株式投資により得られる経済的な利益として、売買による譲渡益(キャピタルゲイン)や配当(インカムゲイン)、株主優待などはよく知られているが、「貸株」によって利益が得られることはあまり知られていない。貸株とはどのような仕組みなのか、貸株のメリットやデメリット、貸株を始める方法について確認しよう。

1.貸株とはどんな仕組みなのか?

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(画像=筆者制作)

貸株には、次の2つの意味がある。

1,信用取引で売建(空売り)を行うため、証券会社が投資家に対して株券を貸し出すこと
2,投資家が保有する株券を証券会社に貸し出すこと(一般に「貸株サービス」といわれる)

今回は後者の貸株サービスについて解説しよう。

貸株サービス(以下、貸株)は、

1,投資家が保有する株券を証券会社に貸し出す
2,証券会社が借りた株券を他の投資家に貸し出し、利益を得る
3,証券会社はその利益の中から投資家に「貸株金利」を支払う

という仕組みだ。貸株金利(貸株料)は銘柄や日によって変動し、中には年1%以上となる銘柄もある。貸株の対象となるのは証券会社が対象外とする銘柄を除く、国内上場銘柄だ。受け取った貸株金利は、雑所得として総合課税の対象になる。

貸株は主にネット証券を中心に提供されており、貸株金利や対象銘柄などは利用する証券会社によって異なる。

2,貸株サービスでいくら利益が出るのか?

このような仕組みの貸株サービスだが、実際にどのくらい利益が出るのか見てみよう。

貸株金利(貸株料)の計算方法

貸株金利(貸株料)は、次のように個別の銘柄ごとに日割りで計算される。

貸株金利(貸株料)=貸株数量(貸株数)×その銘柄の時価(※1)×貸株料率/365
(1銭(=1/100円)未満は切り捨て)
(※1)金利計算実行日における、その銘柄の株式市場(証券会社の定める優先市場)の終値、または最終気配値段

貸株金利の額シミュレーション

実際に上記の計算式に当てはめて、貸株料率1%のA社の株式を100株貸株した場合の貸株金利(貸株料)を見てみよう。

なお、A社株価(終値)は8月1日(金)1,000円、8月4日(月)1,100円とした。

金利計算実行日 計算式 貸株金利
(税引前)
8月1日(金)営業日 100株×1,000円×1%/365 2.73円
8月2日(土)休業日 100株×1,000円×1%/365 2.73円
8月3日(日)休業日 100株×1,000円×1%/365 2.73円
8月4日(月)営業日 100株×1,100円×1%/365 3.01円

株式市場の休業日の貸株金利は、直近の営業日の終値を使って計算される。複数の銘柄を貸株している場合の貸株金利は銘柄ごとに計算し、その合計(円未満切り捨て)がその日の貸株金利となる。

この条件で4日間貸し出した場合、投資家は11.2円を受け取れる計算となる。1日平均で2.8円なので、その月が31日間だとすると86.8円だ。1万株を貸し出した場合は、8,680円になる。実際には金利が株価は変動するため、このように単純な計算にはならないが、ひとつの参考にしてもらいたい。

