●イマドキ高級車はデジタル化、バーチャル化がポイント
世界の高級セダンの代名詞、メルセデス・ベンツSクラスが8年ぶりに7thモデルへと進化し、1月に日本上陸した。
北米や中国などでも、いまだにBMW7シリーズ、アウディA8、レクサスLSなどを圧倒するベストセラーであり、歴史は1970年代からともっとも長い。
よって商品戦略でも守りに入りがちだが、今回驚くのは一部でかなりの攻め姿勢を見せていること。ライバルの中では最も積極的にデジタル化に取り組んでいる。
乗ると同時に目に入るのは、新たに装備したメルセデス初の12.8インチの真四角メディアディスプレイだ。
黒色の深みが美しいタッチ式の有機ELパネルである。ここにほとんどの機能が集約されている。
足回りや先進安全などの車両設定はもちろん、空調、ナビゲーション、オーディオなどがわかりやすく操作できる。
個人的に楽しかったのは「コンフォート」とアイコン名が付けられた快適装備だ。かつて同様のものはあったが、さらに進化しており、なかでも「リラクゼーション」と名付けられたシートマッサージ機能が優れものだ。
いままで、こういった手法はレクサスLSが一番だったが、指圧度の強さはいままで以上だし、「ウェーブ」と呼ばれる微振動は他にあまり味わったことがない。渋滞中もこれで楽しめそうだ。
同時に使い勝手がますますパソコン化している。指紋認証でドライバーを特定するのはもちろん、自車両をバーチャル映像化する技術もすごい。
Aクラスから導入したメルセデス自慢の音声認識機能「MBUX」は進化しており、新たにSクラスでは、前後席のどの位置の乗客が発声しているかを聞き分けられるようになった。
つまり後席右で「暑い」といえば、そこだけエアコン設定を変えるような芸当ができるのだ。これはエンタテイメントシステムも同様で、もしや飛行機のビジネスクラスのように使えるのかもしれない。
そのほかEクラスから導入された、現実映像に案内表示を重ねる「ARナビゲーション」や、立体的な「3Dドライバーディスプレイ」「3Dコックピットディスプレイ」もユニーク。
パワーシートもタッチ操作化した。使って楽しいスマホライクなデジタル化であり、バーチャル化が明らかに進んでいるのだ。
●本当にすごい点は新旧価値観の両立?
しかし、小沢が乗ってあらためて感心したのは、新世代のエンタテイメント導入と同時に、従来的なSクラスの価値観、走りの良さなどをしっかり進化させていること。
常連客はもちろん、新しいITコンシャスなリッチマンも取り込める味わいになっているのだ。
今回、試乗したのは標準サイズのS400d4MATICマティックで、全長×全幅×全高は5180×1920×1505mm。ホイールベースは3105mm、ついに標準ボディでも3.1m台を突破した。
ところが見た目は以前より美しく、エレガントになっている印象で、ヘッドライトはこれ見よがしに尖ってないし、グリルも控え目。サイドはキャットラインと呼ぶシンプルなプレスラインのみで、とくにリアの滑らかなラインはクーペライク。
同ブランドのCLSにも負けないエレガントさだ。
同時に、ここ最近復活させた3L直6エンジンがいい。ガソリンとディーゼルがあり、今回は後者に乗ったが、やはりイマドキの直4とは上質さが違う。
最高出力330ps、最大トルク700Nmと極太トルクを持つのはもちろん、低回転からキモチ良く高まる鼓動がうれしい。
最近は高級車でも4気筒が当たり前になりつつあるが、やはり6気筒は欲しい。
また9速ATがゆえ、ゆったり走れば、ほとんどのシーンでエンジンは3000回転を超えない。
そして乗り心地が圧倒的にいい。表面に柔らかいスポンジ層が付いた大型シートにすわり、アクセルを踏み込むと「ああ、帰ってきた」とすら感じるSクラス独特の滑らかさ、安心感。
これだけでもファンは欲しくなってしまうのだと思うが、今回は新たに小回り性能も盛り込まれ、後輪操舵機構のおかげで最小回転半径は5.4m。
これはEクラス同等なのでかなりの安心ポイントだ。
先進安全も当然アップデートされており、フロントマルチモードレーダー、フロントロングレンジレーダー、フロントステレオカメラ、後方マルチモードレーダー、360度カメラ、12個の超音波センサーを備え、将来的にはレベル3自動運転も視野に入れているという。
実はこの進化にはテスラを始め、ハイテクEV勢への危機感もひそかに隠し持っている。いまや高級車は電動化、デジタル化せざるを得ないのだ。
守りつつも攻める。それが今回のSクラスの本当のすごさなのである。
(提供:CAR and DRIVER)