高齢化社会の進展や家族形態の多様化などにより、終活の一環として「遺贈」への関心が高まっています。離れて暮らし日頃あまり関わりのない親族よりも、「共感できる相手に遺産を託したい」という思いを持つ人が増えているのかもしれません。

遺贈とは?

財産,遺贈
(画像=antonioguillem/stock.adobe.com)

「遺贈(いぞう)」とは、遺言によって死後、財産の一部または全てを特定の人に無償で与えることをいいます。受取人(以下、「受遺者」という)は、法定相続人(配偶者および子ども、親、兄弟姉妹などの血族)以外では、法人や団体に遺贈することも可能です。

遺贈ができるのは、15歳以上で意思能力に問題がない人です。現金や預貯金、有価証券、不動産など、財産の内容を問いません。

死因贈与とどう違う?

遺贈と似ているものに「死因贈与」があります。死因贈与とは、本人の死亡によって効力が生じる贈与のことです。死後、財産を特定の人に承継させるという点では、遺贈と共通しています。

しかし、遺贈が遺言という本人の一方的な意思表示で受遺者に財産を与えるものに対し、死因贈与は一種の贈与契約なので、本人の意思表示だけでなく、受け取る人(受贈者)の同意を得る必要があります。また、死因贈与は口頭でも成立し、未成年者は法定代理人の同意を得るなどの必要がある点でも異なります。

法定相続人以外の親族に遺贈する場合でよくあるのは、孫に先祖代々の土地を遺贈するようなケースです。このほか親族以外の第三者に遺贈する場合は、これまでお世話になった友達や内縁関係のパートナーなどのほか、NPOやNGO、福祉団体などに寄付をする「遺贈寄付」を選ぶケースがあります。

生き方が多様化し、子どものいない人や生涯独身の人が増えてきたことから、自分の財産が将来、疎遠になっている親族のものになったり国庫に帰属したりするよりは、理念に共感できる相手に寄付をして有意義に使ってほしいと願う人が増えていることが、遺贈への関心が高まっている理由であると考えられます。

高まる遺贈への関心

2021年1月に日本財団が発表している「遺言・遺贈に関する意識・実態把握調査要約版」によると、「遺贈」という言葉については3割弱が意味まで理解しており、さらに「言葉は聞いたことがあるが、意味は知らない」(26.9%)を含めると、過半数が言葉だけは知っていることが分かります。

Qあなたは「遺贈」という言葉を知っていましたか(単一回答)

知っていた27.8%言葉を知っていた54.7%
言葉は聞いたことがあるが意味は知らない26.9%
知らない45.4%

n=2,000

また、「遺贈をしてみたいか」という問いに対し、実際に遺贈について遺言書に記載している人は0.6%、遺贈してみたいと回答したのは2.5%となっており、その他の回答である「財産があれば遺贈したい」(10.2%)、「遺贈に興味・関心は持っている」(7.3%)の割合も含めると、実に全体の5人に1人は遺贈への興味関心を持っているという結果になっています。

Qあなたは「遺贈」をしてみたいと思いますか(単一回答)

遺贈のことは、すでに遺言書に書いている0.6%遺贈関心
20.5%*
まだ決めていないが、遺贈してみたい2.5%
財産があれば遺贈したい10.2%
遺贈に興味・関心は持っている7.3%
遺贈は知らなかったが社会貢献のために
何らかの寄付はしたいと思っている
6.5%その他
79.5%
遺贈や寄付には興味がない73.0%

n=2,000
*=小数点以下第2位を四捨五入しているため、図表上の数値の単純合計は20.5%になりません

そして、遺贈したい団体や寄付したい団体については、「社会的に意義のあることに使ってもらえる団体」(41.1%)が1位となり、次いで、「自分の意思に沿って使ってもらえる団体」(30.4%)となっており、社会貢献団体や慈善団体への遺贈を希望する人が多く見られることも注目すべき点といえるでしょう。

Qどのような団体に対して遺贈したいとお考えになりますか(複数回答)

順位遺贈したい団体割合
1位社会的に意義のあることに使ってもらえる団体41.1%
2位自分の意思に沿って使ってもらえる団体30.4%
3位地域に根ざした活動を行っている団体17.2%
4位経営がしっかりしていて、将来への信頼性が高い団体17.0%
5位これまでの活動実績が良いと思う団体16.3%
6位国際的に活動している団体11.3%
7位遺贈した財産を団体の管理費に使わない団体11.3%

n=540
※8位以下は不記載
参照:日本財団「遺言・遺贈に関する意識・実態把握調査要約版」

遺贈には2種類ある

遺贈には、「包括遺贈」と「特定遺贈」があります。また、「ペットの世話を引き受けることを条件に、預貯金を遺贈する」というように、遺贈に条件を付けること(負担付遺贈)も可能です。

包括遺贈(ほうかついぞう)

包括遺贈は、「全財産を遺贈する」「財産の半分を遺贈する」というように、財産の全部または割合で指定した一部を遺贈するものです。一部を遺贈する場合は、具体的に対象物が特定されていないため、相続発生後、他の法定相続人と遺産分割協議を行い、何を受け取るのかを決める必要があります。

