外出自粛やリモートワークの増加により、証券会社に口座を開設する人が増えています。2020年3月の株価急落からの回復局面で大きな収益を上げた人も多く、個人投資家による買い越し額は2020年8月末までに1.2兆円に達しています。

そのようななかで開設口座数を大きく伸ばしたのが、窓口での対面営業を必要としないネット証券です。主要ネット証券5社の2020年3~8月における新規口座開設数は127万を記録しました。これは前年同期と比べて5割増となっています。

しかし、自分にあった証券会社を選ぶのは簡単ではありません。ネット証券は手軽に取り引きできるけどデメリットはあるのか、取扱銘柄数が多いのはどの証券会社か、手数料は……など、気になるポイントを紹介します。

目次

  1. メインの証券会社は1社に
    1. メイン証券口座の選定基準1:投資スタイルと取引コストのバランスを考える
    2. メイン証券口座の選定基準2:自分に合ったサービスから選ぶ
    3. メイン証券口座の選定基準3:取扱商品の豊富さから選ぶ
  2. 総合証券と比較してわかる、ネット証券のメリット
    1. ネット証券のメリット1:取引コストが格安
    2. ネット証券のメリット2:多彩な取引商品がそろう
    3. ネット証券のメリット3:オンラインで取引が完結する
  3. 総合証券と比較してわかる、ネット証券のデメリット
    1. ネット証券のデメリット1:相談できる人がいない
    2. ネット証券のデメリット2:「歴史の浅さ」による情報力の不足
    3. ネット証券のデメリット3:IPOの割当株数が少なめ
  4. ネット証券主要5社の特徴は?
    1. 大手ネット証券会社の特徴1:ノーロードが魅力な投資信託
    2. 大手ネット証券会社の特徴2:外国株は各社で得意とする国・地域が異なる
    3. 大手ネット証券会社の特徴3:取引コストの低い会社がそろう
    4. 大手ネット証券会社の特徴4:少額投資が行える
  5. 投資スタイルに合ったネット証券選びは、投資の第一歩

メインの証券会社は1社に

株式投資でもっとも大切なことの1つは、資金管理です。買付可能額、預かり資産の銘柄や残高、取引履歴や約定結果、投資損益や税金申告など、証券口座が多くなればそれだけ管理が煩雑になります。そのため、メインで取引する証券口座はできるだけ1社に絞りたいところです。

では、メインとなる証券会社は何を基準に選べばよいのでしょうか。

メイン証券口座の選定基準1:投資スタイルと取引コストのバランスを考える

現物の株を買って長期保有する投資スタイルであれば、売買手数料は大きな負担にならないかもしれません。しかし、デイトレードのような短期売買をくり返す場合、取引額に占める手数料の割合はそれなりに大きくなります。

店舗営業を行う総合証券会社より手数料が低いネット証券会社でも、各社で手数料は異なります。また、各社とも投資家のスタイルに合わせた割引サービスを取り揃えていますので、よく検討して、総合的に取引コストが小さくなる証券会社を選ぶことが重要です。

メイン証券口座の選定基準2:自分に合ったサービスから選ぶ

サービスの使い勝手の評価は、人それぞれです。これは、投資スタイルによってマッチするサービスが異なるからです。たとえば、東証で株式市場が開いている平日9:00~11:30、12:30~15:00に自由に取引できるビジネスパーソンは限られます。でも夜間取引(PTS:私設取引システム)ができる証券会社であれば、夜間でも23時59分まで取引が可能です。

また、通常の株取引では最低単位が100株=1単元となりますが、単元未満株を扱っている証券会社では1株から購入できるため、少額から取引を始めたい初心者に向いているサービスといえるでしょう。さらにショッピングで溜まったTポイントやdポイント、楽天ポイントなどを使った株取引も、手軽に投資を楽しめるサービスとなります。自分の投資スタイルやライフスタイルと親和性の高いサービスを提供する証券会社を選ぶのも有力な選択肢の1つとなります。

