消臭芳香剤や防虫剤といった「ニッチ生活日用品」で高い認知度を誇るエステー(4951)。鈴木貴子現社長就任後はブランド力の強化や原価低減を徹底し、営業利益率が5年間で3・8%から7・2%へと上昇した。今期はコロナ禍による衛生意識の高まりを受け、売上高過去最高を更新予定。勢いそのままに、近年は業務用(BtoB)や海外などの新分野開拓を進めている。
「空気」が軸の日用品メーカー
個性的なCMで知名度を確立
消臭芳香剤の「消臭力」や衣類用防虫剤「ムシューダ」などで知られるエステー。同社は、「空気」にまつわる日用品に特化したニッチ特化型生活用品メーカーである。
セグメントは、①消臭芳香剤や脱臭剤をもつ「エアケア」事業、②防虫剤などの「衣類ケア」事業、③使い捨てカイロの「サーモケア」事業、④手袋が主の「ハンドケア」事業、⑤除湿剤などの「湿気ケア」事業、⑥トイレ用洗剤や上履き用洗剤、米びつ用防虫剤などをまとめた「ホームケア」事業の6つとなる。
「芳香剤は玄関やトイレ、リビングなどの空気の匂いを解決するもの。防虫剤は虫フリーの空気を作るもの、脱臭剤は冷蔵庫の空気を浄化するもの、除湿剤は空気の湿度を取り除くもの、カイロは空気の温度を上げるもの、手袋は冷たい空気などから手を守るもの…と、私たちの商品は全て『空気』を軸にしています。全方位型の生活日用品すべてをカバーするのではなく、空気に関連したニッチな市場に絞ることで、独自のポジションを構築しています」(鈴木貴子社長)
ブランド力と技術力武器に
4分野で国内シェアトップ
売上構成比が44%と最も高いのは、①のエアケア事業。同事業の最大ブランドは消臭芳香剤の「消臭力」だ。2000年から販売する看板商品で、トイレ用や室内用、車用、タバコ用、ペット用など約100種類を展開。消臭芳香剤の国内シェアは、小林製薬に次ぐ2位となる。
特徴のひとつが、印象的なテレビコマーシャル。CMキャラクターとして09年からミュージシャンの西川貴教氏を起用しており、ユニークな歌と設定で商品を印象付けている。
「ブランドには、強い個性が必要です。消臭力では思わずクスっと笑ってしまうような、面白いイメージとして消費者の印象に残るよう心がけています」(同氏)
もちろんイメージだけではない。長年研究開発を続けており、20年7月には新商品「消臭力 DEOX トイレ用」を発売した。これは、便臭の原因分子によく似た良い香りの分子を先に鼻に届けることで、後から来る悪臭を感知しにくくさせるもの。強い香りで悪臭をごまかす従来品とは違って構造的に対応するため、強い消臭効果を発揮。同社の調査によると、主婦200人のうち約96%が効果を実感したという。
エアケア事業に次いで売上構成比が大きいのは、祖業にあたる②の衣類ケア事業。同社は1946年、創業者・鈴木誠一氏の母親の着物が虫に食われたことを受け、防虫剤の生産を開始したことから始まった。現在は、「ムシューダ」ブランドで防虫剤や防虫カバー、防虫スプレーなどを展開。同製品の国内シェアは54%と、圧倒的首位を堅持する。
エステーは他にも、脱臭剤、除湿剤を含めた計3カテゴリーで国内シェア1位を保持。使い捨てカイロ、家庭用手袋はそれぞれ国内シェア2位と、様々な分野で高いプレゼンスを誇っている。
ブランドの選択と集中で
自社競合回避・販管費低減
強い存在感を示すエステーだが、2010年頃は利益が低迷。そこで、コンサルタントとして白羽の矢が立ったのが現社長の鈴木貴子氏だった。創業者の三女にあたる同氏は、これまでルイ・ヴィトングループなどの外資系高級ブランド会社で勤務。当時のエステー社長・鈴木喬氏の誘いを受け、10年に同社へ入社した。
13年に社長へと就任した鈴木貴子氏が断行した施策のひとつが、前職で培った「ブランディング戦略」だった。
「当時はエステーの消臭剤として、『消臭力』『消臭プラグ』『消臭ポット』『自動でシュパッと消臭プラグ』『マイアロマ』…と、山のようにブランドがありました。ひとつのカテゴリーには、ひとつのブランドで十分。そこで最も印象が強い『消臭力』にブランドを集約し、デザインも一新しました」(同氏)
エアケア事業では、消臭剤は「消臭力」、芳香剤は「SHALDAN」に集約。その他のブランドは廃止した。その一方で、新しいブランドも登場。ホームケア事業の洗剤部門でも、それまでは「パワーズ」や「おひさまの洗たく」などブランドが多数あった。これを、17年に新ブランド「洗浄力」へと集約した。「『洗浄力』は全く新しいブランドですが、認知度の高い『消臭力』と同じように西川貴教さんにCMキャラクターを担当していただきました。これにより、お客様の目からは以前からある親しみやすいブランドのように映ったと思います」(同氏)
全事業でブランドの集約と不採算商品からの撤退を進めたことで、08年に約1500種類あった商品数は20年に約800種類へと集約。これにより自社ブランド同士の競合が回避でき、販管費も低減した。
