2014年にNISA(少額投資非課税制度)がスタートしてから、証券会社などに取引口座を開設する人が増えるなど、投資が身近なものになりつつあります。しかし投資にはリスクが付きもので、相場の急変で大きな損失が生まれることもあります。そのようなリスクを低減する代表的な手法が「分散投資」です。ここでは、この分散投資について、その種類と効果についても詳しく解説します。
目次
分散投資とは
預貯金とは異なり投資には元本保証がなく、運用により資金を減らしてしまう可能性があります。着実な資産形成を望むなら、価格変動のリスクと投資コストは極力小さくする必要があります。同じような値動きをする商品ばかり買うと同時に暴落する可能性もありますし、頻繁に売買すれば取引手数料も高額になってきます。
リスクとコスト低減のために、多種多様な金融商品を少しずつ、決まったタイミングで買い入れる手法が普及しています。とはいえ、やみくもにいろいろな金融商品を買うだけでは、リスクの分散にはなりません。
時間分散と資産分散
分散投資には主に、投資タイミングを小分けにする「時間分散」、商品を多様化する「資産分散」、いろいろな国・地域に投資する「地域分散」と、さまざまな通貨で外貨預金などを行う「通貨分散」の4つの手法があります。ここでは時間分散と資産分散について説明します。
時間分散の代表的な方法に「ドル・コスト平均法(定額購入法)」があります。金融商品の価格は日々変動しますが、ドル・コスト平均法では一度にまとめて購入するのではなく、毎月など決まったタイミングで一定額ずつ購入します。定量購入では高値でも同量購入するので、高値づかみのリスクがありますが、ドル・コスト平均法では価格が多いときは少なく、安いときは多く買付を行うことになり、平均買付額が安くなります。
対して資産分散の方法としては、複数の株式や投資信託を組み合わせる「ポートフォリオ」が挙げられます。同種の商品の暴落リスクは避けられますが、投資家ごとに求めるリターンの大きさや許容できるリスクは異なります。そのため、投資家それぞれが自分の目的や目標に合った資産の配分を行いますが、これを「アセットアロケーション(資産配分)」といいます。
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集中投資はハイリスク・ハイリターン
分散投資の対極が、集中投資です。同一タイミングで、あるいは同一銘柄などに資金を集中して投資する、ハイリスク・ハイリターンな手法といえます。
たとえば時間分散を行わず、資金を集中して金融商品を購入した場合は、その時点の価格が安値なのか高値なのかを確実に知ることはできません。平均価格を下回る価格で購入できていた場合は大きなリターンが得られるかもしれませんが、その後の値動きによっては大きな損失となることもありえます。
きわめて投機的な取引となるため、長期の資産形成には不向きといえるでしょう。
国内株の資産分散は「業種・規模」か「商品の種類」か、で考えてみる
資産分散と一口に言っても、実際はなかなかに多様です。仮に株式と債券を50%ずつ組み入れたポートフォリオを組むとしても、株式には国内株式と外国株式があり、さらに外国株式は先進国と途上国株式に分けられます。国内株でも業種や経営規模によって性質は異なるため、銘柄や商品ごとの性格をしっかり把握することが重要です。
業種・規模による分散
すべての業種の銘柄が一気に暴落することはそれほど多くはなく、株式のみでポートフォリオを組んでも、ある程度の分散効果を得ることができます。
たとえば発行済み株式数が多く時価総額も大きい「大型株」と、発行済み株式数が少なく時価総額の小さい「中小型株」では株価の値動きが異なります。大型株は売り手も買い手も多くなるので値動きは緩やかになりやすく、中小型株は注目が集まると需給バランスが崩れるため、株価変動が大きくなる傾向があります。大型株と中小型株でポートフォリオを組むことで、資産全体の値動きを緩やかにする分散効果が期待できます。
また、業種や企業規模などを多様化させることも資産分散の1つの手法です。
たとえば2020年の新型コロナウイルス感染症流行により経済活動が制限されたことで、多くの業種で業績が悪化しましたが、リモートワーク需要でパソコンや一部の家電は売上を伸ばし、最高益を記録した業種もありました。また、国内株式のなかでも成長段階の企業が多く上場している東証マザーズ市場は、2020年4月以降も好調な株価を維持しています。東証一部や、ジャスダック市場の株価が横ばいとなっているのとは対照的です。
銘柄の多くは相関関係があるとされ、相関係数という指標も算出されています。相関係数がプラスの場合は一緒に値上がり・値下がりする傾向が強く、マイナスの場合は一方が値上がりすれば他方は値下がりする傾向にあります。マイナス同士(逆相関)の銘柄を組み合わせることで分散効果が高まりますが、関係なく値動きする「無相関」の組み合わせでもリスクは低減できます。
商品の種類による分散
銘柄だけでなく、異なる金融商品の間にも相関関係があるといわれています。
たとえば国内株式と国内債券は逆相関の関係とされ、同時に所有することで分散効果が期待できます。また国内REIT(不動産投資信託)は国内株式とは無相関の関係ともいわれていて、この組み合わせではリスクの分散効果はやや弱まりますが、期待されるリターンはやや大きくなります。
投資目標を見定めて、逆相関や無相関をうまく組み合わせることがポートフォリオ構築のカギといえそうです。
分散効果によるポートフォリオのリスクは低減できますが、それだけではリスクとリターンが釣り合っているかどうかはわかりません。リスクが小さくても、期待できるリターンがさらに小さければ、そのポートフォリオは効率的とはいえません。
特性の異なる銘柄や商品の組み合わせのリスクとリターンを評価するには、「効率的フロンティア曲線(有効フロンティア)」などいくつかの手法があります。しかし精度の高い評価には、金融商品ごとの期待リターンとリスクや、相関係数を算出する必要があり、高度な知識と経験が求められます。
一般の投資家に分散投資はできない?
