ネット上には日々、おびただしい数の情報が飛び交っている。時代に合わせて新しいSNSやアプリ、ソーシャルメディアとともに新しいコミュニケーションが生まれている。

ただ、人間関係が生まれる交差点には、常に新しい問題や社会課題が発生するのが世の常。ソーシャルメディアでの匿名性の高いつながりから生じる性犯罪やネットいじめ、誹謗中傷など「ネット上に生まれるコミュニケーションの課題」の解決に事業として取り組むのが、アディッシュだ。

ソーシャルメディアの投稿モニタリングや学校裏サイト対策、ソーシャルアプリ向けのカスタマーサポートなどをサービス展開し、最近ではMaaS分野でも取り組みを始めている。社会が持続可能であるためにはどうすればいいのか。根底に流れる思想や思い描く未来について、代表の江戸浩樹氏に話を伺った。

ネット時代の「新しく柔軟なカスタマーサポート」が課題を解決

アディッシュ株式会社代表取締役 江戸 浩樹氏
(画像=アディッシュ株式会社代表取締役 江戸 浩樹氏)

定額制・サブスクリプション型のサービスが増えてきた近年、カスタマーサービス、カスタマーリレーションという言葉をよく聞く。サービスと顧客との接点の中心が店舗からネット上へ移った結果、ネットでの顧客対応が重要視されるようになったためだ。

アディッシュでは、人と人がつながるからこそ起きる課題を解決し、利用者にとって健全で心地よい“居場所”をつくることを目的とした「カスタマーリレーション事業」を展開している。
顧客企業に代わりカスタマー対応を行う「ソーシャルアプリサポート」事業を主力に、企業向けと学校向けの「モニタリング」事業などを展開している。2020年9月には誹謗中傷などのトラブルを事前に防ぐことを目的に、SNSなどへ投稿前にAIが「再考」を促す自動判定システムを開発、提供を開始した。

アディッシュの「ソーシャルアプリサポート」は、ソーシャルアプリなどのネット上のサービスに対して寄せられるユーザーのお問い合わせにメールやオンラインツールで対応を行う。従来のコールセンターが担っていた業務の「ネット版」と考えるとイメージしやすい。
一方の「モニタリング」事業は、ネット上のリスクや誹謗中傷などに対し代行して対策を行う。主に「企業向け」の「インターネットモニタリング」とネットいじめに特化した「学校向け」の「スクールガーディアン」を展開している。

顧客は数百社。「SNSやCGM(ユーザー生成コンテンツ)など、ネット上でユーザーが発信する機会の多いサービスを展開されている企業とのお取引が多い」中で、ジャンルはさまざまだ。スマホアプリやゲーム、シェアリングサービスやマッチングサービスを含むプラットフォーム関連、フィンテック、最近ではMaaS系企業も取引がある。この並びを見ると分かるように「アディッシュは特に、WebやIT系企業に対して知見が豊富で、柔軟性を発揮できる点に強みがある」と江戸氏は言う。

「コールセンターなど従来型の顧客対応の延長線上だけで新しいカスタマーサポートを考えると、柔軟にビジネスモデルを変えるのはどうしても難しいんです。当社の場合は時代の要請やクライアントの求めるサービスに適応して運用方法をアップデートしていくスタイルを得意としています。

クライアントと並走してともにアイデアを出し、例えば当社のスーパーバイザーがコンサルティングを行いながら、カスタマー対応、運用体制などを柔軟に変えていきます」

ソフトウェア開発の新しい手法で、短いPDCAサイクルを繰り返す「アジャイル開発」に似ている。実際、最先端のWeb企業や大企業の新規事業部門と親和性が高いという。

「ここ数年は、顧客の成功体験を支援するために、何を提供して、それをいつのタイミングでサポートするのか、カスタマーサクセスを意識して動いています。
これをすることで、クライアントはチャーンレート(解約率)の低下やアップセル、クロスセルにつながり、中長期的に顧客との関係性が持続されます」

