「日銀が国内株式市場の最大株主になった」
こんなニュースが年の瀬も押し迫った2020年12月中旬にメディアを通じて話題になりました。その日銀が買い進めているのがETFです。日経平均が約30年ぶりの高値を記録する中、「政府が購入するのなら安心かも」と購入を考えるETF初心者の方もいらっしゃることでしょう。しかし、ETFは本当に初心者向きなのでしょうか。結論から言えば、ETFは適切な知識を身に付けておけば、初心者にも投資熟練者にも適した商品です。
そこで、本記事では初心者の方がETF投資を安心して始めるために、知っておくべきことをご紹介します。
ETFとは何か
「『日経平均』が買える!」
2001年、証券会社が売り出したETFのパンフレットには、こんなキャッチコピーが踊っていました。 それは、ある笑い話が元になっています。ニュースで「日経平均」を知った人が証券会社へ行き、窓口で「日経平均を買いたいんだけど」と言って大笑いされたというのです。しかし、ETFの登場で、「日経平均」を買うことが現実になりました。
ETFとは、Exchange Trading Fund(上場投資信託)の略で、株式などの複数の商品を集め、日経平均などの市場価格に連動するように設計された金融商品です。世界最初のETFが登場したのは1993年。 その2年後の1995年に日本で最初のETFが上場した後、2001年に計8本のETFが新規上場しました。ここから日本のETFは本格的なスタートを切りました。
規制緩和でETFの銘柄数は増加
今でこそ、我が国の中央銀行が急速に買い進めるETFですが、登場以来、人気は今一つでした。しかしターニングポイントがやってきます。2007年、金融庁による「金融・資本市場競争力強化プラン」の実施です。それまでのETFは、日経平均やTOPIXなど一部の株式市場に連動するものに限られていましたが、これを契機に金や中国株連動型など多様なETFが誕生したのです。その結果、翌年2008年だけで一気に50本もの新たなETFが上場しました。 2007年時点でのETF銘柄数はわずか18本だったことからも、規制緩和の影響の大きさが分かります。
多様化する商品性
その後もETFの商品性は多様化を続けており、計234本(2021年1月末時点)のETFが購入可能となっています。証券取引所の分類によれば、ETFには7つ(日本株市場、外国株、債券など)のカテゴリーがあり、日本株市場は更に市場別、業種別、規模別、テーマ別に細分化されています。ETFの価格を決める指標も年々増加し、目新しいものでは炭素排出量の少ない企業の株式で構成された「S&P/TOPIX150カーボン・エフィシェント指数」が2018年に公表され、この指標に連動するETFが2020年に計2本上場しています。
ETFを保有する優れたメリットの一つは、連動する指標(日経平均、TOPIXなど)がニュースなどを通じて値動きが分かりやすいことです。しかしETFのメリットはそれだけではありません。
ETFのメリット・デメリット
長期の運用なら、「安いコストで分散投資」
投資を始めるに当たりよく言われるのが、「タマゴは一つのカゴに盛るな」の格言に代表される「分散投資」です。株式、債券や通貨など多様な商品に一定のバランスで投資する「投資信託」を購入することで実現できますが、ETFでは「より安いコスト」で分散投資が可能です。
一般的な投資信託やETFは、購入時、保有時、解約時にそれぞれコストがかかります(ただし、ノーロード型の投資信託を除く)。その中で、特に注目すべきは運用委託会社に支払う信託報酬です。長期で運用する場合、保有期間中は常にかかる費用のため無視できないコストです。
指標連動型の投資信託(インデックスファンド)であれば、信託報酬は年0.1%~1.65%程度であるのに対して、ETFは0.06%~0.95%程度と、ETFのほうが信託報酬は安い傾向にあります。この信託報酬のメリットを生かし、日本や外国株、債券、商品(金・石油など)のETFを組み合わせることで、安価な資産分散化を実現できます。
短期売買なら「レバレッジ・インバース型」
個別株やアクティブ型の投資信託に投資する目的の一つは、市場平均以上の利益が期待できることです。 従って、市場平均に連動するETFは短期売買での利益追求には向いていないといえます。しかし、「レバレッジ・インバース型」のETFを使えば短期での利益追求も可能です。
「レバレッジ型」とは、連動する指標が1上がると、ETFの価格が2倍(またはそれ以上)上がるものです。「インバース型」とは反対に1上がると1倍(またはそれ以上)下がる商品です。簡単に言えばハイリスク・ハイリターンが特徴です。この商品の登場で、ETFは短期売買にも長期保有にも使える金融商品となりました。「レバレッジ・インバース型」のETFは個人投資家の人気を集め、投資部門別(個人投資家)の純資産総額で最も大きいETF型となっています。
ETFではできない自動累積投資