分散投資を行うには、まずは運用する資金を、株や債券、国内、国外など商品カテゴリに投資する割合を決め(アセットアロケーション)、それに則ってポートフォリオを構築します。その後は効率的フロンティア曲線などでリスクとリターンを評価したうえで、金融商品を買い進めることになります。
しかし、ポートフォリオは一度構築すれば固定できるわけではありません。金融商品の資産価値は日々変動しているため、定期的なメンテナンスを行わないとアセットアロケーションが狂ってしまうからです。アセットアロケーションが狂えば、想定していた分散効果を得ることもできません。アセットアロケーションが目標値に戻るように金融商品の売買を行う「リバランス」を定期的に行うことで、ポートフォリオを適正な状態に保つことができます。
しかしながら、アセットアロケーションの設定から銘柄ごとのリスクとリターンの評価、さらにはポートフォリオのリバランスまでを個人投資家自らで行うのは、かなりハードルが高い作業です。専門知識がなくても分散投資を行う方法としては、「バランス型投資信託」の活用が考えられます。
バランス型投資信託はさまざまなアセットアロケーションで運用されているので、投資家のリスク許容度に合ったファンドを選択できます。
株式や債券、国内外の市場などに投資するバランス型投資信託
バランス型投資信託は、複数の株式や債券などの値動きの異なる金融商品を資産として組み合わせることで、分散効果によるリスク低減を目標としています。
バランス型投資信託には、TOPIX(東証株価指数)やNASDAQ(ナスダック総合指数)などに連動する投資信託を組み合わせて所有することでリスクを抑え安定的なリターンを狙うパッシブ型があります。
しかし、バランス型投資信託の中には、インデックス以上のリターンを得ることを目的とするアクティブ型投資信託を組み合わせて所有しているものもあり、投資信託の性格が大きく異なります。
分散投資によりリスクを抑え、安定的な資産形成を図る場合は、パッシブ型が適していますが、パッシブ型も組み入れる金融資産の種類や割合によりリスク・リターンの傾向が変化します。
リスクを抑えた安定的な投資方針を狙うのならば、安全資産である債券の比率が高いものや外貨建ての金融商品を利用している場合は、為替ヘッジを行っている投資信託を選びましょう。
また、もう少しリスクをとってリターンを高めたいと考えるのならば、株式や不動産投資信託などの比率を高めたり為替ヘッジを外すことで調整を行うことが可能です。
投資信託を購入する前に目論見書は必ずチェックすること
専門知識を問わず、資金が小さくても分散投資ができる投資信託には、商品ごとに目論見書が用意されています。この目論見書は投資信託の説明書となり、ファンドマネージャーが投資家に提供するものです。投資信託(ファンド)の運営方針やアセットアロケーションが明記されています。どの投資信託を選ぶ際も、まずは自分のリスク許容度に応じたアセットアロケーションとなっているかどうかを確認することが大切です。
投資信託で確認したい3つの手数料
最後に、投資信託と通常の株式投資では、投資コストもかなり異なることも知っておく必要があります。株式は保有しているだけでは手数料がかかることはありませんが、投資信託は保有している限り手数料が発生するからです。
投資信託の手数料は、購入時に生じる「購入時手数料」と、ファンドを保有する期間は発生し続ける「信託報酬」、売却時の代金から差し引かれる「信託財産留保額」の3つに分かれます。
手数料1:購入時手数料
購入時手数料は、販売する会社が上限額の範囲内で自由に決められるため、同じ投資信託であっても購入する会社によって手数料が異なります。最近は「ノーロード」とよばれる購入時手数料が生じない投資信託も増えています。
手数料2:信託報酬
信託報酬は、投資信託の維持・管理などに支払う手数料となります。投資信託の純資産総額に対し、年間で0.5%~2%程度の報酬が生じます。株価指数を上回る利回りを目指すアクティブ型は信託報酬が高めで、市場の平均と連動するような運用成果を目指すインデックス型は比較的安価な信託報酬が設定されています。
手数料3:信託財産留保額
信託財産留保額は、投資信託を解約する際に投資家が負担する費用です。これは解約代金から一定率で差し引かれるので、投資家が別途払う必要はありません。
解約代金を投資家に支払う際は、投資信託の資産の一部を売却することになりますが、売却のための手数料を他の投資家の負担とせず、解約した投資家に負担してもらうためにこのような仕組みとなっています。この手数料を信託報酬として差し引いてしまうと、投資信託を保有し続ける他の投資家の不利益となってしまうため、解約する投資家から売却にかかわる手数料が差し引かれます。
信託財産留保額は多くの場合、ファンド解約時の時価(基準価格)の0.1~0.5%程度です。近年は信託財産留保額が差し引かれない投資信託もあり、投資コストの大小は販売会社選びの基準の1つです。
分散投資は資産運用における一番の原則。ライフステージでリスク許容度を変えて行こう
結婚、出産、子どもの進学、老後など、ライフステージによって必要となる資金は異なります。場合によっては投資資産を切り崩す必要もありますが、その時に評価損が発生してしまっては、投資をしたこと自体がマイナスになりますので、ライフステージによって投資リスクの許容度を変えていく必要もあります。
自らポートフォリオを組んでリバランスしながら投資するのか、リスクの小さなパッシブ型投資信託を選ぶのかも、年代によって適切な選択は変わってくるのかも知れません。現時点で許容できるリスクと将来的に許容できるリスクを考慮しながら、年代に応じたリスク分散を図ることが重要だといえるでしょう。