アプリやソーシャルゲームが台頭する勝機に乗った事業立ち上げ時代

設立は2014年、現在はグループ会社含め700名ほどを擁するアディッシュ。代表の江戸氏は2004年に東京大学農学部を卒業後、事業立ち上げを視野に入れつつ就職活動をし、エージェントに紹介されたベンチャーのガイアックスにインターンを経て入社した。

入社後はSNSやネット上のコミュニティなどで企画や開発を担当。新しいSNSが次々と立ち上がっていた時代である。LINEがまだ世の中に広まっていなかったような時代。twitter、モバイルのソーシャルゲーム、ブログ、SNSなどが流行し始め、「書き込み」が現れた。その頃に蓄積したノウハウや知見、経験が現在の「インターネットモニタリング」事業立ち上げにつながっている。

「クチコミサイトやアプリなどの場はもともと好きなんです。ただ、人の可能性を広げてくれる便利さがある一方で裏には必ず闇が生まれます。場の運営者たちはもちろん、闇を生むことを意図していたわけではないのですが、場の手軽さに乗じてネットを使った性犯罪や誹謗中傷が生じてしまった。そうした社会問題を解決したいと思ったのが原体験です」

初受注はクライアントのファン向けSNSサービスで、24時間ユーザーの投稿を定期的にモニタリングするものだった。

「ユーザーにとっても企業にとってもメリットがある。また、事業立ち上げ以前から、SNSが伸びていく時代の波が見えていました。ビジネス面でも、毎日必要になるサービスを作れる。今で言うサブスク型、ストック型のモデルなので事業化できると考えました」

ただ、「人力対応」だけでは成長が見込めないことは分かっていたため、「インターネットモニタリング」事業の立ち上げから数年後に自社システムを開発。クライアントのコミュニティサイトと連携し、キーワードなどから効率的にチェックの必要なコメントを抽出。最終的にオペレーターが確認、判断、エスカレーション(上流へ報告)を行う流れを作った。これにより相当タスクが効率化されてコストも抑えられ、事業が伸び始めたのだ。

「ソーシャルアプリのカスタマーサポート」が立ち上がったのは、そのあとのこと。扱う内容こそ異なるが、ユーザーの投稿や問い合わせをポリシー(運営方針)を設定し、システムで効率化しつつ解決し、レポーティング(報告)する。基本的なノウハウは同じだった。

「当社のミッションはネット上のつながりを常によろこびにし、安心安全な場所にすることです。このミッションを起点に考えればカスタマーサポート事業も当然、視野に入ってきます。使っているサービスや商品の良さを十分に享受できていない、不具合がある――そういった課題をユーザーと直接会話して課題解決するのがカスタマーサポートであり、必要となる考え方は、それまで私たちが行ってきたことと全く同じなんです」

しかし、カスタマーサポートは競合が多い。その中で、SNSプラットフォーム上にゲームなどが展開される、いわゆるオープンプラットフォーム化やソーシャルアプリの台頭など新しい流れがタイミング良く来た。時代が来た。江戸氏は「ここでなら勝機がある」と考えたのだ。

「ネット上では、これまでの通販などとは違うカスタマーサポートが必要になるし、アプリやソーシャル上のコミュニティでなら、私たちの強みを発揮できると思いました。また、私は業界に精通していたので、ネットの中心がWebサイトからアプリに移っていくタイミングを熟知していました」

その後、事業は順調に伸びていった。「インターネットモニタリング」事業を横展開した中の1つが、学校向けサービス「スクールガーディアン」である。

ガイアックスで新規事業として始まった、これら3つの事業を承継、カーブアウトする形でアディッシュは設立された。

ネット犯罪をゼロにはできなくとも、解決できるところから着手する価値はある

もともと正義感の強い江戸氏。社会人1カ月目から、貧困問題の解決を目指す国際的に有名なNPO法人に寄付をし続けている。

「受け売りですが、『貧困問題のすべてを解決はできないが、やれることはある』という国際NPOの考え方が好きです。すべてを根本解決することは難しいが、解決できるところから取り組む。その考えが、世の中をいい方向に向かわせると信じています」

