最近では証券会社だけでなく、銀行などの金融機関でも関連する証券会社の口座開設をすることができます。そのため「複数の証券会社で口座開設をしよう」と検討したことがある人もいるのではないでしょうか。なかには実際に複数の証券会社の口座を持っている人もいるかもしれません。そこで今回は「複数の証券口座を開設したい」という人に向けて複数の証券口座を持つメリットや注意点をQ&A方式で解説します。

目次

  1. そもそも複数の口座を開設できる?
  2. すでに特定口座と一般口座の2つを持っているのですが?
  3. 複数の口座を持つ具体的なメリットは?
  4. 証券会社によって何か違いがあるの?
  5. 管理には手間がかかるのでは?
  6. 複数持つことによるコストは?注意点は?
  7. 損益通算は証券会社が行ってくれるの?
  8. 複数の証券口座を活用して賢く「いいとこ取り」をしよう
  9. 実際に株式投資を始めてみる

そもそも複数の口座を開設できる?

金融
(画像=kras99/stock.adobe.com)

Q1:現在A証券の口座で運用を行っています。違う証券会社で口座を作ろうと考えたことはなかったのですが、そもそも複数の証券会社で口座開設はできるのでしょうか?

A1:複数の証券会社で口座開設することは可能です。個人が開設する証券口座の数に制限はありませんので、A証券の口座を持っていてもB証券やC証券など複数の会社で口座開設をすることができます。複数の証券口座を持つことで、さまざまなメリットや注意点があるため、以下のQ&Aにて確認していきましょう。

すでに特定口座と一般口座の2つを持っているのですが?

Q2:証券口座を開設するときに「特定口座を開設するかどうか」を選ぶ欄があり、いまはB証券で「特定口座」と「一般口座」を持っています。2つの口座を持っているので、わざわざほかの証券会社で口座開設する必要はあるでしょうか?

A2:証券会社で口座開設をするときには「特定口座」を開設するかどうかを選択する必要があります。特定口座は開設するかしないかを選択可能です。開設しない場合は「一般口座」、開設する場合は特定口座の「源泉徴収あり」と「源泉徴収なし」のどちらかを選択して一般口座または特定口座で投資を行っていきます。

「複数の証券会社で口座を開設する」ということは、「一般口座」や「特定口座」を各金融機関で保有することです。一般口座と特定口座には大きな違いがあります。

・一般口座とは

証券口座の開設申し込みをすると必ず開設される口座です。一般口座を介して株式や投資信託・債券などの金融商品の売買を行います。しかし一般口座の場合は、その都度譲渡損益(儲けや損)のほか1年間の収支を自身で計算をして翌年に確定申告を行わなければなりません。1年間で利益がある場合には所得税・住民税の計算をして損失がある場合には「損益通算」や「譲渡損失の繰越控除」の手続きなどを行います。

また資産の管理や損益計算、申告の手続きなどもすべて自身で行うことが必要です。そのため一般口座を利用するためには投資や税金などの知識や経験が必要といえるでしょう。

・特定口座とは?一般口座との違いは?

一般口座と異なり特定口座は、証券口座開設時に開設をするかしないかを選択できます。特定口座の種類は前述の通り「源泉徴収なし(簡易申告口座)」「源泉徴収あり(源泉徴収口座)」の2種類です。2003年から一般口座を利用するときに必要な個人投資家の資産管理や申告・納税手続きなどを簡略化するために特定口座が創設されました。

この2つの特定口座は年の初めの取引前であれば1年ごとにどちらかが選択可能で、以下のような違いがあります。

▽源泉徴収なし(簡易申告口座)

特定口座(源泉徴収なし)で金融商品を取引した際の損益は、一般口座で取引したほかの金融商品の所得と区分して計算されます。計算は特定口座内で行われるため、一般口座のように取引ごとの損益の管理をすることが不要です。また年間の取引は証券会社から「特定口座年間取引報告書」が毎年交付され年間の損益計算を自身で行う必要もありません。

特定口座年間取引報告書を税務署へ提出して確定申告が行えるため、申告時の手間を大幅に省くことができます。

▽源泉徴収あり(源泉徴収口座)

特定口座(源泉徴収あり)で金融商品を取引した場合、源泉徴収なしの口座よりもさらに手続きなどの手間が軽減できます。例えば利益が出た場合は税金が自動的に源泉徴収され残額が利益として特定口座に残るといった具合です。一方利益が出てすでに源泉徴収された税金があったときに、損失を確定させると源泉徴収された税金の還付が特定口座内で自動的に行われます。

