【経営トップに聞く 第38回】三根公博(bitFlyer代表取締役)
「インターネット以来の大発明」とも言われる「ブロックチェーン」を基盤技術として用いているビットコインなどの仮想通貨(暗号資産)は、今後、社会でさらに広く活用されることが予想される。しかし、仮想通貨に対して持っているイメージは、人によって様々なのではないだろうか。日本最大級の仮想通貨取引所である〔株〕bitFlyer代表取締役の三根公博氏に、同社の成長の理由と仮想通貨のこれからについて聞いた。
証券会社並みのガバナンスとセキュリティを構築
――仮想通貨取引所は、日本でもいくつも設立されています。その中で、ビットコインの取引量が2016年から4年連続で国内1位になるなど、御社が最大級となっているのはなぜでしょうか?
【三根】まず、ユーザーインタビューなどの結果から、知名度の高さから当社を選んでいただけていることがわかっています。友人が当社を利用しているから自分も利用を始めた、という話もよく聞きます。また、アプリが使いやすいことや、仮想通貨取引所だけでなく仮想通貨販売所も運営していて、販売している仮想通貨の種類が多いこと、2014年4月に日本初のビットコイン販売所をオープンしてサービスを開始して以来、1度もハッキングされていないセキュリティの高さなども、多くの方に利用していただいていることにつながっていると思います。
――業績も伸びていましたが、2019年12月期は赤字になりました。2018年6月に金融庁から業務改善命令を受けた影響でしょうか?
【三根】1年後の2019年6月に業務改善命令が解除されるまでの間、ガバナンスやセキュリティの強化を行なったので、そのためのコストがかかりました。また、2019年の夏頃から仮想通貨のマーケットでの取引きが低調になり、当社が得る収益も下がりました。この両方の要因で、2019年12月期は赤字になりました。
しかし、ガバナンスやセキュリティの強化のためのコストは一時的なものです。2020年7月半ばからは仮想通貨の価格が上がり、ボラティリティも上がっていますから、現在は売上も伸びています。
――ガバナンスの強化というと?
【三根】当時は資金決済法に基づく仮想通貨交換業者(今年5月1日からは「暗号資産交換業者」)だったのですが、金融商品取引業者、いわゆる証券会社と同等のコーポレートガバナンスを構築しました。部分的には、証券会社以上の体制になったと思います。
――御社と同時に、同業他社も一斉に業務改善命令を受けました。これによって業界全体のガバナンスのレベルが高まった?
【三根】そうだと思います。証券と違って、仮想通貨はデータがすべてです。例えば株券にしても、実際には「券」が実物としてあるわけではなく、電子化されています。しかし、そのデータが盗まれても、「誰がどこの口座にどの企業の株券をいくら持っている」という事実に変わりはありません。一方、仮想通貨は、データが盗まれれば、持っていた仮想通貨自体がなくなってしまいます。仮想通貨を盗んだ人が逮捕されたり、盗まれた仮想通貨を取り返すのは、極めて困難です。ですから、ガバナンスやセキュリティの強化は極めて重要です。
――コロナ禍の影響は?
【三根】仮想通貨は広い意味で「巣ごもり消費」の対象の一つで、コロナ禍の中でも口座開設が低迷することはありませんでした。今年3月には、日米欧のグループ全体のお客様の数が250万人を突破しています。2019年12月にeKYC(電子本人確認)を導入して、口座開設の手間を少なくしたことも影響しているかもしれません。
コロナ禍で実体経済は悪化していますが、仮想通貨の価格は実体経済とリンクしないのが特徴です。先ほどお話ししたように、2019年夏以降、取引きが低迷したのですが、今年1~3月は回復しました。その後、4月から7月第2週くらいまでは再び低迷したものの、現在はまた回復しています。