株式相場の状況を一定の計算方法で数値化したものを「株価指数」といいます。この株式指数のうち、国内でもっとも広く知られているのが、「日経平均株価」と「東証株価指数(TOPIX)」です。なかでもTOPIXは、値嵩株(市場全体の平均値より高値の銘柄)の影響を受けにくいように算出されるため、日経平均株価よりもベンチマークとして採用している投資信託が多くなっています。
株式投資を始める前には、株価指数の特徴を把握することは必須といえます。ここではTOPIXの特徴について解説します。
目次
TOPIXの基礎知識
TOPIXは、東証市場第一部に上場する普通株式の全銘柄の状況を示す指数で、1968年1月4日時点の東証市場第一部に上場する普通株式全銘柄の時価総額(基準時価総額)を100として、その後の株価の値動きを表したものです。具体的には、以下のように算出されます。
算出時の指数用時価総額÷基準時価総額×基準値(100)
「指数用時価総額」とは簡単にいえば、経営者や持株会など安定株主が保有している株式を除く「浮動株」の売買によって算出されるもので、東証市場第一部で取引されている株価の時価総額の近似値となっています。ちなみに2020年11月17日15時時点でのTOPIXは、1,734.66です。
TOPIXに連動した投資信託を購入することは、東証市場第一部に上場する全銘柄を時価総額で購入することと同様の分散効果(資産や購入時期を多様化させることによるリスク低減効果)があると考えられます。
またTOPIXは、市場での取引時間中は1秒ごとに配信されているため、精度が高くタイムラグの小さいインデックスとして普及しています。
TOPIXと日経平均株価の違いは?
海外では「Nikkei225」と表記される日経平均株価は、その名の通り東京証券取引所市場第一部に上場する全銘柄から、業種ごとに代表的な225銘柄を選定し、その状況を指数化したものです。
日経平均株価は、採用銘柄の株価を合計し、一定の除数で割って算出される「修正平均株価」です。その性質上、値嵩株の影響を強く受けるため、上場全銘柄を対象としたTOPIXのほうが国内株式の状況をより正確に反映すると考えられています。
TOPIXを構成している時価総額上位10銘柄
TOPIXは時価総額の大きい企業の株価に影響を受けやすい特徴があるため、東京証券取引所は構成銘柄別の割合を毎月公開しています。
2020年9月末時点の上位10社は下表の通りです。
▽TOPIXを構成する時価総額上位10銘柄
順位 | コード | 銘柄名 | 業種 | TOPIXに占める 個別銘柄のウェイト |
1位 | 7203 | トヨタ自動車株式会社 | 輸送用機器 | 3.40% |
2位 | 9984 | ソフトバンクグループ株式会社 | 情報・通信業 | 2.21% |
3位 | 6758 | ソニー株式会社 | 電気機器 | 2.21% |
4位 | 6861 | 株式会社キーエンス | 電気機器 | 1.95% |
5位 | 7974 | 任天堂株式会社 | その他製品 | 1.61% |
6位 | 4502 | 武田薬品工業株式会社 | 医薬品 | 1.37% |
7位 | 6098 | リクルートホールディングス | サービス業 | 1.25% |
8位 | 9432 | 日本電信電話株式会社 | 情報・通信業 | 1.24% |
9位 | 8306 | 三菱UFJフィナンシャル・グループ | 銀行業 | 1.23% |
10位 | 4568 | 第一三共株式会社 | 医薬品 | 1.22% |
詳しくは後述しますが、こうしたランキングの比重が、内需産業と外需産業のどちらに寄っているかを把握することで、適切な投資戦略を立てやすくなります。
TOPIXからわかる値動きの激しい東証第一部
1968年から2020年までの、その年の取引開始時のTOPIXの推移は下図の通りです。
▽1968年~2020年のTOPIX始値の推移
バブル景気に湧いた1990年の2867.70を頂点に急落し、以降は乱高下を繰返し、現在も最高値を更新するには至っていません。ただし現在はさまざまな経済対策によって、急落後の高値圏にまで回復してきています。
値動きの荒い市場に資金を投じるのは決断を要しますが、国内株式は外国株式とは異なり為替による影響がないため、その分リスクを抑えることができます。また、激しく値が動く市場では、価格変動リスクを低減する手法として、決まったタイミングで同額ずつ購入する「ドルコスト平均法」が有効であると考えられています。
一気に資金を投じるのではなく、つみたてNISAなどで節税効果を得ながら、少しずつ投資を行っていくのに適した市場であるといえそうです。
