2020年9月16日、病気を理由に退いた安倍前政権に代わって菅義偉内閣が発足した。そして、菅首相は前政権の政策を基本的に踏襲するスタンスを示しながらも、規制改革の推進や縦割り行政の打破に意欲を示し、さらに東京への一極集中是正にも言及した。

かねてより東京への一極集中を問題視する識者は存在したし、その弊害について多くの人たちはおおよその想像がつくだろう。とはいえ、なぜ菅政権は今のタイミングで重点課題の一つに取り上げたのか?一極集中を是正することで、むしろデメリットは生じないのか? 改めてこの問題について考えてみたい。

菅政権が掲げた「東京への一極集中是正」は、安倍政権から引き継いだ宿題だった!?

東京
(画像=naka/stock.adobe.com)

今さら言うまでもなく、地方は過疎化の一途をたどっているのに対し、首都圏では人口流入が続いている。

コロナ流行前まで止まらない東京への一極集中

2019年における首都圏の転入超過(転出者<転入者)は、14万8,783人に達したが、2018年の転入超過も13万9,868人で、2017年よりも1万4338人の増加を記録した。日本人だけに限ると、実に23年連続の転入超過となっている。

ところが、2020年5月下旬に発表された総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」では、2020年4月の転入超過数が前年同月よりもほぼ半減していた。図らずも、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて同年4月7日に緊急事態宣言が発せられたことが首都圏への人口流入に待ったをかけた格好だ。

例年、春は進学や就職、異動で特に首都圏への人口流入が顕在化する。コロナの流行が、そのような動きを止めた。一過性の現象とも思われるが、別の観点では大きく流れが変わる契機にとも捉えられる。

東京への一極集中は前政権も課題視していた

東京への一極集中是正は、前政権時代からも課題視されていたことに触れておきたい。2014年、当時の安倍政権が「地方創生」を掲げたことまでは広く知られているだろう。

実は、同政策では2020年までに首都圏への転入と転出を均衡化するとの具体的な目標を掲げていた。地方に10万人分の雇用を創出することで、地方から首都圏への転入者を6万人減らし、地方への転出者を4万人増やすとの見通しを立てていたのだ。

しかしながら、コロナによって力づくで押さえつけられるまで、いっこうに流入が止まらなかったことは冒頭で触れた通りである。このような経緯も踏まえれば、一極集中是正も前政権から引き継がれた「宿題」であるとも言えよう。

実は、「東京への一極集中」が発生したのは明治時代を迎えてからだった

歴史を振り返ってみれば、江戸の世から東京は日本の首都ではあるものの、人口において一極集中となったのはその当時からではない。明治時代が始まった時点では、米どころの越後をはじめとして東京よりも多数の人口を抱える地方都市がいくつも存在した。

東京への一極集中はいつからか

東京都が管理している「東京都の人口(推計)」データによれば、廃藩置県が行われた翌年の1872(明治5)年時点における東京の人口は85万9,345人で、対全国比では2.47%にすぎながった。だが、明治政府が推進した近代化政策とともに増加し続け、1912(大正元)年には275万7,500人(対全国比5.45%)、1926(昭和元)年には469万4,400人(同7.73%)に達し、戦後における高度成長下の1962(昭和37)年に初めて大台である1,018万203人(同10.7%)に達した。

その後、昭和51年から平成7年にかけてはやや減少傾向を示すも、再び増加基調に戻り、2018(平成30)年には1,384万3,403人(10.95%)まで拡大している。2015(平成27)年に実施された国勢調査で日本の総人口は、1920年の国勢調査開始以来で初の減少を記録しているが、依然として東京の人口は増え続けているのだ。

あらゆる機能が東京へ一極集中するリスク

東京に集中したのは、人口だけに限らない。国の立法、行政、司法における中枢機関や企業の本社、教育機関、マスメディアなどがこぞって拠点としていることから、政治経済の中心、情報・文化の発信源としても東京の存在感が際立つようになった。

東京で創出されるGDP(国内総生産)は日本全体の約2割を占めているが、他の地域よりも生産性が高いことに起因したものではない。あくまで、企業の本社が集中しているからにすぎないのだ。

就任早々、菅総理大臣は総務大臣に対し、東京圏への一極集中の是正に向けて地方自治体の実態調査を指示したが、具体的にどのような施策を推し進めるのかはまだ明らかになっていない。しかし、これまでの発言などから察すると、コロナの感染拡大に伴うテレワーク(在宅勤務)の普及などをきっかけとして、地方分散を図るべきだという課題が浮き彫りになったと捉えている模様だ。

また、菅総理は国家の危機管理という側面から見ても、現状の一極集中は危ういと考えている様子である。首都直下型の地震が発生すれば、立法、行政、司法の3権が機能停止を余儀なくされ、日本全体がマヒ状態に陥りかねないからだ。

「東京への一極集中是正」の大きなカギの握るテレワークの普及

テレワークの普及は一極集中是正を進めていくうえで大きなカギを握っている。

東京への一極集中是正となるか?コロナ後に変化するテレワークの導入状況

以前からDX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として、テレワークの導入は大手企業などの間で検討課題となっていたものの、最も優先すべきテーマとは位置づけてられていなかった。

