11月20日のAPECでは、中国がTPP11への参加意思を表明した。米国がTPPに復帰しにくいとみられているので、中国はそれを逆手にとったかたちだ。しかし、もしも米国もTPPに参加する立場に変わると、おもしろいことになる。米中が制裁関税を同時に撤廃し、それがポジティブ・サプライズになるだろう。

米中貿易
(画像=Getty Images)

目次

  1. 中国の意外な行動
  2. なぜ、中国が参加できたか
  3. 米中ともにメリットはある
  4. バイデン政権誕生への期待

中国の意外な行動

中国の習近平主席がTPP11への参加を積極的に考えると、11月20日のAPECで発言した。これが驚きであり、本当に時代が変わったと思わせる。もともとTPPは、中国包囲網として構想されたものだからだ。そして、もしかすると、これで米国もまたTPP復帰の可能性が強まるのではないか、と筆者は感じた。

この問題の経緯から、少し丁寧に話す必要があるだろう。TPPは、2005年6月に4か国で始まった小さな貿易協定だったが、2009年11月に米国が参加表明をしてその意義が大きく変貌する。すなわち、環太平洋の加盟国がお互いに貿易取引を優遇する巨大な貿易圏をつくる。それは、中国抜きの貿易圏とするイメージだった。当時のオバマ政権は、参加条件を厳しくすれば、中国はその条件には応じられないだろうと見越していた。中国抜きで経済発展していく、対中国包囲網という考え方だ。

ところが、2017年1月にトランプ大統領が、就任直後にこのTPPから離脱した。日本は、それでもこのTPPの枠組みを重視して、2017年11月にベトナム会合で大筋合意をまとめて、2018年12月に発効へとこぎ着ける。現在は、11か国体制で、TPP11と称している。

時代は変わって、今、包囲されようとした中国がTPPに参加したいという意思を表明している。中国を含めた経済圏が、工業製品について99%以上の関税率撤廃を目指す貿易取引の連携に入ろうとしている。逆に、米国はTPP参加国と重なる国々とFTAなどを結ぶものの、形式的にはTPPに入らないことになってしまう。中国は自身への包囲網を逆手にとるように、参加を表明しているのだ。

なぜ、中国が参加できたか

ところで、中国包囲網のはずのTPP に、なぜ中国が参加することができるのだろうか。この点を不思議に思う人はきっと多いと思う。理由は、2017年11月のベトナムでの合意の時にいくつかの項目について凍結した上でTPPの合意をしたからだ。中国が特に合意しにくい内容は、それによってこの凍結によって外された格好になった。例えば、国有企業への補助金支給や、知的財産の扱い、投資の仲裁人の扱いが中国にとって合意しにくいものだった。それらが凍結されていて、中国にとっては参加のハードルが下がったことが、参加表明の背景にある。

実は中国のTPP参加表明は、全く新しいものではなく、2020年5月に李克強首相が全人代で言及していたものでもある。しかし、今は状況が当時とは変わってきている。だから、心理的インパクトは大きい。トランプ大統領が退場することは確定的になった。11月15日にRCEPの署名により、日中韓など15か国が連携することを決めた。その直後のタイミングである。2021年1月に就任するバイデン次期大統領には、貿易自由化に対して、中国は踏み絵を提示したようにも見える。

米中ともにメリットはある

大方の見方は、バイデン次期大統領はTPPに参加しないという見方だ。しかし、それが完全にないという保証はない。第一に、米国のTPP復帰は、米国にメリットが大きいことだ。中国のTPP参加条件をすぐに厳しくすることはできないが、仮に米国が早期復帰して、凍結させた項目の議論を多国間交渉のテーブルにのせることは不可能ではないようにも思える。バイデン流の多国間交渉で、中国の貿易・経済慣行の是正に働きかけられる。

筆者が期待するのは、もしも米中がともにTPP参加を表明することになれば、その副次的作用として、米中間にある制裁関税を撤廃する方向に向かうことが期待されるからだ。TPPは多国間交渉であり、かつ100%に近い関税撤廃率を目指す交渉でもある。経済連携のために共通のルールづくりをする場でもある。従って、制裁関税をなくすことは、当然の参加の前提になるだろう。2国間交渉で決まった不公正な制裁関税をなくしてから、多国間でフェアなルールづくりが議論できるという筋合いになる。

制裁関税の撤廃は、中国にとってメリットであり、米国にとっても中国の不公正な貿易慣行を是正する意図と合致する。つまり、TPPに米中が参加するようになると、Win-Winの関係になるはずだ。

発展的に考えると、RCEPも将来はTPPに移行できると思える。RCEPは、TPPに比べると関税撤廃率がまだ低く、貿易ルールの縛りも相対的に強くはない。それをTPPに近づけていくことで、経済連携の輪を広げることができる。RCEPの参加国15か国は、TPPと参加国が重ならない部分もある。重なるのは、日本、シンガポール、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、オーストラリア、ニュージーランドの7か国である。ここにTPPに参加していない8か国、中国、韓国、インドネシア、タイ、フィリピン、ミャンマー、ラオス、カンボジアが加わる。米国は、カナダ、メキシコとUSMCAを結んでいて、この2国はTPPに参加している。そのほか、イギリスもTPPへの参加意思を表明しているので、RCEP参加国がTPPに移行して、それ以外からの参加国も増えれば、従来になかったメガ経済圏が出来上がる。

バイデン政権誕生への期待

株式市場は、2020年11月になってから、特に活況を呈している。主因は、ワクチン実用化であるが、そこにはバイデン政権誕生への期待もあるだろう。これは、トランプ時代の負のレガシーへの清算を期待する想いでもある。おそらく、米中の制裁関税の方針が表明されれば、さらに各国株価は大きく上昇するだろう。バイデン氏は、従来から制裁関税のような懲罰的な手法は採らないと表明している。ただ、民主党には様々な意見があり、4年後の大統領選挙への思惑も手伝って、なかなかTPP参加には向かいにくいとみられている。制裁関税の撤廃も具体的な話題になっていないのが実情だ。

しかし、筆者は米中のTPP参加と制裁関税撤廃の可能性は十分にあると予想する。多くの人には、米中対立が継続することを予想する。しかし、制裁関税の扱いは必然ではない。トランプ時代は、中国に対して、制裁関税を脅しにして輸入拡大を迫った。この制裁関税は、経済活動を人質にとった掟破りの手法だったから株価にも大きなマイナスだった。中国の不公正な貿易慣行を是正させるために、関税率を操作しないことは可能だ。別に特定分野の輸出制限や規制をかけることで、中国へのハイテク技術の軍事転用を抑制することもできるだろう。制裁関税という手法が、株価への下押しだったという図式は変えられると筆者はみている。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生