■ブランドの整理と絞り込み
価格3割増の高級商品拡充で
利益率を5年で2倍に
同時に進めたもう一つの施策が、「高付加価値商品へのシフト」だ。例えば除湿剤はエステーが創造した商品だが、販売開始した1980年代はデパートなどで1000円前後の売値で販売される商品だった。だが、価格競争が進んだ結果、現在は3パックで数百円の商品が主流となっている。
「(低価格の除湿剤は)はっきり言って薄利商品。こんなことやっていても仕方ないでしょう。それなら、従来品よりも高性能で、相応の価格で販売できる製品を増やしていこうと思ったのです」(同氏)
そこで新開発したのが、備長炭を入れた除湿剤「備長炭ドライペット」。従来の湿気取り機能に加えて、嫌な臭いの脱臭も行う製品だ。同時に容器も改良し、使い捨て部分のプラスチック量を削減した。
主力のエアケア事業では、上質な香料を使った「消臭力プレミアムアロマ」を展開。価格は従来品より3割ほど高いが、売れ行きは好調だという。
「社長就任当初は価格競争という面から、単価が高い商品は流通業者などに嫌がられることがしばしばありました。しかし人口減少が進むと、次第に単価が高い高付加価値商品が受け入れられるようになりましたね。現在は部門ごとに『高付加価値商品率を何%にしよう』という目標を立て、全社を上げて商品のランクアップを進めています」(同氏)
ブランド集約化と高付加価値化の両輪で、利益率は徐々に改善。13年3月期の営業利益率は3・8%だったが、5年後の18年3月期には3・5ポイント改善した7・2%まで高まった。
高い認知度を生かし
BtoB市場を開拓
前期業績は、売上高が前期比0・5%減の475億円、営業利益率は同18・9%増の33億円。今期はコロナ禍による衛生・内食需要で手袋、脱臭剤、米びつ防虫剤が大幅伸長した他、主力の消臭芳香剤や防虫剤の堅調が寄与して売上高過去最高となる見込みだ。だが長いスパンで見ると、売上高は12年3月期~21年3月期は400億円台後半で足踏みが続いている。
同社は長期的目標として、売上高1000億円を掲げている。売上倍増に向け、現在進めている大きな戦略は2つ。1つ目が業務用(BtoB)市場への進出である。
20年9月、同社は傘下のエステートレーディング社をエステーPRO社へと社名変更した。エステーはこれまで消費者(BtoC)向け商品を中心に扱ってきたが、今後はエステーPRO社を窓口にBtoB向け商品の拡販を進めていく。その第1弾として発売したのが「Dr.CLEAN+除菌・ウイルス除去スプレー」だ。
同スプレーは、富士フイルム社が持つ銀イオンコーティング技術「Hydro Ag+」を活用した製品。アルコールで除菌した部分を銀イオン膜が覆うことで、高い抗菌効果が約1カ月続くという。
「20年前半は経済活動の停滞で商談の多くが中断しましたが、後半はホテルなどで着々と採用客室数を伸ばしています。他にもビル管理会社や介護施設、病院など、需要はあらゆる所にある」(同氏)
エステーPRO製品第2弾として20年10月に発売したのが、フードデリバリー専用温熱シート「HEAToGo」。同製品を専用のバッグに入れて配達すると、20分後で75℃、30分後で70℃以上を維持できるという。
同製品は、エステーが持つ使い捨てカイロの温熱技術を応用して開発した。
「近年の暖冬と価格競争の激化で、既存の使い捨てカイロ事業は厳しい状況が続いています。ただ、電気もガスも使わずに温度を上げる技術は、世界でも稀に見る特殊技術。これを基に通年で販売できる新製品の開発を進めています」(同氏)
海外路線は大胆整理
「勝てる市場」を探索中
戦略2つ目が、海外事業の拡大。同社はイタリアや韓国、タイ、台湾、フィリピンの5カ国に海外拠点を持つが、海外売上比率は全体の6%と低迷している。
「私たちは、生活日用品メーカーとして海外では最後発。にもかかわらず既に市場が確立した既存カテゴリーで闘おうとしたため、(海外で)勝てなかったと言わざるを得ません。そこで、これまでやってきたことは一度ご破算にして、海外事業の再構築を進めています」(同氏)
具体的には、まず現状の商品・ルートを全て見直し、改善見込みのない不採算事業から撤退する。次に、既に市場にある商品ではなく、その地域で初めてとなる「ユニークな商品・カテゴリー」を創造し、ニッチトップを獲るという。この段階に至るには「まだ数年先」(同氏)というが、来期発表予定の次期中期経営計画でいくらか明らかとなりそうだ。
「BtoBと海外は今まで売上に寄与していないものの、飛躍するための種まきがそれぞれ進んでいます。これらが実を結べば、グループは更に大きくなるでしょう。また、いずれは空気事業に関連した海外メーカーなどのM&Aなども視野に入れています。私たちの軸である『空気』は、至る所に満ちている。このベースを守りながら、グループをより発展させたい」(同氏)
(提供=青潮出版株式会社)