3,貸株の始め方を5ステップで紹介

貸株サービスを実際に始めるには、サービスを提供している証券会社に口座を開設し、利用を申し込めばすぐに利用できる。

貸株ができる主な証券会社一覧

まずは、貸株サービスを行っている証券会社を紹介しよう。

証券会社 内容・特徴
SBI証券 国内株式の貸株サービスの他、米国貸株サービス
「カストック(Kastock)」も利用できる。
権利自動取得サービスは株主優待のみ対応。
貸し出し中に配当金支払いがあった場合は、
配当金相当額が支払われる。
楽天証券 権利自動取得サービスは株主優待・配当ともに対応。
金利優先コースでは、権利確定日の貸株金利が通常の5倍となる。
「信用貸株™️」を利用すれば、代用有価証券の貸し出しも可能。
松井証券 権利自動取得サービスは株主優待・配当ともに対応。
貸株金利は最低0.2%と高く設定されている。
マネックス証券 権利自動取得サービスは株主優待・配当ともに対応。
代用有価証券の貸し出しも可能。
auカブコム証券 権利自動取得サービスは株主優待のみ対応。
「代用貸株®」を利用すれば、代用有価証券の貸し出しも可能。
GMO
クリック証券
貸株金利1%以上の銘柄が多く、金利水準が高め。
権利自動取得サービスは株主優待のみ対応。
野村證券 株式得とく登録(事前登録型株式等貸借取引)という名称で展開。
「登録料優遇コース」「優待受取コース」では、
年0.03%または年0.02%の登録料が受け取れる。
いずれかのコースに登録済みの株のうち、
野村證券が提示する銘柄を対象とした「プレミアム得とくコース」
を利用する場合は、登録料にかえて野村證券が提示する
賃借料を受け取れる。
プレミアム得とくコース利用中の株は、
貸借終了日まで返却・売却できない。
みずほ証券 株券貸借取引(株孝行)というサービス名で展開。
3サポートコースの顧客のみが対象。
原則として取引金額1,000万円以上から。
貸借取引期間中は株を売却できない。
(※各社ホームページを元に筆者作成)

対面証券の一部でも、「賃貸取引」として貸株サービスを提供しているが、ネット証券の貸株サービスとは異なる点が多い。賃借取引では、株の途中売却ができない、株主優待が受け取れないなど、ネット証券の貸株サービスに比べて制約が多く、あまり使い勝手がいいとはいえない。

貸株を利用するための手続き5ステップ

貸株を利用するための手続きは証券会社によっても違うが、基本的にネット上で完結する簡単な手続きだ。

<貸株を利用するための5ステップ>

  1. 貸株に関する注意事項・契約内容について確認
  2. 貸株の対象とする株式の設定(※2)
  3. 貸株の自動返却設定(※2)
  4. 契約への同意・承諾
  5. 利用開始

(※2)利用する証券会社によっては設定(選択)できる内容は異なる。

まずは利用したい証券会社の貸株サービスの申込ページを開き、注意事項や契約内容について記載された書類を確認する。

確認後は、「保有しているすべての株」「貸株契約後に購入した株」「個別に指定した銘柄のすべての株」「個別に指定した銘柄の一部の株」といった選択肢から、どの株を貸株の対象とするかを設定する。選択肢(コース)は利用する証券会社により異なる。

証券会社によっては、配当や株主優待、議決権など各種権利取得の基準日に、貸株が自動で返却される仕組みがある。自動返却(権利自動取得)の仕組みがある場合、貸株金利の受取を優先する(自動返却を利用しない)のか、権利の取得を優先する(自動返却を利用する)のかを設定する。

必要な設定を済ませ、契約内容に同意・承諾すれば、利用申込は完了だ。早ければ即日または翌営業日から、貸株を利用できる。

4,貸株サービスを利用したら配当金はどうなるのか?

貸株サービスを利用するにあたって気になるのが、配当金の扱いだ。証券会社によっては、配当金受取の権利確定日に貸株を一時的に解除するサービスもあるが、それがない場合はどうなるのだろうか?

配当金は配当金相当額として支払われる

配当基準日に配当がある銘柄を貸株していた場合、配当は名義人である証券会社が受け取る。貸株をしている投資家には、配当から源泉徴収される税額を差し引いた「配当金相当額」が支払われる。

配当金相当額支払いの場合は

貸株をしても配当に相当する利益は得られるが、配当金相当額は税区分上の「雑所得」として、総合課税の対象となり、原則確定申告が必要だ(一定の条件を満たす場合は確定申告が不要となる場合もあり)。

配当金相当額は支払い時に所得税が源泉徴収されているが、雑所得としての所得税や住民税がさらに課税されることになる。総合課税では、雑所得の他、給与所得や事業所得などの所得をすべて合算し、課税所得金額の多い人ほど高い税率が適用されるため、所得の多い人ほど税負担が増える。

また、配当金相当額は配当所得ではないため、配当控除の対象とならず、株の譲渡損失と相殺(損益通算)もできない。配当控除や損益通算による利益(課税所得)の圧縮ができなくなれば、税負担が増える要因になる。

配当金として受け取るにはどうしたらよいか?