コストが安く、幅広い分散投資が可能なETFにもデメリットはあります。その一つが分配金を再投資することで可能な複利効果です。投資に対する利息や配当を再投資することで元本が増え、その額に応じて利息や配当も増えることから、複利で運用したほうが有利と言われています。投資信託では「累積投資型」を選ぶと、分配金が自動で再投資され複利運用が可能です。しかしETFは分配金を自動で再投資する仕組みはありません。ETFで複利効果を得るためには、分配金の再投資は自分で行わなくてはなりません。
さらに、ETFは分配金の支払いが年1回や年2回が大半で、中には分配金がないものもあります。年4回や6回のものもありますが、まだ少数です。「毎月分配型」投資信託のように、毎月分配金が支払われるものではないことに注意が必要です(分配金が毎月支払われるものもあるが、1銘柄のみ)。
「分散投資」にはノウハウが必要
日本や外国の株式や債券、REITや新興国株など、様々な指標を組み合わせた分散投資が可能なETF。しかし、「最適な」分散投資を実現するには、知識と手間が必要です。自分のリスク許容度に合った資産をどんな割合で組み合わせればよいのか。売買のタイミングはどうするか。分配金利回りや価格の騰落率の検討など、一般的な投資信託では投資運用会社が行ってくれることを、ETFでは自分で考えて行わなければなりません。
しかし、近年は“ロボアドバイザー”を利用すれば、簡単な質問に答えるだけでETFの最適な資産のバランスを知り、買い付けまで全てお任せできるようになりました。ただし、全てお任せの場合、コストは預かり資産の1%前後かかるため、ETFのメリットである「安価で分散投資」の効果は薄れます。
税制面では、投資信託と比べてETFで分散投資を行う場合、構成銘柄の入れ替え時に利益が出ると都度税金がかかるため、ETFが不利である点も覚えておきたいところです。
ETFの購入方法
ETFは個別株と同じ方法で購入できる上、NISA(少額投資非課税制度)を利用すれば非課税での運用が可能です。
注文方法は個別株と同じ
日本の取引所に上場されているETFを購入する場合、まずは証券会社で口座を開設することから始めます。リアルタイムで株価を見ながら、指値または成行で注文します。「指値(さしね)」とは、購入価格を指定して注文を出す方法です。売買が成立しない可能性があるものの、確実に指定した価格で取引できる方法です。一方、「成行(なりゆき)」は銘柄と購入数だけ指定して価格を指定しない方法で、指値注文より売買が成立しやすいものの、意図しない価格で売買が成立してしまう可能性があります。
つみたてNISAで利用できる銘柄は限られる
購入に当たって口座を開設する際は、NISAを利用しましょう。一般NISAの場合、投資額120万円を上限に、最大5年間、分配金や売却益にかかる税金が非課税になります。ただし、NISA口座で発生した売却損は、他の証券会社にある証券口座で発生した売却益と相殺して税金を減らすことができないため、場合によっては税金面で有利にならないこともあります。
また、つみたてNISAを利用すれば、毎年40万円を上限に最長20年間、非課税でのETFのつみたて投資が可能ですが、つみたてNISAで利用できるETFは2020年12月現在では7本に留まっています。
iDeCoではETFを購入できない
会社員の方が加入している企業型確定拠出年金や、一般の方でも加入できる個人型確定拠出年金(iDeCo)。しかし、この制度を利用してETFを購入することはできません。短期売買が可能な個別株やETFは、年金受給年齢まで原則解約できない同制度では対象とされていないからです。
ETFは、初心者にも熟練者にも向いた商品
ETFは、果たして投資初心者に向いた商品なのでしょうか。多様化したETFの全貌を初心者が理解するのは至難の業といえます。価格面では、2021年1月現在、日銀によるETFの大量購入が株式市場全体の相場を押し上げていることから、高値圏の相場で手を出すのに抵抗を感じる方も多いでしょう。
その一方で、ロボアドバイザーの登場や一般・つみたてNISA制度の拡充、市場においてはマーケットメイク制度の導入など、初心者がETFを利用しやすい環境も整いつつあります。「ETFは国民の安定的な資産形成に向けて本来有用な投資商品」(金融審議会市場ワーキンググループ)とも言われており、今後も商品性の分かりやすさ、使いやすさの点で改善が進むと考えられます。
TOPIXなど分かりやすい指標に連動するETFは、初心者にもおすすめできる商品です。しかし、ETFの本来の魅力である安価で長期の分散投資という面では、商品性や税制面などまだ改善の余地もあります。そのことを念頭に、ETF初心者の方は、少額で自身に馴染みのある指標に連動する銘柄への投資から始めてみるのがよいでしょう。(提供:Incomepress )
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