フィランソロピーは「人類愛」を起源とする概念で、個人や企業が自主的に社会的課題の解決に取り組む活動を指します。企業にとってフィランソロピーに取り組むとどのようなメリットがあるのでしょうか。また、富裕層を中心に個人がフィランソロピーに取り組む重要性はどこにあるのかを考えます。

目次

  1. フィランソロピーの根底にあるのは“人類愛”
    1. フィランソロピーの起源を知る
    2. どのような活動を指すのか?
    3. フィランソロピーは世界的にどう捉えられ、浸透しているのか?
  2. フィランソロピーと寄付の違い
  3. 主なフィランソロピーの取り組みと、そのメリット
    1. 世界的著名人におけるフィランソロピーへの取り組み
    2. 日本におけるフィランソロピーの取り組み
  4. 根底にあるのは「確固たる理念」

フィランソロピーの根底にあるのは“人類愛”

新富裕層,フィランソロピー
(画像=svetlana/stock.adobe.com)

日本ではまだフィランソロピーという言葉は、一般的にはあまり知られていないかもしれません。はじめに、フィランソロピーの起源や意味を確認しておきましょう。

フィランソロピーの起源を知る

日本フィランソロピー協会によると、フィランソロピーの語源は、古代ギリシャ語のフィリア(愛)とアンソロポス(人類)からなっています。つまり、フィランソロピーは“人類愛”を意味する概念です。フィランソロピー活動は、ほかの人を大切に思う「博愛」や「社会貢献」だけでなく、「社会的課題の解決」への取り組みも含まれます。

実業家によるフィランソロピー活動としては、19世紀末に米国で成功を収めたアンドリュー・カーネギーやジョン・ロックフェラーが文化事業や教育分野に多額の寄付をしたことが先駆けとされています。

日本においてはどうでしょうか。大東文化大学教授の大杉由香は2012年に発表された論文のなかで、「(日本で)フィランソロピーという言葉が世間一般に定着するようになったのが1990年代後半以降」と述べています。いずれにしても、米国に比べて我が国のフィランソロピー活動はかなり立ち遅れていることがわかります。

どのような活動を指すのか?

フィランソロピーとは、一般的には慈善や慈善活動を指しますが、近年では企業の社会貢献活動全般を指す言葉として広まっています。とくに日本では企業による公益活動のみを意味する傾向があります。

しかし、世界では実業家や芸能人などを中心に個人でフィランソロピーを実践している人が数多く存在します。フィランソロピーを実践している人は、フィランソロピストと呼ばれています。日本では篤志家という言葉が使われることが多いでしょう。富める人が困った人たちに手を差し伸べる行いは、富の再分配という意味でも極めて重要です。

フィランソロピー活動の具体例としては、企業が主催するチャリティ活動や、社員によるボランティア活動など社会貢献につながるものが中心になっています。よく知られているところでは、チャリティコンサートやチャリティオークションなどがあります。日本テレビの「24時間テレビ・愛は地球を救う」も企業によるフィランソロピー活動の一種と考えてよいでしょう。

また、原宿・表参道を拠点に街の清掃活動を行なっている「特定非営利活動法人green bird」に、著名な企業がサポーターとして支援する新しい形のフィランソロピー活動も出てきています。

フィランソロピーは世界的にどう捉えられ、浸透しているのか?

さて、フィランソロピーは世界的にはどのように捉えられ、どの程度浸透しているのでしょうか。ブリタニカ国際大百科事典の解説をみると、欧米では企業の利益の一部、目処として税引き前利益の1%を社会に還元するのは当然とされており、特に米国では1.6%に上ってるのに対し、日本では0.3%に過ぎないとも述べられています。日本では企業による社会還元がまだ不足していることを示唆しています。

こうした日本におけるフィランソロピーの実情について、楽天の三木谷浩史氏が「新経済サミット2016」でパネルディスカッションの壇上で言及しています。『ビジネス+IT』のレポートによると、「日本の公益法人の投資額は年間8,000億円で、アメリカの約25兆円とは40倍近い開きがある」と語ったといいます。

フィランソロピーに対する日米間の意識の違いがみてとれますが、その背景には、公益活動を行ううえでの税制面などの違いも関係しているようです。

フィランソロピーと寄付の違い

フィランソロピーと寄付は似たようなイメージがありますが、寄付はフィランソロピーという概念の一部に過ぎません。フィランソロピーは、寄付をはじめCSR(企業の社会的責任)活動、NPO(特定非営利)活動、ボランティア、ソーシャルビジネスなど広範囲な活動全体を指します。