受遺者は、法定相続人と同一の権利義務を持つため、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産(債務)も引き継ぐことに注意が必要です。もし遺贈を放棄する場合は、受遺者となることを知ったときから3ヵ月以内に、家庭裁判所で手続きしなければなりません。

特定遺贈(とくていいぞう)

特定遺贈は「A銀行の預貯金を遺贈する」「〇〇の土地を遺贈する」というように、特定の財産に限って遺贈するものです。包括遺贈のように、受遺者が法定相続人と同一の権利義務を持つわけではないため、通常は債務を引き継ぐことはなく、遺産分割協議に参加する必要もありません。

特定遺贈は、いつでも家庭裁判所を通さずに直接、遺贈義務者や遺言執行者に対して申し出ることで放棄が可能です。

「遺贈」と「相続」はどう違う?

遺贈は遺言によって行う必要があるため、相続と同様に自筆証書遺言や公正証書遺言など、民法の遺言の方式に従う必要があります。

遺言書の書き方に注意!

遺産の承継には、「相続させる」または「遺贈する」という文言を使いますが、「相続させる」は法定相続人に対してしか使えません。一方、「遺贈する」は法定相続人以外にも使えます。この2つの言葉は、微妙に法的効果が異なるため、法定相続人については「相続させる」という言葉を使用したほうがよいでしょう。

例えば、法定相続人について「不動産を相続させる」と書いた場合、受遺者は単独で相続登記ができますが、「不動産を遺贈する」と書いた場合、受遺者は他の法定相続人や遺言執行者と共同して相続登記をする必要があり手間がかかります。

課税方法はどうなる?

将来、遺言者が死亡すると、受遺者に相続税が課税されます。注意したいのは、受遺者が一親等の血族(父母、子、代襲相続人である孫)や配偶者以外である場合、つまり兄弟姉妹や甥姪、代襲相続人ではない孫等に遺贈する場合は、相続税が通常の2割増しになります。孫が養子になっている場合も同様です。

また、不動産を法定相続人に遺贈した場合、受遺者には不動産取得税がかからず、登記の際の登録免許税は0.4%となります。一方、法定相続人以外への遺贈については、不動産取得税は特定遺贈にのみ課税され、包括遺贈には課税されません。ただし、登録免許税は包括遺贈、特定遺贈ともに2.0%と高くなるため注意が必要です。

相続税は財産を取得した個人に課税される税金のため、遺言によって国や地方公共団体、公益を目的とする事業を行う特定の法人や認定NPO法人に遺贈寄付した場合は課税されません。また、受遺者が遺贈により取得した財産を前述のような特定の公益法人に寄付し、一定要件を満たした場合は、相続税の対象としない特例があります。

遺贈の準備をする際の注意点

遺贈の準備の際には、以下の点に注意する必要があります。

遺言の方式

自筆証書遺言、公正証書遺言のどちらでも可能ですが、将来、方式面や内容面で問題が生じにくい公正証書遺言にするほうが望ましいといえます。その上で、正本または謄本を、受遺者や遺言執行者が保管するようにしましょう。

2020年7月10日から、自筆証書遺言を法務局で保管する制度が始まり、これを利用すると相続発生後、家庭裁判所の検認手続きが不要になりました。しかし実際には、遺言書の閲覧や証明書の請求に手間がかかることや、遺言書の内容が間違っていて実行できない恐れがあることには従前と変わりありません。そのため、自筆証書遺言を選択する際には注意してください。

受遺者の了承

遺言者からすれば、遺産をあげるのだから歓迎されるはずだと思いがちですが、実際には遺産の内容が受遺者の意に沿わない場合や人間関係などを考慮して、受遺者が遺贈を放棄するケースがあります。特に、負担付遺贈の場合は消極的になりやすいので、確実に実現したい場合は生前に受遺者の了承を得ておくようにしましょう。

財産の内容

その財産を相手にあげても迷惑にならないか考えましょう。都会暮らしの会社員が田舎の不動産を遺贈されたものの、売るに売れず維持費だけがかかって困るというのは、よくある話です。特に遺贈寄付の場合、不動産は受け付けないなど団体によって対応が異なるので、事前に相談しておくとよいでしょう。

遺留分

法定相続人のうち、兄弟姉妹や甥姪以外には、最低限保障された権利(遺留分)があるため、遺言により遺留分を侵害すると将来、受遺者が遺留分侵害額請求を受ける恐れがあります。

遺言執行者

遺贈を確実に実現するために、必ず遺言執行者を決めておきましょう。2019年7月1日より、法定相続分を超える権利の承継については対抗要件を備えた人が優先されるようになったため(民法899条の2)、相続発生後、すぐに遺言執行者が遺贈の手続きを行い、登記などの対抗要件を備える必要があります。

遺贈に関しては、自分の気持ちや自分を取り巻く人間関係を理解した上で適切な判断をすることが大切です。具体的な手続きについては弁護士や税理士などの専門家に依頼するなど適切な対応を行うようにしてください。(提供:Incomepress


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