TOPIXを活用して、内需と外需のウェイトを測る「NT倍率」
TOPIXは東証第一部に上場する全銘柄の時価総額に基づいて算出されるため、内需関連株と輸出関連株の両方が反映されています。これだけでは、内需と外需のどちらがより好調なのかを測ることはできません。
対して日経平均株価は、株価の高い輸出関連株の影響を受けやすくなっています。国内株式の状況を示す指数TOPIXと日経平均株価には乖離がありますが、その差を利用し内需と外需の強弱を測るのが、日経平均をTOPIXで割った指標が「NT倍率」です。
NT倍率は10倍程度の倍率を取ることが多く、10倍を上回ると外需が強いと判断され、輸出関連株が買われやすくなります。10倍を下回る場合は、不動産や建築、保険や銀行などの内需主体の株式が買われやすい傾向があります。
同じ事象であっても、株式は業務分野によって好悪の判断が異なります。たとえば円高は輸出関連などの外需関連銘柄には悪材料となりますが、内需関連株には好材料として受け止められます。
市場全体を表す指数の高低だけでなく、どの分野が伸びているのかを分析することが、株式投資を行ううえでは重要です。
TOPIXを活用した投資方法
TOPIXを活用した投資で最も明瞭なのは、TOPIXに連動した投資信託の購入です。投資信託には金融機関が販売するものと、株式市場に上場されるETF(上場投資信託)に大別されます。
TOPIXに連動したファンドは手数料も安く、市場平均並みのリターンが見込めるため、着実な中長期投資に適しているとされています。ただし金融機関により取り扱う商品が大きく異なるため、口座開設時によく調べないと希望の商品を購入できない場合もあります。取得価格は1日1回算出される基準価額で、新聞等に掲載されているのは前日の基準価額です。
ETFも指数連動を目指して運用される点は同じですが、ファンドそのものが市場に上場されているため、どこの証券会社でも購入できます。また、取引時間中は価格が変動し、リアルタイムでの売買となります。
TOPIXを活用した投資法1:つみたてNISAの活用
少額からの長期積立・分散投資を促進するための税制優遇である「つみたてNISA」では、金融庁が選定した優良な投資信託のみが購入可能で、購入時手数料が不要、信託報酬も低水準です。2020年11月9日現在、つみたてNISAで購入できるTOPIX連動商品は投資信託が13本、ETFは1本です。
つみたてNISAは、年間40万円までの新規投資による収益が、最大20年まで非課税となるため、最大で800万円までの非課税投資枠が利用可能です。日本に住所のある20歳以上の方なら誰でも利用することができます。
通常、配当金や譲渡益には約20%の税金が課されていますが、つみたてNISAとTOPIX連動投資信託を組み合わせることで、低コストで安定した長期の投資運用が可能です。
投資運用では、税金や手数料などのコストをなるべく抑えることで投資効率が向上しますが、ネット証券会社などでは少額の約定への手数料は安価なケースが多くなっています。少額からの積立投資を行う場合は、売買手数料の節約のためにネット証券を選ぶのも有力です。
多くの資金を投資する場合は、売買手数料と信託報酬の総額をよく確認し、より有利なものを選択することが重要になります。
TOPIXを活用した投資法2:TOPIX連動の投資信託か、ETFか
また投資信託を選ぶ際はコストだけでなく、ファンドの純資産総額も確認する必要があります。純資産総額が大きければ大きいほど、分散効果も高まるからです。
NISAで購入できるTOPIX連動の投資信託では、「ニッセイTOPIXインデックスファンド」が純資産総額325億円と大きく、信託報酬も0.15%と比較的低水準となっています。
しかし、ETFである「ダイワ上場投信―トピックス」は、純資産総額が6兆2,879億2,800万円と桁違いで、信託報酬も0.12%とさらに低くなっています。
ただしETFは再投資による複利効果が得られないなどデメリットもあるので、投資期間や目標収益との兼ね合いでどちらかが有利であると断定はできません。
TOPIXを活用した投資法3:S&P500とTOPIXの強弱を表す「ST倍率」で地域分散
TOPIXに連動した投資は強力な分散効果を得られますが、過去の値動きの乱高下を見る限り、一国の株式のみを所有することのリスクも存在します。
そこで、たとえばアメリカのナスダックやニューヨーク証券取引所に上場している500銘柄から算出されている「S&P500」連動商品などを購入することで、分散効果を高められる可能性があります。