このように譲渡益と譲渡損との「損益通算」が取引ごとに行われるのが特定口座(源泉徴収あり)です。源泉徴収なしの口座と同じく1年間の取引は証券会社が発行してくれる「特定口座年間取引報告書」にまとめられます。年間の収益がプラスの場合には源泉徴収によって税金を納めているため確定申告が不要です。

また1年間の収支がマイナスの場合、確定申告を行うことによって「損益通算」や「譲渡損失の繰越控除」ができます。このように証券口座を開設すると一口に言っても一般口座と特定口座の違いがあるのです。また特定口座の中でも「源泉徴収あり」「源泉徴収なし」の2つが選択できるため違いをしっかりと押さえておきましょう。

この章のまとめ

  • 証券会社で口座開設をするときには「特定口座」を開設するかどうかを選択する
  • 一般口座とは証券口座の開設申し込みをすると必ず開設される口座
  • 特定口座とは一般口座と異なり証券口座開設時に開設をするかしないかを選択できる
  • 源泉徴収なしの場合、特定口座年間取引報告書を税務署へ提出して確定申告が行えるため申告時の手間を大幅に省くことができる
  • 源泉徴収ありの場合、特定口座で金融商品を取引した場合、源泉徴収なしの口座よりもさらに手続きなどの手間が軽減できる

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複数の口座を持つ具体的なメリットは?

Q3:1つの証券会社の口座で運用を行えば充分な気がしますが、複数の証券口座を持つことの具体的なメリットは何でしょうか?

A3:もちろん1つの証券会社の口座でも運用することは可能です。ただ証券会社ごとに提供しているサービスや情報などが異なり他社との差別化を図っているため、「複数の証券会社の口座を持つ」ということはそれぞれのサービスを上手に活用することにもつながります。なお主なメリットとしては以下の3つです。

・メリット1:投資商品の幅が広がる

証券会社によって購入できる金融商品の種類や数はさまざまです。例えば国内株式には現物・信用取引をはじめIPO・立会外分売・ETF・ETN・REIT・PTS取引など取り扱いの種類や商品数などが異なります。また特定の国の外国株式など証券会社によっては購入できない商品を取り扱っているところもあるのです。金融商品は株式だけでなく投資信託・債券・海外ETF・先物取引・金など種類は多岐にわたります。

そのため1つの証券会社では投資したい商品がすべてそろっていない場合もあるのです。このような場合には複数の証券会社の口座を開設することによって投資する商品の幅を広げることができます。

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・メリット2:不測の事態にも対応できる

証券会社のシステムダウンなど万が一不測の事態が起こった場合、証券口座内の取引が行えなくなる可能性も否めません。このような場合に複数の証券会社で口座開設をしていれば保有している商品の急激な価格変動時には反対売買を行うなど投資の機会や利益の遺失といったリスクを回避することも期待できます。

・メリット3:IPOへの投資は複数の証券会社で

IPO(新規株式公開)は証券会社によって割り当てられる株数が異なります。一般的に主幹事や副幹事の証券会社へ割り当てられる株数が多くなるため、主幹事・副幹事証券会社の口座を持っていれば新規公開株が購入できる確率も高まるでしょう。またIPO株の販売のみを行う証券会社(委託幹事と呼ばれる)もあり、幹事以外の証券会社の口座を複数保有していればIPOへの申し込みの機会も増えるため、その分当選確率を上げることも期待できます。

そのためIPO投資を検討している場合は複数の証券会社で口座開設するメリットは大きいといえます。

なおIPOは証券会社によって取扱数が異なるため、取扱数が多い証券会社を複数選ぶことでより一層メリットを期待できるでしょう。ただし申し込みの際に以下のような条件やペナルティがある証券会社もあります。

  • 事前に購入予定金額分の残高がないと購入できない
  • 当選時は購入の取り消しができない
  • 購入の取り消しをした場合には一定期間IPOに申し込みができないなど

そのためこれらの点については事前に確認のうえ、できるだけ有利な証券会社を選ぶことが大切です。

この章のまとめ

  • 「複数の証券会社の口座を持つ」ということはそれぞれのサービスを上手に活用することに繋がる
  • 金融商品は株式だけでなく投資信託・債券・海外ETF・先物取引・金など種類は多岐にわたる
  • 投資の機会や利益の遺失といったリスクを回避できる
  • IPO投資を検討している場合は複数の証券会社で口座開設するメリットは大きい。

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証券会社によって何か違いがあるの?

