混迷する戦闘機「F-35エンジン」製造は誰の手に?
(画像=PIXTA)

トルコが「F-35プログラム」から排除されることで同機のエンジン価格が少なくとも30万米ドル上昇する旨“喧伝”されている(参考)。

F-35は米国のロッキード・マーティン社を中心とする企業により開発されたステルス戦闘機である。同機の製造には1兆4千億米ドルがかかり「史上最も高額な戦闘機」と評される。

同機の開発プログラムである「F-35プログラム」では開発パートナー国はその出資割合に応じてレヴェル1~3に分類される(参考)。レヴェル1に該当するのは25億米ドル(開発費の10パーセント)を負担した英国である。英国は米国以外で唯一、要求性能への関与及び開発された技術へのアクセスが可能となる。レヴェル2に該当するのは10億米ドルを負担したイタリアと8億米ドルを負担したオランダで、F-35を構成する部品の製造権を持つ。イタリアは米国以外でははじめてFACO(最終組立・検査ライン)を誘致した。レヴェル3にはカナダ、トルコ、オーストラリア、ノルウェー、デンマークが該当し、1億米ドル前後を負担して負担額に応じた部品製造権を持つ。

「F-35プログラム」においてトルコは機体の部品約2万4000点のうち817点、エンジンを構成する部品約3000点のうち188点の供給を担当していた。しかし同国がロシア製ミサイルシステム「S400」を購入したことを受け、去る2019年7月に米国政府はトルコを当該プログラムから排除することを決定した(参考)。 当初昨年(2020年)までにすべてのトルコ企業が排除されるはずであったのに対し、1000以上の部品を代わりに製造可能な企業をすぐに確保することが困難であり、かつ新型コロナウイルスの感染拡大による製造の混乱も重なり、いまだトルコ企業の排除は完了していない(参考)。更にエンジンそのものに対しても、過熱でエンジンの寿命が短くなる旨の疑義がオランダから出され、調査が始められている(参考)。

こうした中でエンジン部品製造部門の責任者であるマシュー・ブロムバーグが米国下院軍事委員会の公聴会において証言したのが、上述のトルコ企業排除によるエンジン価格上昇であった。

F-35戦闘機はその開発費のみならず維持費も高額であることがしばしば非難の対象となってきた。先月(2021年4月)末、米国の民主党議員が予測される維持費を大幅に削減できない場合にはF-23機に予算を充てない旨の見解を表明したが(参考)、これに対しては去る4月28日(米東部時間)に反対する書簡が出され、更に今月(2021年5月)に入って米下院議員130名以上が「F-35プログラムへの継続的な支援を求める署名を提出した(参考)。

このように混乱の続く「F-35プログラム」において次のエンジン開発の担い手はどの国なのかが問題となる。

我が国は米国に次ぐ数のF-35機を運用している。 エンジン製造についてIHIが非独占製造権を持ち、東京の瑞穂工場で製造及び整備を行っている(参考)。他方で過去に我が国は「F-35プログラム」の開発パートナー国への参加を要請したものの、米国はこれを拒否していた(参考)。 トルコ排除をきっかけに、米国における反「F-35プログラム」を踏まえ、コストを抑えて性能の良いエンジンを供給することで開発パートナー国として参入することになるのか。それともあくまで我が国は完成機体の購入国であるのか。引き続き注視していきたい。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記す

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