前回までのベンチマークの話題については、業界仲間を含めて各方面から多様なコメントを頂戴した。「賛同」「共感」の声が寄せられる一方で、「反対」若しくは「批判的」な意見もあった。ただ、ひとつ誤解の無きように申し上げれば、筆者のコメントは全て自分自身のリアルな運用経験に基づいているということ。教科書や論文で勉強した机上の空論(失礼!)やシミュレーションではなく、実際に実弾(リアルマネー)を飛ばした実戦経験に基づく確かなものだ。

経験値としては、定量分析を利用したクオンツ運用と呼ばれるものから、その対極とも言えるボトムアップ型運用、つまり靴底を減らして歩き回る刑事(デカ)のように、コツコツと企業訪問を重ねながら投資先調査をする運用までが含まれる。そして総資産4000億円超をファンドマネージャーとして全権と全責任をもってマネージする一方で、実務叩き上げだけではなく、全部積み重ねれば身の丈をよりも高くなる量の専門書を読み漁って蓄えた投資理論などが知識背景だ。

教科書よりも、現場で学ぶことに真実がある

長期投資,おすすめ
(画像=Fast&Slow / pixta, ZUU online)

まだ高校生だった頃、筆者は右ひざの半月板損傷を経験して大変な思いをしたことがある。その時にお世話になった某大学病院の整形外科医に「教科書的には一度傷ついた半月板は治らないことになっています。ただ、臨床経験的には膝の周りの筋肉を鍛えることで、膝への負担が減り、結果的に治癒した例はいくつもあります。その方法でもう暫く頑張りませんか?」と提案され、結果として手術をしないで治した経験がある。大学生の頃にはスキーも、サーフィンも楽しむレベルまで回復した。

ベンチマークについても、この「教科書的には」という側面と、「臨床経験的には」の側面の両方から考えるべきだ。ただ残念なことに、この手の議論を教科書的な知識を踏まえて「臨床経験的には」と語れるキャリアを持つ人は、日本では非常に少ない。だからだと思うが、ベンチマークの有効性に関する議論、もう少し拡大して「アクティブ運用かパッシブ運用か」という議論は傍から聞いていると、一種の宗教論争のように聞こえてしまう。

それ故、敢えて筆者がもう一度お伝えしたいのは、この連載の内容は全て筆者の実体験に基づいているということだ。

「行動経済学、恐るべし」バークレイズの現場で学んだこと

実は筆者の主張と同じ立場を取っていたのが、前職バークレイズの富裕層部門である。バークレイズの大きな特徴は、まず最初にお客様に行動経済学を取り入れた「投資特性分析」を受けて頂き、その結果を踏まえたうえで様々な提案をすることだ。その「投資特性分析」で見えてくるものの一つに、お客様がアクティブ運用を好むのか、パッシブ運用を好むのかがある。

当然のことながらお客様自身は専門家では無い。いきなり「アクティブ運用かパッシブ運用かどちらにしますか?」などと切り出しても困惑されるだけだ。時々巷でこうした質問をお客様にしている金融人を見掛けてしまう。そして大概「どういう意味ですか?」「よく分からないから、お薦めのほうにお付き合いするわ」などと返されて、逆に本人がコンプライアンス的にも非常に厳しい状況に追い込まれている。笑えない話だ。

「投資特性分析」が秀逸なのは、お客様自身の好みが具体的に顕在化していないのに、そもそも、「アクティブ運用とパッシブ運用」とはどういうものかさえ理解していないのに、適切な分析結果を得られることだ。要は潜在意識を具現化させるのだが、現場の最前線に常に居た指揮官として、或いは資産運用業の職人として、「行動経済学、恐るべし」と常々感心していた。