上場初日の株価が公開価格の2倍余りに急騰し、時価総額が米三大手ホテルの合計を上回るなど、米民泊プラットフォームAirbnb(ティッカーシンボル:ABNB)は、センセーショナルな上場を果たした。しかし、予想をはるかに上回る市場の熱狂ぶりに、一部の専門家は警鐘を鳴らしている。新型コロナの終焉が未だ見えず、旅行産業の長期低迷が続く中、果たしてAirbnbは市場の期待に応えることができるのだろうか?
IPOで株価が公開価格から2倍余りに急騰
公募売り出し価格1株あたり68ドル(約7,032円)だったAirbnbの株価は、ナスダック市場に上場した2020年12月10日、初値が146ドル(約1万5,098円)に急騰した。時価総額も上場前日の2倍を上回る860億ドル(約8兆8,937億円)と、マリオット・インターナショナル(430億ドル/約4兆4,468億円)、ヒルトン・ワールドワイド・ホールディングス(390億ドル/約4兆335億円)、ハイアットホテル(80億ドル/約8,273億9,520万円)の合計を超えた。
同様の熱狂は、9日のニューヨーク証券取引所に上場した米フード宅配サービスDoorDashでも見られ、終値は189.51ドル(約1万9,600円)と公開価格の約85%を上回った。コロナ禍でIT株の需要が高まっている2020年はIPO大盛況の年だ。12月11日までに203件のIPOが実施され、総額749億ドル(約7兆7,467億円)を調達した。
しかし、一部の専門家は「市場のハイプ(興奮・熱狂)に流されて新規公開株に飛びつくのではなく、念入りなリサーチに基づいて慎重に銘柄選ぶように」と、投資家に呼びかけている。
巨額の純損失、課税、罰金…待ちうける試練
確かに、現在のAirbnbの業績は順風満帆とは言い難い。2億ドル(約206億9,269万円)の利益を出した2018年から一転、マーケティング費用や管理費の増加により、2019年の最初の9か月は合計3億2,200万ドル(約331億831万円)の純損失を出していたことが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙に報じられている。
そこに、コロナの大打撃である。世界各地で都市封鎖や行動制限が実施された第2四半期には、売上減少から赤字が大幅に拡大した。同期末から第3四半期は、規制緩和により需要が穏やかに回復したものの、収益は前年同期比18%減の13.4億ドル(約1,386億117万円)となっている。純利益は約2億1,900万ドル(約226億5418万円)に持ち直したが、これは5月に実施した1,900人(全従業員の25%相当)の大量リストラや、マーケティング活動の一時停止といった大規模なコスト削減策に後押しされたものだ。
もう一つの懸念材料は、巨額の税金問題である。2013年に子会社へ売却した国際知的財産を巡り、2020年9月、税金13億5,000万ドル(約1,396億 5,959万円)と罰金、利子の支払いを米国内国歳入庁から命じられている。同社は全面的に争う姿勢だが、現時点においては行き先の不透明感は否めない。
欧州で強まる逆風 3つの注目点
追い打ちをかけるように、Airbnbにとって重要な市場である欧州で、以下のような不穏な動きが目立つ。欧州の市場規模は米国(338億ドル/約3兆4,969億円)の次に大きく、フランス、スペイン、イタリア、英国の直接的な経済的影響は、合計297億ドル(約3兆727億円)にのぼる。
1 第二波の影響
欧州で多数の国がコロナの第二波に突入した第4四半期、さらなる需要の低迷は避けられない。12月20日現在、ロックダウンを再発動したドイツやオランダを含め、欧州各地で予約のキャンセルが相次いでいる。この状況は2021年第1四半期に持ち越される可能性が高い。
2 規制強化・短期賃貸禁止
一部の大都市では、Airbnbの運営を規制あるいは禁止する動きが見られる。Airbnbは観光客へのアピールポイントとなる反面、供給・需要過剰は地元の住民や同業者に弊害をもたらす要因となりかねない。
地元の宿泊産業への圧迫や住宅・賃貸価格の上昇などを理由に、オランダではすでにアムステルダムの一部の観光エリアやハーグで、短期滞在目的のレンタルが禁じられている。
また9月には、パリ市と簡易宿所の届け出を申請せずにAirbnbを利用していたホスト間の裁判を巡り、「手頃な価格の住宅が不足している観光のホットスポットにおいて、短期賃貸に制限を課すことができる」との判決を欧州連合司法裁判所が下した。このことから、今後規制を強化する動きが、他の欧州都市に飛び火する可能性が考えられる。
3 「デジタルサービス法」導入
欧州で導入が進められている「デジタルサービス法(DSA)」と「デジタル市場法(DMA)」が、Airbnbに適用された場合、欧州市場に影響を与えるものと予想される。これらの法案は米大手IT企業に、当局・外部企業とのデータ共有や自社サービスの優遇などを禁じ、ビジネスの透明性向上やヘイトスピーチなどへの対策強化を義務付けるものだ。遵守しない企業には、国際収入の最大6%の罰金が課される。
ワクチンが普及すれば回復は2021年3月以降?
Airbnbの見通しに懐疑的な意見が多い中、ポジティブな見方もある。CNBCのTV番組「Mad Money」のホストを務める著名投資家ジム・クレイマー氏は、「2021年4月には世界各国で推定数百万人がワクチンを接種している」という仮定に基づき、2021年3月頃から旅行需要が回復基調に乗ると推測している。
投資情報サイト「InvestorPlace」のシニアアナリスト、ルーク・ランゴ氏は、ゲストが現地の体験やコミュニティに参加する機会を楽しめる「エクスペリエンス(体験)」など、宿泊施設の提供を超えたサービスにも注力している点も、成長を後押しする期待材料になると見込んでいる。2021~22年に旅行産業が再び活気づき、Airbnbが今後5~10年にわたり成長し続けるとの予想だ。
旅行産業に復活の兆しが見えれば、Airbnbが息を吹き返すのは間違いない。しかし、それ以外の数々の問題を乗り越え、企業価値のさらなる向上を図ることで市場の期待に応える力を発揮できるかどうかが、Airbnbの今後の成長を決定するのではないだろうか。(提供:THE OWNER)
※2020年12月執筆
文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)