Q4:いろいろな商品に投資する予定はないのですが、その場合にも複数の証券会社で口座開設するメリットはあるでしょうか?商品ラインアップのほかに証券会社によって何か違いがあるのでしょうか?

A4:複数の証券会社で口座開設をすることで投資できる商品の幅が広がります。しかしそれだけではなく証券会社ごとに例えば以下のような違いがあるため押さえておきましょう。

・違い1:分析ツール、サービスや情報の内容
証券会社はサービスの向上や顧客獲得などを目的としてさまざまな独自の運用サポート・分析ツールなどを提供し顧客満足度の向上を図っています。そのため例えば「一定の取引を行えば利用できるサービス」「有料で提供しても良いと思えるものが無料で利用できる」など内容や特徴は証券会社ごとに異なる傾向です。

これらのサービスを比較・検討したうえで自身に合ったツールで情報収集を行うことでより投資効率の向上を図れる可能性が広がります。複数の証券会社の情報を有効活用し「いいとこ取り」をしながら今後の投資に活かしていくことも可能です。

・違い2:手数料体系や料金
取引時にかかる手数料も証券会社によってさまざまです。例えば国内株式の取引では「1注文の約定金額に手数料がかかるのか」「1日の約定金額の合計額に手数料がかかるのか」など取引額や取引回数によって手数料の額が異なります。自身の投資スタイルによって証券会社を使い分けることで取引時にかかる手数料を抑えることも可能です。

そのため複数の証券口座を保有することで「取引頻度」「取引額」「金融商品」などによってできるだけコストが低い証券会社を選択して取引を行うことができます。 ・\手数料が安い!複数口座解説ならネット大手の楽天証券/ 

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管理には手間がかかるのでは?

Q5:1つの証券会社だけでいろいろな商品に投資をしていて日ごろの資産チェックや管理に手間がかかっています。複数の口座を開設するとさらに手間がかかり面倒なのではないでしょうか?

A5:開設している口座ごとに資産残高の把握や管理をしていくことは必要です。口座が増えるため当然管理や手間が増えるという一面はあります。手間という面では大きく分けると以下のような作業が必要といえるでしょう。

・手間1:資産残高、損益の把握
証券口座が1つの場合、その証券会社のサイトですべての保有商品を確認できるため、資産残高や損益等を容易に把握できます。しかし複数の証券口座を持っている場合には口座ごとに確認を行い「現在の全体の資産残高や損益はどうなっているのか」などを定期的にチェックすることが必要です。ただし近年は保有資産を一括管理できるアプリなどもあるため、自身に合った方法で管理をしていくこともできます。

・手間2:証券会社のサイト管理
多くの証券会社がWeb上で口座管理を行うことが可能です。そのため各証券会社のログインIDやパスワードの管理は必須となります。失念した場合には取引ができなくなるほか再発行などの時間や手間がかかりかねません。複数の証券口座を持つ場合には同じパスワードを使い回ししないなどセキュリティ管理も行っていくことは重要です。

また証券会社によってはサイト上で重要事項の告知などを行い閲覧しないと取引ができないケースもあります。例えば数ヵ月間ログインをしていないと告知の閲覧や確認に手間と時間がかかる場合もあるでしょう。定期的にパスワードの変更が求められる場合もあるため、口座開設後はこまめにログインをしてサイト内の確認などを行っていくことが必要です。

複数持つことによるコストは?注意点は?

Q6:複数の証券口座を持つことでコストがかかってはあまり意味がないと思うのですが、何かコストはかかりますか?また複数持つ場合の注意点はありますか?

A6:複数の証券口座を持つことで特に金銭的なコストはかかりません。しかし前述の通り口座の管理や資産残高の把握などを行わないと税金というコストを多く負担することになる可能性があります。例えば2つの証券会社で口座開設をしてそれぞれ1年間特定口座(源泉徴収あり)で取引した例を見てみましょう。

A証券では200万円の利益を得られました。一方B証券では100万円の損失が出てしまい1年間の利益はトータルで100万円です。ただし各証券会社の特定口座(源泉徴収あり)では口座内で取引ごとに損益通算が行われるため、A証券の口座では200万円×20.315%(特別復興所得税を含む)=40万6,300円が源泉徴収されます。

しかしB証券の口座はマイナス100万円です。同じ証券会社の損益は自動で合算されますが、A証券とB証券の損益は自動では合算されません。その結果200万円-100万円-40万6,300円=59万3,700円が1年間の税引き後の利益です。もしこの取引を1つの証券口座で行った場合にはどのようになるでしょうか。

トータルの利益は100万円のため、特定口座(源泉徴収あり)で100万円に対して20.315%(20万3,150円)が源泉徴収されます。そのため100万円-20万3,150円=79万6,850円が税引き後の利益です。この税引き後の利益の違いは、2つの証券口座での取引のうちB証券の口座で出た損失が反映されていないことが原因です。

反映されないことで年間20万3,150円もの税金というコストを多く負担することになりかねません。これを回避するためには後述する「損益通算」を行う必要があります。

損益通算は証券会社が行ってくれるの?

