賀藤リサーチ・アンド・アドバイザリー 代表(不動産鑑定士・CMA) / 賀藤 浩徳
週刊金融財政事情 2021年4月13日号
2021年の地価公示が発表された。全国平均では、住宅地は16年以来5年ぶりに、商業地は14年以来7年ぶりに下落に転じた。東京圏では、住宅地の平均変動率が0.5%減、商業地が1.0%減と、いずれも13年以来の下落である。報道ではこれら年間の変動率に言及するだけのケースが多い。しかし、同時に公表されている半年間の変動率を見ると、違った景色が見えてくる。
図表は、20年前半(20年1月1日〜7月1日)と後半(20年7月1日〜21年1月1日)の住宅地の地価変動率を表したものである。1月1日時点の公示地と7月1日時点の基準地のうち、共通地点を対象として、年の前・後半の各変動率を算定している。
住宅地は、20年前半に(19年後半比)下落していたエリアも、20年後半には、横ばいとなった大阪圏を除き、すべてのエリアで上昇に転じた。「地方4市」については、前半はプラスで、後半はその上昇幅が拡大している。商業地も、20年後半はまだ下落エリア(大阪圏、地方その他)が一部残るが、多くが横ばいないしプラスに転じた。下落エリアについても、下落幅は縮小している。
素直に見れば、昨年前半は新型コロナの正体がつかめず、初めて緊急事態宣言が発出されて地域間の移動に制約がかかるなどして、経済が停止状態になった。対して昨年後半は、ワクチンへの期待、コロナ対策の周知、コロナに対する慣れが生じ、経済も相対的に活発化したことが地価に反映されたと言える。
ただし、地価公示を算定した個別の鑑定評価書を見ると、後半にプラスに転じた理由は述べられていない。前半にマイナス評価をした地点も「コロナの影響はほぼない」などの記載が多い。恐らく、20年前半にマイナス変動の幅を過大に計上してしまった部分を、後半の評価で修正している地点も多いのではないか。要するに昨年後半に地価が回復したというより、コロナのマイナスの影響度を後半に見直したのではないか。
なお、20年後半においても、下落地点数の方が上昇地点数よりも多い。また、上昇エリアについても、前半のマイナス幅を取り戻すほどの後半の上昇率になっているわけではないことが、図表から読み取れる。
以上から、筆者は今後、地価(不動産価格)は、横ばいないし弱含みで推移するものと予想する。弱含みの程度は、コロナに対する慣れや感染状況等とコロナ支援策の効果が薄まった後の企業業績動向とのバランスによると考える。
(提供:きんざいOnlineより)