個人で考えた場合、普通の寄付はもちろん、街頭に立って募金を呼びかける活動などもフィランソロピー活動になります。もし、こうしたフィランソロピー活動に参加したい場合は、各種NPO法人のホームページで自分にあった活動を探してみるのもよいでしょう。先に紹介したgreen birdの定例の清掃活動には、事前の連絡や登録しなくても現地集合すれば参加できます。

主なフィランソロピーの取り組みと、そのメリット

それでは、個人や企業のフィランソロピーへの取り組みと、メリットについてみてみましょう。

世界的著名人におけるフィランソロピーへの取り組み

世界では著名人も積極的にフィランソロピーに取り組んでいます。実業家ではGAFAの一角、Facebook会長兼CEOのマーク・ザッカーバーグ氏が、保有するFacebookの株式の99%を、将来的に慈善事業に寄付する考えを明らかにしています。ウォーレン・バフェット氏のような古参の実業家だけでなく、ザッカーバーグ氏のような新進気鋭の若手実業家がフィランソロピーのリーダーシップを執るようになったのは頼もしい限りです。

映画俳優や歌手など芸能人もフィランソロピー活動に熱心です。米大衆ニュースサイト「Cinema Café」によると、ジョニー・デップ、レディ・ガガ、セレーナ・ゴメス、テイラー・スウィフト、ジャスティン・ビーバーら人気スター各氏が小児病院を訪問し、闘病生活をおくる子どもたちを励ます活動を行っています。ジョニー・デップは主演した映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」の衣装で病院を訪れ、子どもたちを喜ばせたといいます。まさにフィランソロピーの精神がなければできないことでしょう。

もちろん、著名人ばかりでなく一般の米国人も多くの人が寄付を行っています。米国では寄付に対する税制優遇が充実しているので、善意と節税を両立できるメリットがあるのです。

日本におけるフィランソロピーの取り組み

続いて日本における、フィランソロピーに取り組む企業の事例をみてみましょう。企業にとってフィランソロピーに取り組むことは、イメージアップにつながるメリットも大きいと思われます。また、自社のビジネスに関連するフィランソロピー活動であれば、サービス内容や製品の認知度が上がるというシナジーもあるでしょう。

・UBSグループ
スイスを拠点とする金融会社UBSグループは、日本フィランソロピー協会が主催する「企業フィランソロピー大賞」を2019年に受賞。同社は東京ボランティア・市民活動センター(TVAC)に協力し、「多様な子どもたちの架け橋プロジェクト」を実施しています。

このプロジェクトでは、児童養護施設で暮らす子どもたち、ひとり親の子どもたち、外国にルーツのある子どもたち、障害のある子どもたちを支援しています。具体的には、手話交流イベントや母子ドッチボール大会、多文化ユース・フェスタなどの活動を行っているようです。

・リクルートホールディングス
リクルートホールディングスは、東日本大震災が起きた2011年から「WORKFIT/ホンキの就職」という無料の若者向け応援プログラムを実施しています。

このプログラムでは、グループワークや自己PRと面接、就職活動に活かせるスキルなどを学ぶことができます。はじめは国内の若者や大学生を対象にしていましたが、2016年からはタイヤやベトナムなどアジアの学生も対象に加え、国際的な活動に発展。2020年3月時点で、累計3.3万人もの若者が同プログラムを受講しています。

また、児童養護施設で暮らす子どもたちへの職業観醸成プログラムも展開しており、まさにフィランソロピー活動といえるでしょう。

・パナソニック
パナソニックは2013年から、世界で約11億人いるといわれる無電化地域に住む人々のために、「ソーラーランタン10万台プロジェクト」を実施しています。ソーラーランタンは、日中に太陽光で充電し、夜間には灯りとして活用できるランタン。同社は、2018年までの期間に、アジアやアフリカ諸国の30カ国に10万台以上のソーラーランタンの寄贈を行っています。

ソーラーランタンで明かりが灯ることによって勉学の機会が増え、暗い中での出産や手術などの医術を安全にし、さらには眼や呼吸器だけでなく経済的にも負担のかかる灯油ランプの使用機会を減らすことで貧困の解消に貢献しました。

根底にあるのは「確固たる理念」

以上の取り組み事例をみても、フィランソロピーが単なる寄付活動ではないことがわかります。お金やモノ、あるいは知識・情報を贈るにしても、そこには各企業が目指す目的や理念があるのです。

一方、個人に目を向けると、富裕層にとってはノブレス・オブリージュ(身分の高い者が果たすべき社会的責任と義務)の実践にもつながります。日本でもフィランソロピーが新しい富裕層の常識になることが期待されます。(提供:JPRIME

執筆:丸山優太郎
東京都生まれ。日本大学法学部新聞学科卒業の金融・経済・不動産ライター。おもに金融・不動産メディアで執筆し、市場分析や経済情勢に合わせたトレンド記事を発信している。


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