現金などの資産をそのまま相続するのではなく不動産にして相続する相続対策は非常に有効な手段となってきますが、どのような物件を所有するのかによって、具体的な節税効果にはかなりの違いが生じるのも確かです。ここでは、節税効果に大きな影響を及ぼす圧縮率について、わかりやすく説明します。

税理士が教える相続税の知識
(画像=税理士が教える相続税の知識)

一口に賃貸要不動産と言っても、個々に相続税の節税効果が異なる!

相続税の課税額を計算する際には、所有している資産の種別や個別の事情などを勘案したうえで、それぞれがどの程度の価値に相当するのかを算定します。こうした算定結果を数字で示したものが「相続税評価額」と呼ばれるものです。

現金や預貯金の「相続税評価額」は額面通りの金額になるのに対し、不動産の場合はかなり違ってきます。建物については、自宅の場合が「相続税評価額=固定資産評価額」となるのが通常で、建築費の約6割に相当する評価となります。

その建物を賃貸物件として貸し出していた場合は、「自己利用家屋の相続税評価額×70%」に評価が下がります。他人が使用していると、容易には処分できないことなどを配慮した措置です。

税理士が教える相続税の知識
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土地の「相続税評価額」についても、自己利用のケースで2割程度、賃貸に回していたケースで4割程度も安くなります。このように現金の資産と比べて評価額を大幅に抑えられることから、賃貸物件の所有は相続対策の決め手になると考えられているわけです。

もっとも、実勢価格にほとんど差のない不動産で、いずれもその土地に賃貸物件が建っていたとしても、「相続税評価額」には少なからず違いが生じるものです。なぜなら、土地の形状やロケーションなどによっても、「相続税評価額」が異なってくるからです。

せっかく所有するなら、圧縮率の高いものを!そもそも圧縮率とは?

たとえば、いびつな形状になっている土地(不整形地)は正方形や長方形の土地(整形地)と比べて開発に制約が生じやすいため、そういった点を配慮して「相続税評価額」も相対的に低くなります。ほぼ同じ取得費用だったとしても、不整形地に課される相続税のほうが整形地に課されるそれよりも少額になってくるわけです。

不動産業界では、実際の資産価値よりも「相続税評価額」をどれだけ減額できるのかを示した数値を「圧縮率」と呼んでいます。「圧縮率」が高いほど大きな節税効果を見込めることになり、相続対策で物件を吟味する際にはその数値もしっかりとチェックしておきたいところです。

販売価格が3億円でほぼ同等の2つの物件があったとしても、Aのほうの圧縮率が40%であるのに対し、Bのほうが70%だったとしたら、具体的にどれだけの違いが生じるでしょうか? Aの「相続税評価額」が1億8000万円であるのに対し、Bのほうは9000万円まで下がります。

税理士が教える相続税の知識
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圧縮率だけでなく、安定的な家賃収入をもたらす収益性も重視すべき!

このように、圧縮率の高い物件はより大きな節税効果を期待できるわけですが、税負担のことにしか目を向けていないと、後悔を招く恐れも出てきます。相続対策においては、相続人の税負担をできるだけ抑えることともに、受け継いで本当によかったと思ってもらえる優良資産を遺すことが求められてくるからです。

圧縮率が非常に高くて相続税の負担はかなり抑えられたとしても、つねに空室だらけで家賃収入も大して入ってこない賃貸不動産を相続しても、困り果てる人のほうが多いはずです。得てして空室続きの物件は傷みも早く、いたずらに維持費ばかりが出ていくハメにもなりかねません。

圧縮率とともに重視すべきはその物件の収益性です。空室が出にくく、発生してもすぐに次の入居者が見つかると言う魅力的な物件を選ぶことで、安定的な家賃収入を見込むことができ、相続する側にも喜ばれる遺産となるのです。

そういった魅力的な物件は、おのずと資産価値も低下しにくくなります。先々で相続人が手放すことを決断した際にもより有利な価格で売却できる可能性が高いと言えるでしょう。

圧縮率と収益性がどちらも高い物件の条件とは?

では、圧縮率と収益性のどちらも高いという理想的な物件は実在するのでしょうか? まず、圧縮率の高い不整形地は東京においても特に賃貸需要の高いエリアに無数に存在しています。

そして、不整形地は開発に制約が生じがちだとはいえ、知恵を絞れば入居者の心を打つ魅力的な賃貸マンションを建てることは十分に可能です。入居者が重視するのは外観や間取り、設備などといった住み心地に直結する部分であり、魅力的なマンションが建っていれば、その土地の形状がどうなっているのかについてはさほど気に掛けないでしょう。

周辺の物件よりも天井が高めになっていたり、窓の数が多かったり、あるいは収納スペースが広めだったりといったように、建物において差別化を図るポイントはいくつも考えられます。賃貸生活者に人気のエリアで「圧縮率」が高くなる土地を取得したうえで、こだわりを感じさせるマンションを建設すれば、空室知らずの人気物件となる可能性は高いでしょう。

そうすれば、安定的な家賃収入を期待できると同時に資産価値も高く保たれ、さらに将来の相続時には税負担も抑えられるわけですから、まさの三拍子揃った相続対策だと言えそうです。

まとめ

現金などと比べて「相続税評価額」が大幅に低くなる不動産は相続対策の有効な手段ですが、物件ごとに節税効果が異なり、それを判断するのに役立つのが圧縮率と呼ばれる数値です。圧縮率は高いほど、節税効果は大きくなってきます。

ただし、相続対策においては、安定的な家賃収入をもたらして価値が高く保たれる資産を遺すという観点も不可欠です。圧縮率とともに収益性も重視し、相続人から感謝される対策を遂行しましょう。(提供:税理士が教える相続税の知識