メイン証券口座の選定基準3:取扱商品の豊富さから選ぶ

投資信託や外国株(米国・中国・ロシア・新興国等)、IPO(新規公開株式)の品揃えは、証券会社によってかなり異なります。各社とも力を入れている分野が違うので、口座を開設した後に、目当ての銘柄に投資できないことに気づく、といったことも起こりえます。

将来的に収益が大きくなり、投資を多様化させたい段階で、取り揃えている商品が少ないと、投資先が限られてしまい、思うようなポートフォリオを組むことができなくなるかもしれません。自分自身の目標や将来を見据えた証券会社選びが重要です。

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総合証券と比較してわかる、ネット証券のメリット

ここではネット証券各社と野村證券、日興証券、大和証券の大手3社を比較して、ネット証券ならではのメリットを紹介します。

ネット証券のメリット1:取引コストが格安

野村證券で約定金額10万円の取引を行うと、店頭でも電話でも、オンラインでも手数料は一律2,860円です。約定金額100万円では1万2,188円と、取引コストは小さなものではありません。

ただ、同じ野村證券でもオンライン専用支店なら、現物取引であれば約定10万円までは手数料152円とぐっと下がります。この場合、営業担当のアドバイスなど対面ならではのサービスを受けることはできません。

一方でマネックス証券の場合、約定金額5万円超10万円以下の取引は手数料90円、約定金額50万円超100万円以下で手数料487円と、かなり低い設定となっています。手数料は商品によって変わりますが、ネット証券各社は窓口業務などのコストを削減することで低い手数料を実現しています。

ネット証券のメリット2:多彩な取引商品がそろう

1925年の創立以来95年の歴史を誇る野村證券では、取り扱う外国株式は32か国約8,000銘柄におよびます。一方のネット証券も品揃えは拡充しつつあり、SBI証券を例に取れば6,000近い銘柄を扱っており、デメリットは小さくなってきています。

ネット証券のメリット3:オンラインで取引が完結する

口座開設から日々の取引まで、すべてオンラインで完結できることがネット証券の大きな強みです。大手3社もオンライン取引の併用や、オンライン専用支店の開設といったサービスを拡充していますが、利便性では先行するネット証券各社には及ばないといえるでしょう。

総合証券と比較してわかる、ネット証券のデメリット

ネット証券の長所が「利便性」にあるとするなら、総合証券の長所は「歴史」と「経験」にあるといえるでしょう。

ネット証券のデメリット1:相談できる人がいない

親身になったアドバイスを受けられる対面営業のメリットは、投資初心者には心強い味方であり、ネット証券では得られないものがあります。

とはいえ投資はあくまでも自己責任で、最終的に判断するのは自分です。総合証券で口座を開いたからといって、勉強や情報収集のすべてを営業担当者に任せきりにしていては、投資の成功確率はなかなか高まらないでしょう。

ネット証券のデメリット2:「歴史の浅さ」による情報力の不足

野村證券は1906年、前身の野村商店時代に、「経験と勘」に頼った投機的取引を行う他社に先駆けて、科学的調査に基づく取引を行うための「調査部」を設置しています。現在に至っても「調査の野村」と呼ばれる圧倒的な情報収集力は、営業担当のコンサルティングにも反映されています。

歴史の重みに支えられた情報収集と情報提供は、ネット証券各社が簡単に追いつけるものではありません。

ネット証券のデメリット3:IPOの割当株数が少なめ

2019年度の日本株式IPO発行総額は1,357億円でした。そのなかで野村證券は38.4%にあたる522億円で主幹事を務めています。三井住友ファイナンシャルグループが19.8%、大和証券グループ本社が17%と続き、ネット証券最上位のSBIホールディングスは6位の1.9%にとどまっています。

主幹事の大部分は大手3社が占めているため、割当株数も当然大手が多くなります。たとえば大和証券が主幹事となったサン・アスタリスク(証券コード4053)の場合、公募・売り出し株総数483万株のうち9割以上の441万株が大和証券に割り当てられ、残り1割弱を主幹事以外の証券会社で分け合うこととなりました。

ネット証券でもIPO銘柄は取り扱ってはいますが、そもそも割当株数が少ないことから、当選の期待も薄まります。ただ、そのなかで健闘しているネット証券もあります。SBI証券は2019年実績で主幹事7社、2020年度は9月末時点で前年を上回る8社の主幹事を獲得しています。

ネット証券主要5社の特徴は?

