世界経済がコロナショックからV字回復を遂げる中、先進国・発展途上国を問わず、その後遺症は長期間にわたり継続すると見られている。ところが唯一、コロナ不況や後遺症をものともせず、着実に勢力を拡大し続けている国がある。中国だ。「2032年には世界最大の経済大国になる」と予想されている中国のビジネスの台頭と、それを後押しする女性起業家の跳躍について探ってみよう。

コロナ禍で唯一の「勝ち組」に

「2032年、中国が世界最大の経済大国になる」?中国が世界のビジネスを制する日は来るのか?
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国際通貨基金(IMF)が4月に発表した2021年の各国の成長率見通しで、ひときわ目立つ伸びを示しているのは中国(8.4%)とインド(12.5%)の二ヵ国のみだ。米国(6.4%)、日本(3.3%)、ドイツ(3.6%)、フランス(5.8%)、英国(5.3%)など、他の経済大国を大きくリードしている。

さらに、中国国家統計局が16日に発表した第1四半期(1~3月)の国内総生産(GDP)は、前年同期比で18.3%増と1992年以来最大の伸びを記録した。経済活動が急激に低迷した2020年との比較であることを理由に、成長の実態とのギャップを指摘する声もあるが、他国との回復格差は歴然だ。他国の回復が遅れるほど、さらに格差が広がる可能性も予想される。

世界で最初に新型コロナが蔓延した中国は、一回目のロックダウン(都市封鎖)が解除された後、世界に先駆けて経済活動を再開した。世界最大の輸出大国であることを武器に、特に工業生産分野で劇的な回復を遂げた。第1四半期の伸びも、輸出の拡大によるところが大きい。

成長率が高いとみられているインドは、現在第4波の猛威の真っただ中にある。4月19日には、1日当たりの新規感染者が過去最高の27万3,810人、死者が1,619人を記録した。ワクチン接種のペースを早めるといった対応策を講じているが、経済活動が再び低迷していることから、今後の経済成長が危ぶまれている。つまり、少なくとも当面は、「中国の一人勝ち」が継続することとなりそうだ。

世界のビジネスにおける中国の台頭

世界のビジネスにおける中国の台頭は、コロナ以前から見られた現象だ。

2020年の「フォーチュン・グローバル500(世界の企業の総収益ランキング)」では、シノペック(中国石油化工)と国家電網がトップ3入りを果たし、米国より3社多い合計124社 がランクインした。総収益は、米国が9兆8,000億ドル(約1,059兆4,976億円)で首位を維持したものの、中国が全500社の24.9%に値する8兆3,000億ドル(約897兆 3,151億円)と追い上げている。ランクインした企業がわずか29社、総収益が1兆1,000億ドル(約118兆9,311億円)だった2008年と比較すると、その成長ぶりは目を見張るばかりだ。

さらに、「ブランド・ファイナンス・グローバル500(世界の企業のブランド力ランキング)」では、中国建設銀行やテンセント(騰訊控股)、ファーウェイ(華為技術)など8社がトップ20に選ばれた。
中国の強みは、これらのグローバル企業のみらなず、国内でも経済成長の原動力となる動きが盛んな点だ。活発化している産業分野はITから金融、医療、製造、農業、食品、サービスまで広範囲に及ぶ。

近年、成長率の鈍化が指摘されていたが、広大な市場や低賃金、生産力、技術、輸出力、労働力など、コロナ禍でも成長し続ける「切り札」を中国はいくつももっている。

女性起業家の世界的跳躍も追い風に

もう一つ追い風となっているのは、女性起業家の世界的跳躍だ。男女格差社会にも関わらず、中国女性のセルフメイド・ビリオネアは凄まじい勢いで増えている。

胡潤研究院が発表した「2020年世界の女性起業家ランキング」では、トップ10のうち9人が中国人女性だった。その中には「翰森製薬」の鐘慧娟CEOや、不動産開発「竜湖集団」の呉亜軍会長、スマホ部品製造「藍思科技」の周群飛会長などが含まれる。それぞれ1,060億元(約1兆7,627億円)、990億元(約1兆6,463億円)、660億元(約1兆973億円)と、桁違いの資産を自らの手で生みだした。

また、同研究所の最新データによると、2021年には新たに24人の中国人女性ビリオネアが誕生し、同国の女性ビリオネア数は85人に増えた。これは世界の女性ビリオネアの3分の2に匹敵する。

女性起業家が大成功をおさめている理由

なぜ中国人女性起業家が、これほどまでに大成功をおさめているのか。胡潤研究院ランキングの1、2位を獲得した鐘慧娟CEOと呉亜軍会長の成功に、そのヒントがある。

2015年、国営製薬工場のマネージャーだった夫(現江蘇恒瑞医薬グループの孫飄揚会長)が立ち上げた一製薬会社をわずか4年で上場させ、同国を代表する大手製薬会社の一つに成長させたのは、鐘慧娟CEOの機転と手腕によるものだ。同氏は自社のターゲットをジェネリック医薬品から特許薬に移行させ、多様な細菌感染症に効果を発揮する抗生物質「セファレキシン」を開発した。さらに、年間収益の10%を新薬の研究開発に投資し続け、数々の有用な新薬を世の中に送り出している。

2位の呉亜軍会長は、国営工場の技術者、新聞記者というキャリアを経て、不動産タイクーンへと華麗な変身を遂げた。新聞記者時代に培ったネットワークを活用して、1993年、当時の夫と不動産開発事業を立ち上げた。同氏の野望はそこに留まらず、2004年には香港ランド・ホールディングスと合弁会社を設立し、国際市場に参入した。

両者のように夫という後ろ盾や協力者がいたのは幸運なことではあるが、彼女らは恵まれた境遇や成功に甘んじることなくさらなる高みを目指し、次々とチャンスをものにした。これは、中国の女性起業家に限らず、すべてのビジネスの成功者に当てはまるのではないだろうか。また、胡潤研究院のルパート・フーゲワーフ代表は要因の一つとして、「同国の改革開放政策により、女性起業家のマネージメント能力が大きく引き出されたこと」を挙げている。

「2032年、中国が世界最大の経済大国になる」?

コロナ禍でも拡大し続ける中国のビジネス革新力を受け、「中国経済は2032年前後に米国を追い抜き、世界最大になる」と、エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)のグローバル・チーフ・エコノミスト、サイモン・バプテスト氏は予想している。米中摩擦や世界の中国に対する警戒心も、ビジネスや経済にもたらす長期的な影響は限定されているということだろうか。同氏の予想が現実となるか否か、現時点では知るすべもないが、中国企業が世界を揺さぶりはじめているのは疑う余地がないだろう。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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