「帝国ホテル1ヵ月36万円」というニュースの見出しに驚いた人は少なくないはずだ。ホテル業界でいま、あっと驚く格安プランを打ち出すケースが増えている。背景にあるのは「コロナ地獄」。ホテル業界の苦境を解説した上で、格安プランの具体例を紹介する。

コロナ禍におけるホテル業界の苦境

コロナ地獄のホテル業界 有名高級ホテルが続々「大盤振る舞い」
(画像=Photobank/stock.adobe.com)

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、ホテル業界は甚大なダメージを受けた。民間調査会社の東京商工リサーチの2021年3月17日時点の統計では、負債1,000万円以上のコロナ破綻はホテル・旅行などの宿泊業で70件発生している。

外出自粛制限・外出自粛ムードの影響

ホテル業界にとって何より影響が大きいのは、自治体による外出自粛要請のほか、緊急事態宣言などの対象地域以外でも外出自粛ムードが続いていることだ。当然のことだが、ホテルに宿泊するためには自宅から外出しなければならない。

感染防止に向け、小中学生や高校生の修学旅行の中止が相次いでいることも、宿泊施設によっては売上の大きな痛手となっている。

インバウンド需要の消失もきつい

訪日観光客によるインバウンド需要が消失したことも大きい。日本を訪れる外国人の数は右肩上がりの状況が続いていたが、2020年1月に約270万人だった訪日外客数は、2020年5月には約1,600人まで減った。現在はわずかに回復しているものの、日本政府観光局の推計によれば、2021年2月の訪日外客数は前年同月比99.3%減の約7,400人にとどまる見通しだ。

Go Toトラベル事業、再開のめど立たず

外出自粛制限やインバウンド需要の消失は、ホテル業界にとって大きな痛手だったが、希望もあった。「Go Toトラベル事業」だ。しかし、感染者の増加でGo Toトラベル事業は中止を余儀なくされ、現在のところ再開のめどは立っていない。

Go Toトラベル事業による国内旅行の需要増を見越して、赤字であっても営業を続けることを決断したホテルや旅館も少なくない。このような宿泊施設は、より赤字額が膨らむ状況となった。

苦境を乗り切るためのホテルの「格安滞在プラン」

宿泊施設がこの厳しい状況の中で、黒字回復するのは至難の業だ。ただし、空室となっている部屋を安く提供することで、売上を多少回復させることは可能だ。そのような狙いもあり、いま高級ホテルが格安滞在プランを相次いで打ち出し始めている。

「帝国ホテル」の事例:30泊31日を36万円で提供

東京・銀座にある帝国ホテルは2021年2月1日、「ホテルに住まう」という新しい価値の顧客への提案として、サービスアパートメント事業を開始することを発表した。スタジオタイプの場合は月額36万円(30泊)で宿泊することができ、滞在中はフィットネスセンターやプールなども無料使用できるという内容だ。

この月額36万円を30日で割ると1日たった1万2,000円となり、130年の歴史を持つ日本の高級老舗ホテルに格安で長期滞在できるチャンスを逃すまいと、予約が殺到した。公式サイトによれば、すでに当初の予約受注期間の滞在プランは完売している。

「アンダーズ東京」の事例:7泊8日を13万3,000円で提供

東京都の虎ノ門ヒルズ森タワーにある高級ホテルのアンダーズ東京も、長期滞在プランを打ち出して話題を集めた。1室7泊8日を13万3,000円で利用できるプランだ。1日あたりで計算すると1万9,000円となる。

このプランは2~3月の期間限定の予定だったが、売り出し後すぐに完売したこともあり、予定を延長して5月末までプランの提供を継続することになった。

「ホテルマハイナ」の事例:30泊31日を9万9,800円で提供

格安の長期滞在プランを提供しているのは、東京都心の高級ホテルなどだけではない。沖縄にあるリゾートホテルのホテルマハイナも、マンスリー契約が可能なサブスクリプション滞在プランを打ち出した。

月額料金は9万9,800円(30泊)で、沖縄でのんびりワーケーションをしたい人などから大きな注目を集めた。公式サイトによれば、すでにこのプランは完売している。

コロナ禍収束に向けて少しずつ前進

この記事で紹介したような格安プランは、宿泊需要が回復すれば無くなるかもしれない。一方で、長期滞在の需要に手応えを感じた宿泊施設などは、割引率をいまよりは低くしつつ、部屋数を限定して継続的に長期滞在プランを提供していくかもしれない。

いずれにしてもホテル業界は、早期に新型コロナウイルスが収束するのを待っている。最近ではワクチン接種が日本を含め世界的に進み、少しずつだが収束に向けて前進している。

このような中、星野リゾートが今後の宿泊需要の回復を見越し、京都市内で3つのホテルを開業することを発表するなど、だんだんとホテル業界でも明るい話題が増えてきた。一刻も早くホテル業界の苦境が終わることを切に願う。(提供:THE OWNER

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)