2020年における日本企業が関係したM&Aの件数は、過去最多だったことが判明しました。コロナ禍とデジタル化の進展で、 M&Aは事業の選択と集中を進める手段として積極的に活用されています。

今回の記事では、M&Aの件数が過去最多となった理由を探り、そこから今後の展望を予測します。

2020年はM&A件数が過去最多に

M&A,企業
(画像=tayukaishi/stock.adobe.com)

金融情報会社のリフィニティブが公開している「日本M&Aレビュー」によると、2020年の日本関連M&Aの案件数は4,289件であったとのことです。新型コロナウイルスの影響があったものの、初の4,000件を超える結果となりました。M&A市場をけん引しているのは、ハイテクノロジー企業です。

その背景には3つの大きな狙い

コロナ禍でM&Aの件数が増加した背景には、各企業のどのような思惑があるのでしょうか。M&Aの主な狙いとしては、下記の3つが挙げられます。

狙い1:成長加速

まず「買い手」側にとって、M&Aを行う目的のひとつは「成長の加速」です。本来新規事業の立ち上げや既存事業の拡大、海外進出などを実現するには、地道に顧客を獲得したり、知名度やブランド力を高めていく必要があるため、膨大な時間がかかります。

一方でM&Aを行えば、すでに販売網やブランド力などの経営資源を持っている企業を買収することで、事業の成長に必要な時間を短縮できます。言い換えると、会社が成長するスピードを速めることができるのです。

2020年のM&A事例で言うと、セブン&アイ・ホールディングスによる米コンビニ大手スピードウェイの買収が該当します。このM&Aは、アメリカ市場でのコンビニ事業の拡大を目的に実施されました。すでに米国内で多くの店舗網を持つスピードウェイを買収することで、海外進出に必要な時間を大幅に短縮することに成功しています。

狙い2:非中核事業の分離

次に「売り手」側にとっては、非中核事業の分離を目的としてM&Aが行われるケースが多いです。少子高齢化の影響により、今後日本の市場は年々縮小すると予想されます。そのため市場で生き残るには、収益性や将来性の高い主力事業に経営資源を集中することが重要です。その手段として有効なのがM&Aです。M&Aによって収益性や将来性が低い非中核事業を売却すれば、社内のリソースを主力事業に集中的に投入できるようになり、業績の向上につながります。

2020年のM&A事例では、武田薬品工業の完全子会社である武田コンシューマーヘルスケアの売却が、非中核事業の分離に当てはまります。今後、人口減少などの影響で競争が激化すると予測されるコンシューマーヘルスケア事業を売却することで、主力事業である医療用医薬品の新薬開発に経営資源を集中させる狙いがあると見られています。

狙い3:グループ再編

3つ目は、買い手・売り手が同じ「グループ」にあり、その再編を目的とするケースです。特に、コロナ禍の経済状況を乗り切る目的で、グループ再編を意図したM&Aを行うケースは多く見受けられました。グループ再編(組織再編)とは、子会社同士を統合したり、一部の事業を他の子会社に承継することなどによって、会社内の形態を変更する手法です。

M&Aによりグループ内再編を図ることで、機能の統合によるコスト削減や、収益や技術面でのシナジー効果の獲得といったメリットを得られます。

「NTTによるNTTドコモの完全子会社化」や「伊藤忠によるファミリーマートの完全子会社化」など、2020年はグループ再編を目的とした大型M&Aも数多く行われました。

背景に共通する「選択と集中」というキーワード

M&A件数が増加した3つの背景には、共通して「事業の“選択と集中”」というキーワードがあります。新型コロナウイルスの大流行によって、多くの企業は消費者が持つニーズの大幅な変化に直面しています。たとえば、「Zoom」や「Teams」などリモートワークに対応するサービスが急成長した一方で、旅館業界や航空業界は大きな需要減少に悩まされました。

激変する市場での生き残りをかけ、どの事業に資本を投下すべきかを熟考した結果、主力事業への集中を目指した非中核事業の売却や、収益性の高い事業領域の買収を行う企業が増えたわけです。

新型コロナを起点に急変する経営環境への対応が存続のカギ

新型コロナの流行により、経営を取り巻く環境は急速に変化しています。

経営資源が限られているなかで事業を存続させ、さらには成長していくために。いま企業にとって、経営の最も根幹的な考え方でもある「選択と集中」に立ち返る重要性は、ますます高まっていると言えます。引き続くコロナ下のなかで、M&Aの案件数もさらに伸びていく可能性があるでしょう。(提供:JPRIME


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