手数料のやすさなどから口座開設数を伸ばし続けているネット証券ですが、SBI証券、楽天証券、松井証券、マネックス証券、auカブコム証券の取り扱い銘柄数や手数料などを比較してみましょう。

大手ネット証券会社の特徴1:ノーロードが魅力な投資信託

自分の判断でターゲットとする銘柄を絞り、相場動向を見ながら取引を行うことは株式投資の醍醐味ですが、取引経験がないと当然リスクは高まります。また、相場の急な変動によるリスクを回避するには「分散投資(金融商品の種類や投資タイミングを多様化させる手法)」が基本ですが、分散投資にはまとまった投資資金が必要になります。

個人投資家でも分散投資を実現できるのが「投資信託」の魅力です。投資信託とは、運用会社が不特定多数の投資家から出資を集め運用し、その利益を出資者に還元する金融商品です。投資家1人ひとりの出資額は小さくても、集めれば大きな額となるため、運用会社は100を超える銘柄のポートフォリオを組むことができます。運用は投資のプロフェッショナルであるファンドマネージャーに委ねられるので、こまめな相場研究や市場ウォッチが不得な個人投資家でも利用しやすいといえるでしょう。

ネット証券主要5社の投資信託取扱商品数(2020年10月1日時点)は、楽天証券が2,678本、SBI証券が2,637本で、auカブコム証券1,263本、松井証券1,258本、マネックス証券1,158本となっています。ネット証券が扱う投資信託は、すべてがノーロード(売買手数料ゼロ)である点も魅力です。

さらに投信情報のトレンドがわかるレポートやコラムを顧客向けに発行したり、投資信託の残高に応じてポイントが付与されるサービスを提供したりと、各社とも趣向を凝らしたサービスを展開しています。

大手ネット証券会社の特徴2:外国株は各社で得意とする国・地域が異なる

グローバル経済の進展により、日本でも外国企業の認知度が上がってきているためか、外国株を購入する個人投資家も年々増えています。特に米国株に関しては、ナスダックを中心にハイテク株が大幅上昇したことや、ネット系各社が米国株の裁定取引手数料を引き下げたこと、スマホアプリによる売買サービスの登場、アナリストリポートの充実などもあり、売買代金も大きくなってきています。

ただしネット証券で外国株を取引しようと考える人は、各社の特徴を事前によく調べる必要があります。銘柄数だけではなく、北米、中国、韓国、ロシア、新興国等など、証券会社によって強い地域も異なります。米国株以外は取り扱わない証券会社も少なくありません。

ネット証券主要5社のうち、外国株の取扱銘柄数(いずれも2020年2月1日時点)が多いのはマネックス証券で6,300本以上、次いでSBI証券5,590本以上、楽天証券4,630本以上と続きます。

ただし、カバーする地域が広いのはSBI証券で、米国株3,600本以上、中国株1,400本以上、ASEAN株500本以上、韓国株60本以上、ロシア株30本以上となっています。

マネックス証券は米国株3,800本以上、中国株2,500本以上で、韓国・ロシア・ASEAN株は扱っていません。楽天証券は米国株3,500本以上、中国株900本以上、ASEAN株230以上で、韓国・ロシア株は取扱外です。

外国株に関する情報を個々で入手するは難しいですが、各社とも銘柄分析ツール・米国企業レポート・ASEANアナリストレポート等を顧客に提供しています。とくに楽天証券では、日本経済新聞との提携により日経主要紙の閲覧や記事検索ができる「日経テレコン(楽天証券版)」を顧客向けに提供しています。