だが、コロナの感染拡大で企業規模の大小を問わず、否応なく導入せざるを得ない状況に追いつめられたのは周知の通りだ。東京都が都内の従業員30人以上の企業を対象に実施した「テレワーク導入緊急調査」にも、その状況は如実に表れている。

緊急事態宣言下の2020年4月におけるテレワークの導入率は63%に達し、3月時点の24%からわずか1ヵ月間で2.6倍に急増したのだ。しかも、2019年12月の時点では約2割の社員を対象とした導入だったのに対し、2020年4月にはその約2.5倍の約5割に拡大している。3月調査と比較して、より幅広い業種にテレワークが普及しているのも大きな特徴である。

労働環境の変化による東京への一極集中是正への動き

公益財団法人日本生産性本部は、2020年5月上旬にインターネットを通じたアンケートで第1回「働く人の意識調査」を実施し、同月下旬にその結果を発表した。その中で、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う働き方の変化への質問に対し、最多回答は「特に変化はない」の40.7%だったが、「多少変わった」(35.0%)と「大きく変わった」(24.3%)の合計は59.3%で、やはり過半の人たちの労働環境には大なり小なりの影響が及んでいるようだ。

そして、「感染拡大の収束後もテレワークを継続したいか?」との問いには、「そう思う」の回答が24.3%で、「どちらかと言えばそう思う」が38.4%に達していた。これらを合計すると62.7%で、テレワークへのシフトは比較的高く支持されている様子である。

政府が一極集中是正の具体策を打つ前から、一足早く動きを見せる企業も出てきている。2020年9月、人材派遣大手のパソナグループは東京本社の主要な機能を兵庫県の淡路島に移転することを発表し、営業や人事部門などの約1,200人の社員を2024年5月末までに異動させるという。

また、通信販売「ジャパネットたかた」の運営で知られるジャパネットホールディングスも、東京に配している主要機能を2021年の冬をめどに福岡市に移転すると発表した。

「東京への一極集中」がもたらした功罪

東京への一極集中でどのような弊害や成果があったか、改めて整理してみよう。

東京一極集中がもたらしたメリット

明治から昭和にかけて、西洋に大きく遅れをとっていた近代化政策を進めるうえで、東京に政治経済の中枢機能を集約することは非常に効果的だったのは確かだ。企業は所轄の官庁との折衝やビジネス上の取引、人材の登用などにおいて東京一極集中のほうが効率的で、そのことが目覚ましい経済発展に結びついた側面もあると言える。

東京一極集中によるデメリット

何事も度が過ぎてしまうと弊害をもたらしがちである。東京にすべてが集中しすぎた結果、さまざまな面において地方との格差が深刻化している。冒頭でも触れたように、地方の過疎化が進むだけでなく、産業や雇用においても地方のぜい弱ぶりが目立つ。東京からの分散を図ることは、地方の活性化を進めるうえで大前提となる施策と言えよう。

さらに歴史的に振り返れば、150年程度の間に急速な東京集中化が進められてきたことで、東京における社会インフラの老朽化が続々と深刻化していることも憂慮すべきだ。前安倍政権時代から国土強靱化計画が進められてきているものの、一極集中が是正されないと、先述したように首都直下型の大地震が発生した際にはあまりにも脆い。

コロナの感染拡大が東京への一極集中是正へのチャンス

これまで見てきたように、もはや弊害のほうが圧倒的に目立っていると言わざるをえないのが東京への一極集中だ。しかし、前安倍政権が「地方創生」政策においてほとんど成果を上げられなかったように、けっしてその推進はたやすいものではない。「地方への企業の本社移転を促進させればいい」と識者は指摘しがちだが、その動機づけが求められるからだ。

しかしながら、目の前ではそれを促しうるパラダイムシフトが生じつつあると言えそうだ。東京に中枢機能を集約させていると、企業が第一に果たすべき責務である事業の継続が、脅かされることを痛感させたのが今回のコロナ感染拡大だった。

その一方でコロナ禍は、テレワークやウェブ会議をはじめとする多様な働き方の有効性を実証する機会をもたらした。場所を特定しなくても、自由に働ける環境がさらに整っていくことによって、首都圏で生活することが前提ではなくなりつつある。

このように働き方の進化に伴い、人々の意識にも変化が生じているようだ。内閣府が6月に発表した「コロナウイルス感染症の影響下における 生活意識・行動の変化に関する調査」においても、東京23区在住の20代の35%が「地方移住への関心が高まった」と回答している。

DXで「東京への一極集中是正」を実現し、新たなビジネスも創出へ

この先、若い世代や子育て中の世代などが、豊かな自然や暮らしやすい環境を求めて、首都圏から地方へ移住する動きが活発化する可能性は十分に考えられる。また、緊急事態宣言下の「ステイホーム」中にも“巣ごもり消費”でeコマースの需要が増大したが、地方への移住が進めば、さらに広範の商品・サービスがインターネット上で取引されることになるはずだ。

併せて5G(次世代通信規格)の整備も進められており、遠隔医療を筆頭に、今までは技術的に難しかったことがオンライン上で可能となってくるだろう。言い換えれば、地方への移住と技術革新が同時進行することで、新たなビジネスも創出されうるのだ。

コロナへの対応とDXの推進が求められている今は、「東京への一極集中」を是正する絶好の機会であり、ラストチャンスでもあると言えるかもしれない(提供:THE OWNER

文・大西洋平(ジャーナリスト)