米国の金融正常化を織り込み、米10年債は1.5%超へ
野村証券 チーフ・ストラテジスト / 松沢 中
週刊金融財政事情 2021年3月1日号
本誌2020年11月2日号で筆者は、米10年債利回りは大統領選後に1.2%を目指すと予想した。この水準に達したいま、予想した根拠を振り返ると、①昨年3月のドル流動性危機のピーク水準1.27%が上値支持線になり、②過去の景気後退期においてその支持線を超えるのは、米連邦準備制度理事会(FRB)が緩和から正常化へとスタンスを修正したとき、というものであった。実際、今年に入って複数のFRB高官から量的緩和縮小論が出始めたのをきっかけに、市場は金融緩和を一部巻き戻す正常化局面に入ったことを意識し始めている。
金融正常化トレードは、景気回復を見込むリフレトレードの延長線上にある。10年代の景気サイクルでは、12年央の米金利大底から13年央のテーパータントラムまでがリフレ、それから15年央(米利上げ開始の本格織り込み)までが金融正常化トレードといえる。前者では金利上昇要因が主にインフレ期待であり、イールドカーブはスティープ化する。それに対し、後者では主に実質金利が上昇し、イールドカーブも中期ゾーン以降でフラット化しやすい。
今回のサイクルが特異なのは、コロナ禍の帰趨が経済見通しを左右することだ。市場は感染者数やワクチン普及度合いを見ながら経済活動の再加速、ひいては金融正常化の開始を織り込み始めてしまう。パウエル議長らFRB執行部は緩和縮小を時期尚早としているが、それがかえって量的緩和縮小の具体的な姿(正常化ペース、買い入れ減額か年限短期化か、利上げ開始とのつながりなど)を見えにくくし、投資家が米債の押し目買いをためらう要因となっている。
市場はFRBが金融正常化に入ったとみた時点から、利上げの到達点、いわゆる中立金利を模索し始める。FRBの長期政策金利見通しの中央値をその代替とすると、中立金利は2.5%だ(図表)。一方、市場の利上げ到達点予想の近似値である5年先ドルOIS(翌日物金利スワップ)金利は1.6%台で、乖離がある。筆者は、中立金利が2.5%程度かそれより上とみている。コロナ後の景気回復がコロナ前よりインフレ的になると考えるためだ。その理由は、①コロナ禍が未曽有の財政・金融拡張策を正当化していること、②コロナ対応の社会コストが価格に転嫁されやすいこと、③中国が外需から内需主導に経済構造を転換しつつあること──などだ。
米10年債利回りと5年先ドルOIS金利の連動性を用いて推計すると、中立金利が2.5%、あるいは控え目に2%とした場合、米10年債利回りはそれぞれ1.85%程度、1.54%程度になる。よって市場が中立金利を模索する動きに入った場合、米10年債利回りは1.5%を超える可能性が高いだろう。
(提供:きんざいOnlineより)