Q7:1年間で利益が出た口座と損失が出た口座がある場合、証券会社が損益通算の計算を行ってくれるのでしょうか?自分で計算をするのは面倒な気がします。

A7:1つの証券会社の特定口座(源泉徴収あり)だけで取引を行っている場合は、特定口座内で損益通算が自動的に行われます。しかし特定口座や一般口座を含めた複数の口座のうち1つでも損失が出た口座がある場合、損益通算を行わないと税金は戻ってきません。そのため複数の口座を持つ場合、時間や手間はかかりますが年末に各口座や全体の年間損益を確認する習慣をつけておくことも大切です。

損益通算は翌年の確定申告で行うため、1年間で利益が出た口座と損失が出た口座の両方がある場合はこの手間が生じます。前述した例で説明すると1年間におけるすべての証券会社口座の利益は100万円(A証券200万円-B証券100万円)です。そのため損益通算を行うことで多く支払っている20万3,150円を還付してもらえます。

また損益通算をしてもまだ年間の損失が残っている場合には、後述する「譲渡損失の繰越控除」が利用可能です。しかし譲渡損失の繰越控除を行う場合も確定申告が必要になります。では損益通算をしたい場合、どのように確定申告をすればよいのでしょうか。最後に確定申告の方法と「損益通算」や「譲渡損失の繰越控除」の仕組みについて解説します。

・どのように確定申告を行う?
確定申告は源泉徴収口座(源泉徴収あり)のみで取引を行った場合でも複数の口座で利益と損失が出た場合には「損益通算」ができるため確定申告を行うことで税金を還付してもらえます。また1年間で1回以上一般口座または特定口座(源泉徴収なし)内で金融商品を売却した場合にも確定申告が必要です。なお一般口座と特定口座では確定申告の際に提出する書類などが異なります。

そのためまずはそれぞれの確定申告の方法や流れを押さえておきましょう。

・1一般口座の確定申告は手間がかかる
(1)「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」の作成
明細書には下記の項目の記載が必要です。

  1. 譲渡年月日(償還日)
  2. 譲渡した投資信託の銘柄
  3. 数量(口数)
  4. 譲渡先(金融商品取引業者等)の所在地・名称等
  5. 譲渡による収入金額
  6. 取得費(取得価額)
  7. 譲渡のための委託手数料
  8. 取得年月日

つまり一般口座での取引では購入時から売却時まで商品ごとに上記の情報を管理し確定申告時に記載できるよう把握しておくことが必要です。複数の商品を購入した場合は、さらに手間がかかり同じ商品を複数回に分けて購入した場合は取得価額の計算などが複雑になるケースもあります。この明細書を作成することによって複数の商品間、複数の証券会社間の損益通算が行われ、年間の「譲渡収入」「譲渡所得」が決まります。

(2)譲渡収入以外の収入を記載する
確定申告では明細書で譲渡収入を計算するほか「申告書」に給与などほかの収入も記載する必要があります。ただし収入が給与収入など年末調整を受けたものだけの場合には「源泉徴収票」の内容を申告書に記載するだけのためそれほど手間はかかりません。

(3)所得から控除できる金額を記載する
基礎控除や社会保険料控除(年金保険料・健康保険料など)など所得控除できる金額を記載します。記載もれがあると課税対象となる所得が多くなり税負担も高くなるため、該当する所得控除は忘れないようにしましょう。なおこちらも給与所得のみで年末調整を受けている場合は、源泉徴収票に金額の記載がありますので複雑な計算は不要です。

(4)譲渡収入と譲渡所得の記載
証券口座内で得た利益である譲渡所得は「分離課税」のため、給与所得などほかの所得(総合課税)と分けて課税されています。前述の「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」で計算した譲渡収入と譲渡所得を別の表に記載しましょう。

(5)税金の計算
いよいよ税金の計算です。分離課税の譲渡所得は給与所得などと分けられ別々に税額計算を行います。その後2つの税額を合計して「1.021」を掛けた金額が「復興特別所得税」を含めた年間の所得税の総額です。その金額から給与所得などですでに源泉徴収をされている金額を差し引いて「申告納税額」が決定します。