大手ネット証券会社の特徴3:取引コストの低い会社がそろう

ネット証券各社は、手数料の面でも激しく競争しています。特に開設口座数1位のSBI証券と2位の楽天証券が手数料改定を繰り返してきたため、ネット証券各社の手数料水準はかつてないレベルで割安となっています。

約定代金100万円で比較してみましょう(金額は2020年10月20日時点)。最安値はSBI証券と楽天証券の535円で、auカブコム証券が990円、松井証券が1,100円、マネックス証券が535円となっています。松井証券は1日当たりの約定金額ベースで手数料がかかりますが、他社はすべて1注文あたりでの金額となっています。なお、auカブコム証券以外の各社は1日の取引額において手数料額が定額となるコースを用意しており、SBI証券は100万円までの取引で手数料無料となっています。楽天証券も2020年12月から追随する予定を発表しており、ますます取引コストにおいて、割安感が高まっています。

大手ネット証券会社の特徴4:少額投資が行える

かつては株の売買単位は1,000株が一般的でしたが、2001年の商法改正を契機に100株を売買単位とする会社が増え、資金の小さい個人投資家でも売買がしやすくなりました。2018年からは売買単位が100株に統一されています。それでも「値嵩株」と呼ばれる株価の高い銘柄に投資するには、まとまった資金が必要です。

たとえばトヨタ株(証券コード7203)の2020年10月14日の終値は6,935円で、購入には約70万円の資金が必要です。半導体製造装置大手の東京エレクトロン(証券コード8035)となると同日終値29,480円で、約300万円が必要です。

そこで活用したいのが「ミニ株」と呼ばれる単元未満株が買えるサービスです。ネット証券5社のなかでは、SBI証券とマネックス証券の2社がサービスを提供しており、1株単位での投資が可能です。

このほか、主要ネット証券5社ともNISA(少額投資非課税制度)対応の投資信託も発売しており、投資上限額以内であれば、投資信託による収益が非課税となります。投資信託は1万円前後から投資できる商品も多く、少額投資に適しています。

ネット証券各社のサービスの違いを一覧表にまとめてみると、それぞれの特徴が明確になります。

▽主要ネット証券5社の少額投資対応商品とIPO主幹事実績比較

  投資信託商品数 外国株(ETF含む) 手数料(約定金額100万円) NISA対応 投資信託 ミニ株 IPO主幹事実績(2019年)
SBI証券 2,637本 5,590本以上 535円 2,569本 あり 7社
楽天証券 2,678本 4,630本以上 535円 2,571本 なし なし
松井証券 1,258本 なし 1,100円 573本 なし なし
マネックス証券 1,158本 6,300本以上 535円 1,144本 あり なし
auカブコム証券 1,263本 なし 990円 560本 なし なし

投資スタイルに合ったネット証券選びは、投資の第一歩

対面営業の総合証券を選ぶか、オンラインで完結するネット証券を選ぶかは、資金の大きさやネットリテラシー、投資スタイルの違いによって異なります。さらにどのネット証券を選ぶかも、投資信託に重点を置きたい、外国株取引にも挑戦したい、短期取引ですぐに収益を上げたいなど、投資家それぞれのニーズで選択肢は変わってきます。スタイルや目標に合った証券会社選びが、投資運用の第一歩といえるでしょう。

※本記事は、2020年10月の情報に基づいて制作しています。各金融機関の取扱商品数や手数料は、実際と異なる場合があるので、最新の情報をご確認ください。

野口 孝雄
上場企業(大手日用品メーカー)にて、事業戦略・財務に携わる。とくに財務部門所属時には、株主総会運営・決算開示を経験、経営分析の力をつける。個人としての投資経験に合わせ、「投資される」企業側からの視点を加味した、独自の切り口によるコラムを真骨頂としている。