もちろん、誹謗中傷やネット犯罪の根絶は難しい。だが、セキュリティソフトと同じで「根本対策ではないものの、一定の抑止にはなっている」と江戸氏。世界のあらゆる問題に対して、諦めずに向き合い続ける必要があるし、対応できる部分もあるというのだ。

学校問題に取り組み始めたきっかけは、ネットいじめにより高校生が自殺したニュースを目にしたことだった。企業向けモニタリングサービスをすでに事業化していた江戸氏は、根本は同じ課題だと考え、リスク対策のノウハウをネットいじめにも活用しようと考えた。

「実は当初、収益化できるのかどうかは判断できていませんでした。親御さんから課金するのか、学校からなのか。そもそもお金を払っていただけるのか。ただ、とにかくやってみたかった。私たちはネット上のモニタリング調査のノウハウ・知見がある、ネットのプロではない先生方がやるよりも対策できる、と」

こうして始まった、ネット上の子どもたちが健全にインターネットを使える環境を目指し、ネットいじめ対策・ネットリテラシー講座を提供する、「スクールガーディアン」の評判は上々だ。「トラブルの抑止」「最初は教員だけでネット対策を試行錯誤していたが、知見がなく限界があった。最新動向の情報を共有いただけるのもありがたい」「生徒の防犯意識が高まった」などの声が寄せられている。ときには警察と連携することもある。緊急対応できて、命が救われたこともある。

生徒向けにネットリテラシーの教育講座を10年以上も続けており、講演は年間約200回以上にも及ぶ。リスク対策の方法を聴きに最大200人ほど集まることもあり、これまでのべ十数万人に啓発活動を行ってきた。

「ネット犯罪をゼロにはできませんが、こうした取り組みを行う価値はあると考えています。これからSNSツールがどれだけ増えても、根本の考え方は変わりません。『自分の個人情報を必要以上にネット上にさらさない』『危険性の高い情報の知識を得る』など、押さえるべき普遍的な基本を学ぶことが大切です」

ちなみに「スクールガーディアン」では、教育委員会や学校法人がクライアントだ。

MaaSなど新しいテクノロジーには新しい課題が生まれる。それを解決する事業を展開していきたい

「MaaSの概念を世界で初めて創ったと言われているフィンランドの会社から、カスタマーサポートのパートナーに選ばれました」

「つながりを常によろこびに」をミッションに掲げるアディッシュ。今後は、ミッション・ビジョンや強みを持つ領域のベースはそのままに、テクノロジー分野や新領域にも事業を広げていきたいという。すでに取り組み始めているのが、移動がネットサービスになるMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)だ。

向こう10年で急速に成長する分野だと言われている。例えば、スマホで自動運転のクルマを呼び出し、GPSを元に目的地へ自動で届けてくれて、決済までスマホ上で完結するような世界観。つまり、クルマなどの移動がサービス化する。

具体的には、地方自治体とシステム会社とアディッシュ子会社の3社で組み、シェアリングの仕組みを用いて「地域の移動手段をつくる実証実験」などを行っている。その中でアディッシュはカスタマーサポートや運用体制の構築を担当。テクノロジーを用いたどんな新しいサービスにも、ネット上のサポートは必須なのだ。

新しいテクノロジーが生まれれば、同時に新しい課題も生まれてくる。

「社会課題を解決するスタートアップがもっとたくさん生まれてくるといいですよね。私自身、社会の課題を解決したいとの想いで事業をつくってきました。私たちで解決できるサービスをどんどん生み出していきたいです」

新しい社会課題の解決が、日本や社会全体を活性化することにつながり、ひいては、人々のつながりが喜びにつながる。彼はそう信じている。

<会社情報>
アディッシュ株式会社
〒141-0031 東京都品川区西五反田1-21-8 ヒューリック五反田山手通ビル8階
https://www.adish.co.jp/

(提供:THE OWNER