配当金を配当金相当額として受け取るデメリットを避けるには、配当基準日に貸株を解除しておけばよい。証券会社によっては、配当基準日に自動的に貸株を解除するサービスがある。

配当基準日は株主優待の基準日と重複していることも多く、この場合は株主優待の自動取得サービスを利用しても、配当を配当金として受け取れる。ただし、株主優待は年1回(例:基準日3月31日)、配当は年2回(例:基準日9月30日(中間配当)、3月31日(期末配当))といった銘柄や、配当と株主優待の基準日が違う銘柄では、株主優待に関係ない基準日(例では9月30日)に貸株が解除されない。この場合は、自身で貸株を解除しておかなければならない。

5,貸株サービスを利用したら株主優待はどうなるのか?

配当金だけでなく株主優待の扱いについても紹介しよう。

自動返却サービスを利用すれば株主優待は受け取れる

貸株中の銘柄は、株主優待を受けられない。株主優待を受けるには、基準日(権利確定日)時点で株主(株の名義人)であり、株主名簿に記載されていなければならないが、貸株中の銘柄は証券会社名義になっているからだ。

一方で貸株を利用している場合でも、権利確定日前に貸株を自身の名義に戻しておけば株主優待を受けられる。それには自身で貸株を解除するか、貸株の自動返却サービス(株主優待自動取得サービス)を利用する方法がある。株主優待自動取得サービスを利用すれば、権利確定日に自動的に貸株が返却され、株主優待を受け取る権利を獲得後に再度貸し出される。自身で手続きしようとすると忘れてしまいがちなので、このサービスの利用がおすすめだ。

貸株サービス中は優待情報のこまめなチェックが必要

ただし、株主優待情報が直前に変更になり、情報の更新が間に合わなかった場合には返却が行われず、株主優待を受けられないこともある。確実に受け取りたい優待があるなら、自身でも変更がないか確認しておくのが安心だ。

株主優待には、1年以上あるいは3年以上といった長期の継続保有が優待条件になっていたり、長期保有すると優待内容がアップしたりする銘柄もある。このような銘柄では、権利確定日だけ貸株を解除しても継続保有要件を満たせないことがある。長期継続保有と見なされる要件は銘柄によっても異なるため、優待を行う企業のサイトやIRなどで個別に確認が必要だ。

株主優待を確実に受け取るためにはどうしたらよいか?

優待取得に必要な株数以上の株を保有している場合は、優待取得に必要な株数は貸株せず、残りの株だけ貸株すれば、銘柄に関係なく継続保有の要件を満たせる。受け取れる貸株金利は減ってしまうが、確実に株主優待を受け取るためには有効な方法だ。

6,貸株サービスの5つのメリット

このように資金効率を上げられて、気軽に始められる貸株サービスだが、具体的にどのようなメリットがあるのかを確認しよう。

メリット1,貸株金利(貸株料)を受け取れる

さきほどのシミュレーションでも記したように、貸株最大のメリットは貸株金利(貸株料)を受け取れることだ。

<100万円の株を貸株したときに受け取れる貸株金利(貸株料)の目安(税引前)>

貸株料率(年率) 貸株期間
1日 1ヵ月(30日) 1年(365日)
0.1% 2円 82円 1,000円
0.5% 13円 410円 5,000円
1% 27円 821円 1万円
3% 82円 2,465円 3万円
5% 136円 4,109円 5万円
10% 273円 8,219円 10万円
(※筆者作成)

貸株金利(貸株料率)が高いほど、貸し出す株数(金額)が多いほど、貸し出す期間が長いほど、より多くの貸株金利を受け取れる。

メリット2,株を保有しているだけで利益を得られる

株を保有しているだけで利益を得られるのも貸株のメリットだ。株を保有して得られるインカムゲインには配当があるが、貸株を利用すれば、貸株金利の分だけインカムゲインを増やせる。保有している株の運用効率を高めるにも貸株は有効だ。

メリット3,貸し出している株も自由に売却できる

貸株中の株は、普通に株を保有しているように、自由に売却できる。売却するために株を返却してもらう手続きは必要ない。通常通りに売り注文を出せば自動的に貸株状態が解消され、タイムラグがなく売却できる。ただし、対面証券の貸借取引では、貸株中の売却ができないので注意したい。

メリット4,株を貸し出す期間を自由に決められる

株を貸し出す期間は自由に決められる。貸株金利は日割りで計算され、貸し出す期間に応じて貸株金利を受け取れる。満期がある定期預金や個人向け国債は、期間途中で解約すると受け取れる金利(利息)は減らされてしまうが、期間の定めのない貸株にはそのようなペナルティもない。

