労働契約法
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労働契約法は、企業と労働者との間の労働契約に関する紛争防止を目的として労働契約に関するルールをまとめたものであり、経営者にとっては重要な法律である。今回は、労働契約法の重要な条項や、2012年の労働契約法の改正内容について解説する。

労働契約法とは

労働契約法について
(画像=労働契約法について)

労働契約法とは、使用者と労働者の間で締結される労働契約に関し、基本的な原則等を取り決めるために、2008年3月から施行された法律である。労働契約とは、以下の2点について双方が納得の上で契約を結ぶことである。

労働者:使用者の指示に従って労働を行うこと
企業側(使用者):提供された労務への対価として、労働者に賃金などを支払うこと

労働契約を結ぶ際には、企業側は労働条件(賃金や勤務時間)について労働者に書面で明示しなければならないことが、「労働基準法第15条」で規定されている。

労働契約に関しては、締結や労働条件の変更などにおいて、使用者の権利濫用によって訴訟に発展するケースがある。2001年に「個別労働関係紛争解決制度」が、2006年に「労働審判制度」が施行されてきたが、労働契約に関する民事的なルールは規定されていなかった。

労働契約法は、法律に沿った合理的な条件による労働契約の締結や変更を促進し、個別労働関係紛争の抑止を目的としている。労働契約法は、全5章で構成されており、ここでは主に第1〜4章について、特に重要な条項をピックアップして詳細を解説する。

なお、今回説明を除外する労働契約法第5章には、船員に対する特例と、国家公務員や地方公務員および同居する親族だけを雇用する場合には、労働契約法が適用されないという「適用除外」について記されている。

労働契約法第1章:総則

第1章 総則
(画像=第1章 総則)

・労働契約に関する5つの原則(第3条)

第3条では、労働契約における以下の5つの原則について言及されている。

(1)労使対等の原則:労働契約の締結や変更において、労働者と使用者は対等な立場として合意する
(2)均衡考慮の原則:労働契約において、均衡を考慮して就業の実態に則した締結および変更をする
(3)仕事と生活の調和への配慮の原則:労使双方が、ワークライフバランスを考慮した契約を締結および変更する
(4)信義誠実の原則:締結した労働契約に関して、双方が約束を守って誠実に履行する
(5)権利濫用の禁止の原則:労使契約の権利を行使する際には、むやみやたらに使用してはならない

・労働者への安全配慮義務(第5条)

労使間で労働契約を締結した後は、使用者は労働者の生命や身体の安全はもちろん、心身の健康(メンタルヘルス)にも配慮する、「安全配慮義務」を有するものとされている。安全配慮義務に関しては、「労働安全衛生法」に具体的な措置義務についての記載があるため、同法を参考にしながら、義務を果たさなければならない。

労働契約法第2章:労働契約の成立および変更

第2章では、労働契約や就業規則についての規定が記載されている。労働契約と就業規則の関係性については、後ほど別の項目で解説する。

第2章 労働契約の成立及び変更
(画像=第2章 労働契約の成立及び変更)

・労働契約の成立と変更に関する規定(第6条、第8条)

労働契約は、労働者と使用者の双方が、賃金などの労働条件や業務内容に合意した場合にのみ成立するものとされている。同様に、労働契約の内容を変更する場合にも、双方の合意が必要となる。

就業規則によって定められる労働条件による契約については、別の項目で説明する。

・労働協約との関係(第13条)

労働協約は、「労働組合法第14条」で規定されている、使用者(またはその団体)と労働組合の間で合意に至った労働条件等の約束事であり、双方の当事者が書面に署名および記名押印して成立するものである。

労働組合とは、労働者が主体となって、自らの労働条件の維持や改善などを行うために作る団体のことだ。「日本国憲法第28条」では、労働組合に対して「団結権」「団体交渉権」「団体行動権」といった労働三権を保障している。

労働契約法第13条は、労働協約の適用を受けている労働者、つまり労働組合員のみに適用されるという意味になる。

労働契約法第3章:労働契約の継続および終了

労働契約法第3章 労働契約の継続および終了
(画像=労働契約法第3章 労働契約の継続および終了)

労働契約法の第3章では、使用者が労働者に「出向」や「懲戒」、「解雇」などを命じる場合に、その妥当性などについて規定されている。いずれも、過去に個別労働関係紛争の原因となったこともあるため、実行に際しては注意が必要である。

・「出向」に関する規定

労働契約法に記載されている出向は、在籍型出向のことであり、労使間での労働契約を継続したまま、別の企業に異動することだ。出向命令が、労働契約の権利の濫用とみなされた場合、その命令は無効とされる。

・「懲戒」に関する規定

懲戒とは、企業の秩序を守るために、企業(使用者)が労働者に課す罰則のことであり、労働基準法における「制裁」と同じ意味だ。懲戒を行う場合には、対象となる労働者が行った秩序を乱す行為や事情などを考慮した際に、合理的で社会通念上妥当でなければ、懲戒行為は無効となる。

・「解雇」に関する規定

解雇とは、労働者の合意を待たずに労働契約を解消することだ。解雇は労働者に与える影響が大きいため、懲戒と同じように、合理的な理由がなく権利濫用と判断される場合には、解雇は無効となる「解雇権濫用法理」が規定されている。

