昨年(2020年)末、米政府が人権侵害を理由としてドローン最大手の中国企業「大疆創新科技(DJI)」に制裁を発動する旨報道された(参考記事)。
DJIが世界の商用ドローン市場シェアに占める割合は70~80パーセントに達している。

DJI社製のドローンはGPSによる位置情報認識による自動回帰、障害物の自動回避や自動追従、故障診断など高精度なフライト・コントロール技術を誇っている。

(図表:DJI社製のホビー用マルチコプター)

ドローン,行方
(出典:Wikipedia)

米国がDJI社に対して制裁を発動した一方で欧州(EU)では様相が異なる。
押収欧州(EU)においては去る2020年来の新型コロナウイルスによるパンデミックにおいて同社の技術が積極的に取り入れられている(参考)。

フランスやベルギーの警察はスピーカーを搭載したDJI社製ドローンを使用してロック・ダウン(都市封鎖)の際のルールに関するアナウンスを放送したり、カメラ搭載モデルを使用したりしてソーシャル・ディスタンスの遵守状況を監視している。イタリア警察も道路の動きの規制監視のためにドローンを使用している。またスペインでは農業用モデルを消毒剤の散布に利用している。

さらにドイツにおいてはドローン武装に関する議論にも進展が見られる。
ドイツでは約7年に渡り無人航空機(UAV)の武装化に関する議論が行われてきた。これまで現与党のキリスト教民主同盟(CDU)とともに賛成の立場に立ってきたドイツ社会民主党(SPU)が昨年(2020年)12月に立場を転換したことでアンゲラ・メルケル(Angela Dorothea Merkel)政権において無人機の武装化解禁は困難であると考えられている(参考)。
これに対して北大西洋条約機構(NATO)事務総長イェンス・ストルテンベルグ(Jens Stoltenberg)が無人機の武装化を後押しするコメントを発したことが報道された(参考)。

そもそも無人航空機(UAV)は人口減少、特にパイロットのなり手の減少という傾向の中でそれに対応するという全体的な枠組みの中で進められてきた(詳細は「IISIAマンスリー・レポート2017年11月号」参照)。
こうしたロード・マップの中で米国による中国(DJI社)に対する制裁が今後どのように進められていくのか。また今次パンデミックにおける新たな利用に見られるように今後さらに他の地域でDJI社製ドローンが様々な場面で活用され、より広く無人航空機、更には無人船といった技術の進歩へと結実していくことになるのか、引き続き注視していきたい。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記す