・特定口座の確定申告は一般口座よりシンプル
一般口座で取引を行った場合は、取引内容の詳細を商品ごとに明細書に記載する必要があるため、口座管理や資産状況の把握は必須です。一方特定口座の場合は、一部証券会社が行ってくれる作業もあるため、一般口座よりも手続きはシンプルになります。基本的な流れは一般口座の場合と同様です。しかし一番大変な作業ともいえる「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」の作成に一般口座ほど手間がかかりません。

なぜなら証券会社ごとに「特定口座年間取引報告書」が毎年発行(証券会社によっては依頼しないと発行されない場合あり)され記載内容を明細書に転記すれば明細書が作成できるからです。このように確定申告を行い複数の証券会社の損益通算ができます。しかしそれでもまだ損失が残っている場合、譲渡所得以外の上場株式の配当金や投資信託の分配金「利子所得・配当所得」と損益通算も可能です。

ただし株式などの売却による損益通算、さらに利子所得や配当所得との損益通算を行っても、まだ損失が残っているケースもあるでしょう。この場合は、損失が出た翌年以降3年間はその損失を繰り越すことが可能です。翌年以降に出た利益から繰越額を控除することができます。これが「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」の特例です。

なおこの特例を活用する場合にも確定申告の次のような手続きが必要となります。

(1)上場株式等に係る譲渡損失と上場株式等に係る配当所得等との損益通算
イ.この損益通算の規定の適用を受けようとする年分の確定申告書に、この規定の適用を受けようとする旨を記載

ロ.「所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」及び「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」を添付して確定申告書を提出
(以上、出典:国税庁

こちらは複数の証券口座間で損益通算をしてもまだ損失が残っている場合に利子所得や配当所得と損益通算を行うために必要な手続きです。

(2)上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除
イ.上場株式等に係る譲渡損失の金額が生じた年分の所得税について「所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」及び「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」を添付して確定申告書を提出

ロ.その年以降連続して「所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」を添付して確定申告書を提出する
※上場株式等の譲渡がなかった年も譲渡損を翌年へ繰り越すための申告が必要です。

ハ.この繰越控除を受けようとする年分の所得税について「所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用)」及び一般株式等に係る譲渡所得等の金額または上場株式等に係る譲渡所得等の金額がある場合には「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」を添付して確定申告書を提出
(以上、出典:国税庁

こちらは上記(1)の損益通算を行ってもなお損失が残っている場合に必要な手続きです。繰越控除の適用を受けるためには、損失が出た年の翌年以降最長3年間は連続して確定申告を行う必要があります。このように一般口座や特定口座(源泉徴収なし)では確定申告が必須となり複数の証券口座の損益を自身で通算することが必要です。

一方特定口座(源泉徴収あり)のみで取引を行い1つ以上の口座に損失が出た場合は、確定申告によって特定口座内で源泉徴収された税金の一部が還付されます。さらに証券口座全体の損益がマイナスとなった場合も確定申告によって配当所得等との損益通算や損失を翌年以降に繰り越すことも可能です。所得税の確定申告は毎年2月16日~3月15日までという年度末の比較的忙しい時期に行います。

そのため申告の内容によっては手間と時間が思った以上にかかるかもしれません。しかし税金の還付や譲渡損失の繰越控除のためだけでなく税金の計算方法や流れを把握するうえで一度は経験してもよい手続きともいえるでしょう。

複数の証券口座を活用して賢く「いいとこ取り」をしよう

今回は複数の証券会社の口座を持つことによるメリットや注意点を解説しました。最後に解説した確定申告以外は、自身で管理を行っていれば回避できるデメリットや注意点の参考になるでしょう。現代では証券会社によってさまざまなサービスや情報提供を行っているため、一般投資家はそれらを最大限に活用することができます。

「投資商品ごとに証券会社を分ける」「分析ツールや情報をうまく活用する」など複数の証券会社の特徴やサービスを比較して自身に合った活用方法を見つけてみてはいかがでしょうか。

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文・澤田
所属・FP事務所FP EYE代表
1971年生まれ、東京都出身。FP事務所FP EYE代表。NPO法人日本相続士協会理事・相続士・AFP。相続税評価額算出のための土地評価・現況調査・測量や、遺産分割対策、生命保険の活用等、専門家とチームを組みクライアントへ相続対策のアドバイスを行っている。設計事務所勤務の経験を活かし土地評価のための図面作成も手掛ける。個人・法人顧客のコンサルティングを行うほか、セミナー講師・執筆等も行う実務家FPとして活動中

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