S&P500とTOPIXの強弱を表す「ST倍率」という指数もあり、ST倍率が高くなるとアメリカ株式に対して日本株が出遅れていると考えられます。海外投資家がTOPIXに追加投資を行う判断基準として、ST倍率を利用しているという見方もあります。
市場平均よりも高いリターンを得ることを目指すのであれば、複数の指数の乖離を読み解き、積極的な投資を行う必要があります。
TOPIXを利用した投資に適した証券会社とは
TOPIXを利用した投資を行うには、投資信託の活用が有効ですが、資金を拠出して他者に運用を行ってもらう仕組みのため、さまざまな手数料が必要となります。
投資家が負担する投資信託の主な手数料は、購入する際に証券会社などに支払う「購入時手数料」、投資信託の管理・運用に要する費用である「運用管理費用(信託報酬)」、投資信託を解約し現金化する際に投資信託が所有している金融商品の売却費用として差し引かれる「解約時財産留保額」、決算ごとに行われる監査法人への「監査報酬」の4つがあります。
この内、運用管理費用と解約時財産留保額、監査報酬の3つは投資信託ごとに固定された手数料ですが、購入時手数料は投資家が関与できる唯一の手数料です。
これに配慮せずに投資信託を利用してしまうと、投資に回る資金を減少させリターンを低下させる要因となってしまいます。
購入時手数料はETFを利用する場合と、証券会社などの金融機関が販売する投資信託を利用する場合とでは対策方法が異なっていますので、投資に適した証券会社を厳選することが重要です。
まずETFを利用する場合は、売買に際し通常の株式取引と同様に証券会社への取引手数料を支払う必要があります。
取引手数料は下表のように、オンライン取引が主体となっているネット証券などが安価な傾向があります。
▽ETFの売買における証券会社の取引手数料例
証券会社 | 現物取引の約定代金ごとの手数料(税抜) | ||||
5万円 | 10万円 | 20万円 | 50万円 | 100万円 | |
松井証券 | 0円※ | 0円※ | 0円※ | 0円※ | 1,100円 |
SBI証券 | 55円 | 99円 | 115円 | 275円 | 535円 |
楽天証券 | 55円 | 99円 | 115円 | 275円 | 535円 |
野村證券オンラインサービス | 152円 | 152円 | 330円 | 524円 | 1,048円 |
大和証券ダイワ・ダイレクトコース インターネットコンタクトセンター | 1,100円 | 1,100円 | 1,100円 | 1,897円 | 3,795円 |
※取引回数に関わらず、約定代金が50万円に達するまで0円
通常は、1注文ごとに取引手数料が発生するため、取引回数が多くなるほど手数料負担が増加してしまいますが、「松井証券」は注文回数に関わらず1日の約定代金が50万円までは無料となっており、取引回数や取引額がそれほど多くない投資家に適しています。またSBI証券で、上記とは別にアクティブプランを選ぶと1日の取引代金が100万円まで、楽天証券はいちにち定額コースを選べば50万円まで手数料がかかりません。
しかし、これら一定額まで無料の取引コースは、100万円以上の取引の場合、手数料が比較的大きくなるため、取引金額が大きい場合は取引手数料がネット証券会社のなかでも比較的安価な「SBI証券」や「楽天証券」の利用がおすすめです。
金融機関が販売する投資信託の購入時手数料は、販売会社が自由に決めることができ、同じ投資信託でも購入先の証券会社などによっては金額の数パーセントという大きな金額となる場合もあります。
先に取り上げた「ニッセイTOPIXインデックスファンド」は、購入先に関わらず購入時手数料のかからないノーロードの投資信託となりますが、他の投資信託を購入する場合は、購入時手数料に注意して証券会社などを選ぶとよいでしょう。
まとめ:TOPIXを利用した分散投資を
TOPIXを利用した投資では、インデックス運用を行っているETFや投資信託が主な選択肢となりますが、近年はETFもつみたてNISAで利用できるようになり、中長期の積立投資を行う環境が整ってきました。ドルコスト法の利用や、海外の金融商品との併用など、効果的な分散投資が効率的な運用のカギとなります。
文・菊原 浩司
2級ファイナンシャルプランニング技能士、一種証券外務員資格保有、管理業務主任者 人生のお金の設計図であるマネープランには、マイホームの取得や養育費の準備、老後資金の確保といった問題に対処するため、資産運用やリスク対策の為に各種保険を利用していく必要があります。 複雑化するマネープランに対し、PDCA【Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)】サイクルを利用したコンサルタントを行っている