保有資産10億円以上の富裕層はドラスティックな資産拡大もしくは相続対策のために、一棟不動産に投資することが多い。マンション一室などの区分不動産は保有資産額に対するインパクトが小さいので、富裕層であればあるほど投資金額が大きくなる一棟不動産に投資するわけだ。
今回は以下のように前編、中編、後編の3回にわけて、富裕層が実践する一棟不動産投資について紹介する。
前編:一棟不動産投資の対象となる物件の収益性、立地、構造、種類、築年数などの選定戦略について
中編:一棟不動産投資成功の鍵である不動産担保ローンの借入戦略と最近の銀行融資事情について
後編:実際の一棟不動産を例にした投資シミュレーションと注意すべきリスク点検の方法について
今回も、日本を始め米国やスイスのプライベートバンクに11年間在籍し、現在は富裕層の資産形成サービスを手掛けている株式会社ウェルス・パートナー代表の世古口俊介氏に話を聞いた。(聞き手:菅野陽平)
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不動産投資の成否は物件選定と融資で決まる
不動産投資が成功するかどうかは、前編で解説した「物件選定」と今回解説する「融資」の2つで決まるといっても過言ではない。不動産は投資金額の大部分を銀行からの借入によって調達するため、その条件や動向次第で投資が失敗に終わったり、そもそも投資実行できない可能性がある。これは金融投資とは異なり、借入を活用する実物不動産投資の大きな特徴だ。
中編では銀行の物件評価、借入人評価、最新の銀行融資状況、不動産担保ローン戦略の順に解説する。今回は、銀行が物件と借入人を詳細に審査した上で融資判断するローン(いわゆるプロパーローン)を前提としている。銀行と不動産(会社)がパッケージになっているローン(いわゆる提携ローン)もあるが、一棟不動産は基本的にプロパーローンでの借入しかできないためだ。
銀行の物件評価
まず銀行の物件評価、つまり担保にとる不動産の担保評価方法を正しく理解する必要がある。銀行は自社内で不動産の担保評価を行い、それに基づき物件ごとにどれくらい融資が可能か判断する。「評価方法は銀行により異なるが、だいたい3つの評価方法によることが多い」と世古口氏は語る。「積算価格」「比準価格」「収益価格」の3つである。それぞれ簡単に説明してもらった。
積算価格とは、相続税を計算するために国が定めた評価方法により、不動産の価値を計算した価格である。土地価格は国が定めた路線価、建物価格は耐用年数などからどれくらい価値があるか計算する。
比準価格とは、担保設定する物件の周辺の取引事例から推定した価格である。「場所、広さ、新しさが同様の物件が1億円で売買されているなら、価格が下落することも見越し、8000万円で担保評価して融資をしても良いだろう」という評価方法である。
収益価格とは、担保設定する物件が生み出す利益から価格を算出する方法である。投資家目線の利回りやキャッシュフローという視点に近い。「毎年1,000万円の賃料収入が出るから、毎年の返済が600万円、総額2億円の融資をしても返済が困難になることはないだろう」と生み出す利益から逆算する評価方法である。
「銀行によって重視している評価方法は異なるが、最近は積算価格を重視している銀行が多いと感じる。積算価格だと、都内であれば時価に対して6割〜7割程度の物件が多いので、頭金が3割〜4割程度は必要になる。現在、積算価格を考慮しない銀行はないと考えられるので、融資打診前に最低限の計算はしておくべきだ」(世古口氏)という。
この積算価格をベースとして、比準価格、収益価格、借入人の属性によってどれくらいプラスの評価を勝ち取り、借入比率を高めることができるかが重要なポイントとなる。
銀行の借入人評価
物件の次は、借入を行う人(借入人)の評価が重要だ。銀行は借入人の何を基準に評価を行い、融資の条件を決めているのだろうか。「当社(ウェルス・パートナー)のこれまでの銀行との交渉経験から優先度が高い順に『資産背景』『年収』『職業』と考えている」と世古口氏は解説する。