ドル円相場のカギを握る対外M&A
バンク・オブ・アメリカ チーフFX株式ストラテジスト / 山田 修輔
週刊金融財政事情 2021年3月22日号
米先物取引委員会(CFTC)の建玉統計によれば、アセットマネージャーとレバレッジファンド勢による円先物のロングポジションは引き続き削減され、3月9日時点で約3万6,000枚のネットロングと、年初の11万枚超の3割程度にまで低下した。1月下旬以降、円ロングの巻き戻し(ポジション解消)によりドル円は急伸したが、ポジション主導の相場は一巡しつつあり、需給を確かめるタイミングに来ている。
ここで、実体経済におけるドル円の需給を見てみたい。通常、直接投資勘定と季節調整後の経常収支を合算した基礎的国際収支が黒字になれば円高要因、赤字になれば円安要因と整理される。財務省が3月に発表した今年1月の基礎的国際収支は、輸出減、輸入増、対外直接投資増により、マイナス1,730億円と、昨年7月以来の赤字となった。
世界経済の回復に鑑みれば輸出は増加基調を取り戻すと予想されるが、日本の国際収支動向を左右するのは原油価格と直接投資だ。原油価格上昇は日本の燃料輸入額を押し上げ始めている。1月の日本の鉱物性燃料輸入額は1.1兆円と、2020年3月以降初めて1兆円を上回った。日本の燃料輸入額は中東のスポット原油価格に1~2カ月遅行することから、直近の原油価格上昇は少なくとも初夏まで日本の輸入金額を押し上げると考えられる。原油価格が足元の水準を維持するなら、日本の21年の輸入額は前年比5兆円以上増加すると試算され、基礎的国際収支の赤字化につながろう。
決定的に赤字に転じるか否かは日本企業による対外M&Aの動向次第となろう。過去12カ月間、対外M&Aが減ったことで、直接投資勘定の赤字は11.1兆円と、13年来の水準まで減少し、基礎的国際収支の黒字化に寄与してきた(図表)。背景には、新型コロナウイルス感染拡大を受けた企業の業績悪化や先行き不透明感の高まりや、対外M&Aを遂行する上での物理的障害などが考えられる。
しかし、こうした状況は改善されつつあり、今年の対外M&Aは昨年を上回る公算が大きい。確かに企業のバランスシートは痛んでおり、市場が18~19年に見られたほどの活況を取り戻すかは分からない。一方で、新型コロナによって先送りされた買収案件がたまっている可能性がある上、産業構造の変化や技術革新が趨勢的に対外M&Aを推し進める要因になると考えられる。
今年のドル円相場を考える上で、日本企業による対外M&Aは極めて重要なファクターとなりそうだ。
(提供:きんざいOnlineより)