「老後はパートナーとゆっくり過ごしたい」と思っていても、具体的にどれくらい老後資金を準備すればよいかわからない人は多いのではないでしょうか。

この記事では、高齢者夫婦の具体的な家計収支や老後30年間に必要な金額、老後資金の準備方法について解説します。

高齢者夫婦の一般的な家計収支

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(画像=Pixel-Shot/stock.adobe.com)

まずは、総務省が発表している「家計調査報告 家計収支編 2019年(令和元年) 平均結果の概要」をもとに、高齢者夫婦の家計収支の平均を確認しておきましょう。なお、「高齢者夫婦」の定義は「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯」とします。

実収入:23万7,659円(いわゆる税込み収入のことで、世帯員全員の現金収入を合計したもの)
非消費支出:3万982円(税金や社会保険料などの支出)
消費支出:23万9,947円(いわゆる生活費のことで、日常の生活を営むにあたり必要な商品やサービスを購入して実際に支払った金額)
不足分:3万3,269円

実収入23万7,659円から非消費支出3万982円と消費支出23万9,947円を引くと、毎月3万3,269円の赤字になることがわかります(集計の関係上、1円単位の誤差が出ます)。

住宅ローンを完済しているのに毎月3万円以上の赤字

消費支出23万9,947円をさらに詳しく見てみましょう。

<消費支出23万9,947円の内訳> ※集計の関係上、合計は100%になりません
食料 27.7%
住居 5.7%
光熱・水道 8.3%
家具・家事用品 4.2%
被服及び履物 2.5%
保健医療 6.6%
交通・通信 11.8%
教育 0.0%
教育娯楽 10.3%
その他消費支出 22.8%(うち交際費10.7%)

ここで注目したいのが「住居 5.7%」です。23万9,947円の5.7%なので、毎月約1万3,677円を支払っていることになります。金額から固定資産税分と考えられ、住宅ローンは完済している可能性が高いでしょう。

つまり、上記の「毎月3万3,269円の赤字が出る高齢者夫婦」は、住宅ローンを完済しており、ローン返済の負担がないケースです。高齢者になってもローン返済が残っている世帯は、さらに大きな赤字が出ることになります。

夫婦の老後30年間に必要な資金は?

上記の家計調査データをもとに、老後30年間に必要な金額を計算してみましょう。

毎月の不足分3万3,269円×12ヵ月×30年=1,197万6,840円(約1,200万円)

毎月の不足分を補うだけでも、約1,200万円が必要です。上記の家計調査データには、大病を患った場合の治療費や、介護が必要になった際の介護費、葬儀代などが含まれていません。

それらが1人あたり数百万円かかるとすると、合計金額は約2,000万円になるといわれています。数年前に金融庁が「老後資金は約2,000万円必要」というレポートを出したことに端を発する「2,000万円問題」が世間を騒がせましたが、だいたい同じ金額になりました。

夫婦の老後資金を準備するための方法

老後資金が約2,000万円必要だとすると、多くの人にとって高いハードルといえるでしょう。このような大きな金額を用意するためには、早いうちに資産形成を始めることが重要です。

ここからは、老後資金を準備するための具体的な方法を紹介します。

iDeCo

iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)とは、確定拠出年金法に基づいた私的年金制度のことです。60歳になるまで掛金を拠出し、自分で運用方法を選んで掛金を運用します。60歳以降に、掛金と運用益を受け取ることができます。

iDeCoでは、「掛金の拠出」「運用益」「給付」において税制上の優遇措置があります。原則として60歳になるまで資産を引き出すことはできませんが、その分しっかり貯められるので、老後資金の準備にはうってつけです。

特に税制上の優遇措置は強力なので、老後資金を準備しようと考えた場合、最初に検討したい方法です。ただし運用である以上、必ず増えるわけではなく、元本割れのリスクがあることには注意が必要です。

つみたてNISA

つみたてNISAは、少額からの長期・積立・分散投資を支援するための非課税制度で、2018年1月にスタートしました。新規投資額は毎年40万円が上限で、非課税投資枠は20年間(最大800万円)です。

つみたてNISAで購入できるのは、金融庁が長期の積立・分散投資に適すると認めた投資信託のみで、保有している間に得た分配金と、値上がりした後に売却して得た利益(譲渡益)が、購入した年から数えて20年間は非課税になります。

iDeCoのように投資した際の税制優遇はありませんが、その代わり、いつでも解約することが可能です。毎月コツコツと積み立てると時間の分散にもなるので、老後資金の準備に適しています。ただし、iDeCoと同様に元本割れリスクがあります。

個人年金保険

個人年金保険は、公的年金や企業年金などでは不足する部分を自分で用意する私的年金です。60歳や65歳といった一定の年齢までは、保険料という形でお金を積み立て、その後は積立金をもとに年金を受け取ります。民間の保険会社が取り扱っている保険商品です。

メリットとしては、保険という形で着実に資産形成ができること、場合によっては銀行預金に預けておくよりも増える可能性があること、支払った保険料の額に応じて「個人年金保険料控除」を受けて税負担が軽くなることなどが挙げられます。

デメリットとしては、途中解約すると元本割れの可能性があったり、インフレに弱かったりすることなどが挙げられます。

不動産投資

現役時代からコツコツと資産形成するという面においては、不動産投資も選択肢に入るでしょう。

不動産投資では多くの場合、融資を受けて物件を購入することになります。地方や築古の物件でない限り、あまり高い利回りは望めませんが、現役時代はキャッシュフローがほとんど出なかったとしても、賃料をそのまま返済に回すことで、老後に突入したときにローン完済もしくは完済に近い状態を作ることが可能です(もちろん物件や購入時期、借入条件によって状況は変動します)。

老後生活に入ったときにローン完済もしくは完済に近い状態にしていれば、空室にならない限りは安定した賃料収入を得られます。物件を売却すれば、まとまった資金を得ることもできます。

不動産投資には空室リスクや天災リスク、金利上昇リスク、価格変動リスクなどがあります。また、良い物件を見定めるためには一定の知識が必要と言われていますので、十分に吟味したうえで投資判断をして下さい。

準備期間が長ければ長いほど様々な選択肢を検討できる

必要な老後資金の金額は、人によって異なります。いずれにせよ、老後資金の準備は早く始めるに越したことはありません。準備期間が長ければ長いほど、様々な選択肢を検討できます。

老後資金の準備は目先の相場変動に惑わされず、長期的な視点でコツコツと取り組むことが重要です。

※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。(提供:Wealth Road