労働契約法第4章:期間の定めのある労働契約

労働契約法第4章 期間の定めのある労働契約
(画像=労働契約法第4章 期間の定めのある労働契約)

労働契約法の第4章では、労働契約期間に一定の期限が設けられている「有期労働契約」についての規定が記載されている。なお、第18条のいわゆる「無期労働契約への転換」と、第20条の「不合理な労働条件の禁止」については、労働契約の法改正の項目で説明する。

・契約期間中の解雇等(第17条)

有期労働契約を締結した後は、たとえ労働契約で解雇条件についての内容が記載されていても、やむを得ない理由がある事を使用者側が証明しない限り、解雇はできない。また、雇用契約期間を、労働内容等に照らし合わせて必要以上に短く設定し、繰り返し有期雇用契約を結び直す事がないように、契約期間についての配慮が必要とされる。

労働契約法の改正状況と改正の3つのポイント

労働契約法の改正について
(画像=労働契約法の改正について)

労働契約法は、有期雇用契約の項目に該当する第4章について、2012年8月に改正が行われている。ここでは、2012年の改正のポイントである、3つのルールについて説明する。

(1)無期労働契約への転換(第18条の改正)

「労働契約法第18条」の改正では、有期雇用契約を結んで就労し、同じ使用者との契約更新が通算で5年を超える場合は、有期契約から期間の定めのない無期雇用契約に転換されることが規定されている。契約転換の事例については、以下の図を参考にして欲しい。

(2)雇止め法理の法定化(第19条の改正)

「雇止め」とは、使用者側が有期雇用契約を更新しない場合、労働者との契約満了時に雇用関係が終了することである。

雇止めは、労働者側に対する不利益が大きいため、過去に訴訟に発展しているケースが多く、最高裁の判例がある程度揃っていることから、雇止めの無効に関するルールとして「雇止め法理」が新しく労働契約法に追加された。

「雇止め法理」の詳細は、労働契約法の該当条項を確認してもらいたい。

(3)不合理な労働条件の禁止(第20条の改正)

契約期間が定められている有期雇用契約の労働者は、無期雇用契約者に比べて不合理な労働条件で労働契約を結ばされる可能性がある。そのため、労働契約法第20条によって、契約期間によって労働条件の差が発生しないように規定されている。

労働条件の不合理判断に関する詳細は、労働契約法の該当条項を確認してもらいたい。

労働契約法に違反したらどうなるのか

労働基準法や労働安全衛生法などは、違反によって罰則が定められているが、労働契約法に定められた規定に違反したとしても、基本的には刑事罰などの罰則は適用されない。ただし、個別労働関係紛争で民事訴訟などに発展した場合には、損害賠償などを支払う可能性もある。

労働契約法と就業規則の関係

労働契約法の第2章では、労働契約法と就業規則の関係性などについて明記されている。

第2章 労働契約の成立及び変更.png
(画像=第2章 労働契約の成立及び変更)

就業規則とは

就業規則とは、労働者の職場での行動などの規律や退職について、賃金や労働時間などの条件に関して、企業側が労働者の意見などを参考にした上で作成する規則である。組織として事業活動を行う上でのルールを作り、トラブル防ぐ意味でも重要なものだ。

就業規則は、労働者を常時10人以上雇っている場合は作成が義務付けられており、労働者が内容をいつでも確認できるように配慮しなければならない。

労働契約と就業規則の関係(第7条)

労働契約における労働条件の決定までのプロセスは、就業規則があるか否かで以下のように流れが異なる。

労働契約を締結する際に、労働条件について労使双方が確認した上で合意した場合は、そのまま労働条件が決定する。

労働条件について詳細を詰めずに労働者を就労させた場合には、労働条件について合理的な記載がある就業規則があり、就業規則を使用者側が労働者に周知させれば、就業規則に記載されている労働条件が適用されることとなる。

労働契約および就業規則の変更(第9条〜第11条)

「労働契約法第9条」では、就業規則の変更には労働者と使用者の合意が必要であり、労働条件の不当な変更など、労働者に対して不利益となる変更ができない旨が記載されている。

ただし、「労働契約法第10条」に規定されている以下の2点を同時に満たす場合には、双方の合意の例外が適用され、就業規則の労働条件に該当する部分に関しては変更が可能となる。

・就業規則の変更内容を労働者に対して周知させた場合
・就業規則の変更内容が合理的と認められる場合

就業規則の変更手続きに関しては、「労働基準法第89,90条」に則って行う必要がある。

労働契約法は他の労働関連法と複雑に絡む

労働契約法は、使用者である企業側と労働者の間での労働関係紛争を抑止するために、比較的新しく施行された法律である。そのため、労働基準法や労働安全衛生法などの法律とも関わることが多い。

労働契約法は、特に労働条件の内容に関して、労働協約や就業規則などといった規約と優先順位が複雑に絡む場合もあるため、注意が必要である。

労働契約法における、「不利益」「不合理」「社会通念上」「権利濫用」などの文言については、経営者側だけでは判断が難しい場合もあるため、特に労働条件の変更に関しては、顧問弁護士や社会保険労務士などに専門家に相談することをおすすめする。

文・隈本稔(キャリアコンサルタント)

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