ることができた。もしかしたら道民に役立つ可能性もあるかも。危機感の塊とも言える知事は、そうやって、誕生した。

<出演者略歴> 鈴木直道(すずき・なおみち)1981年、埼玉県生まれ。1999年、高校卒業後、東京都庁入庁。2008年、夕張市へ派遣。2011年、夕張市長に就任。2019年、北海道知事に就任。

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