メリット5,手数料は無料

主要なネット証券では貸株サービスの利用に手数料はかからず、無料で利用できる。まずはスモールに単元株から始めてみたい初心者にとっても、気軽にスタートできるはずだ。

7.貸株サービスの5つの注意点

貸株サービスの利用を考えている場合、以下の点については注意したい

注意点1,貸株金利は雑所得として原則確定申告が必要

受け取った貸株金利は、雑所得扱いとなり総合課税の対象で、確定申告が必要だ。これまでNISA口座で取引をしていて、確定申告が必要なかった人にとっては手間が増えてしまう。ただし、給与所得・退職所得、公的年金等収入以外の所得合計が、20万円以下の場合、確定申告が不要となるケースもある。

注意点2,貸株は証券会社が破綻すると戻ってこない恐れがある

証券口座で保有する株は、原則証券会社の資産とは区別して管理され、投資者保護基金によって保護されているため、たとえ証券会社が破綻しても影響はない。しかし、貸株で貸し出した株には分別管理義務がなく、投資者保護基金の対象とならない。投資家が証券会社の信用リスクを負うことになるため、証券会社が破綻してしまうと、貸し出している株が戻ってこない恐れがある。確率としては低いといえるが、このようなリスクがあることは理解しておくべきだろう。

注意点3,貸株金利が高い銘柄はリスクが高い傾向にある

貸株は、証券会社が他の投資家に貸し出す株を調達する手段であり、証券会社から他の投資家に貸し出される株は、信用取引の売建のために売却されるケースも多い。

貸株金利が高いということは、コストを多く支払っても証券会社がその株を調達したい、つまりはその株を借りたい(売りたい)投資家が多いと考えられる。売りたい投資家が多い銘柄の株価は下がりやすく、値動き(ボラリティ)も大きい。リスクが高い傾向がある。

貸株金利が高いという安易な理由で株を購入してしまうと、株価の下落によって貸株金利以上の損失が出てしまう恐れもある。貸株はあくまで保有している株を有効に活用する方法。貸株金利を目当てに株を購入することは避けた方がよいだろう。

注意点4,NISA口座で保有している銘柄・単元未満株は貸株できない

貸出対象銘柄であっても、NISA口座で保有している銘柄や単元未満株は貸し出すことができない。特定口座、ないしは一般口座で保有している株が貸し出しの対象となる。

注意点5,代用有価証券の貸株利用の可否は証券会社による

貸株を取り扱う証券各社における、信用取引口座と貸株の併用、代用有価証券の貸株利用の可否は次のようになっている。

証券会社名 信用取引口座との併用 代用有価証券の貸株利用
SBI証券 ×
楽天証券
松井証券
マネックス証券
auカブコム証券
※代用貸株®を利用すれば可
GMOクリック証券 ×
野村證券 ×
みずほ証券 ×
(※各社ホームページおよび営業店で確認した内容を元に筆者作成(2020年11月18日時点))

2020年11月、マネックス証券が信用取引口座と貸株の併用に対応し、貸株を取り扱う主な証券会社では信用取引口座と貸株の併用が可能となっている。ただし、信用取引の代用有価証券(担保)となっている株を貸株できる証券会社は限られており、その部分に違いがある。

代用有価証券の貸株利用ができない証券会社でも、信用取引の委託保証金(担保)として必要な株(信用建玉の約30%)以外は貸し出せる。ただし、貸し出している株は代用有価証券として利用できない。その結果、委託保証金は減り、信用余力(新規建余力)が少なくなったり、委託保証金維持率が低下したりするため、注意が必要だ。

8,デメリットを減らす対策を取ってうまく利用することが大切

貸株サービスは、保有する株を保有したまま有効に活用できる方法だが、デメリットもある。貸株のデメリットは事前に対策を取れば回避できるものも多い。そのため、仕組みをよく理解し、自身の状況に合わせてうまく利用することが大切だ。

執筆・竹国弘城(ファイナンシャルプランナー)
証券会社、保険代理店での勤務を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。より多くの方がお金について自ら考え行動できるよう、お金に関するコンサルティング業務や執筆業務などを行う。RAPPORT Consulting Office 代表。1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP®︎

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