長期金利は再び「ボックス圏」にとどまる
(画像=PIXTA)

SMBC日興証券 チーフ金利ストラテジスト / 森田 長太郎
週刊金融財政事情 2021年4月13日号

 日本銀行は3月19日の金融政策決定会合で、「金利の変動は、一定の範囲内であれば、金融緩和の効果を損なわずに、市場機能にはプラスに作用する」として、10年国債の金利変動幅をプラスマイナス0.25%程度へと実質的に上下5bpずつ拡大した。とはいえ、下限以下の金利低下は容認するが、金利の上限超えは容認しないとしており、「変動幅」は実際には非対称的である。長期金利を自然に形成される水準よりも低く誘導するのが現在の政策の根幹であることを考えれば、それは当然であろう。

 しかし、長期金利を「誘導」しつつ、「市場機能」を高めることに矛盾を感じる市場参加者は少なくない。本来あるべき長期金利水準は現状よりもかなり高い水準にあり、今回の決定も、その水準にわずか5bp近づくことを認める、というものにすぎない。運用利回りを欲する多くの債券投資家にとって、わずか5bpでも「ないよりはあった方がよい」のは事実だが、干天の慈雨とはとても言えないほどの微修正であった。

 しかも、実際にこの5bp分だけ長期金利が上昇したのかといえば、そうはなっていない。市場が1~2月に日銀の政策修正を予想して、長期、超長期債の金利が10bp程度上昇していたのは確かだが、この間に米長期金利は70bp以上も上昇している。日本の10年債は昨年3~12月、米債金利との相関がほぼ消失していた。従って、海外金利に連動した10bp程度の金利上昇は、市場機能の回復と言えないことはない。しかし、実際の政策発表のあった3月に入ると相関は再び低下している(図表)。

 30年債に至っては、もともと、米債金利との安定した相関が昨年来継続していたにもかかわらず、今年3月以降、逆に連動性が急速に低下してしまった。もちろん、海外金利との連動性だけが市場機能というわけではないが、この30年債の動きは、超長期金利の低下を望んでいない日銀の意図に反するものといえよう。これは、3月入り後の日銀の情報発信が「市場機能の回復」と「金利の低位安定」のどちらを目指しているのか分かりにくかったことも理由の一つとみられる。日銀は4月の国債買い入れ額を減額すると発表したが、市場の(金利上昇方向への)反応も限定的なものにとどまっている。

 日銀はこの状況を受けて、将来、さらに市場機能の回復を促す政策修正を行う可能性もある。しかし、コロナ感染が続く中では、すぐにはそういった試みは難しい。当分の間、日本の長期・超長期債金利は再び市場機能がやや低下した状況、すなわち海外金利と連動せずに、0.1%台前半での「ボックス圏」にとどまるような動きが続くとみられる。

長期金利は再び「ボックス圏」にとどまる
(画像=きんざいOnline)

(提供:きんざいOnlineより)