中国と台湾は、依然として緊迫状態が続く。直近ではWHO(世界保健機関)年次総会参加を巡り、熾烈な応酬が繰り広げられるなど、関係は悪化の一途をたどっている。その一方で、米国は長年にわたり維持してきた、「戦略的あいまいさ」の見直しを迫られる時期に突入した。

台湾、5年連続でWHO総会に招待されず 「中国の嘘」に強く反発

米中戦争勃発の可能性も?中国の「台湾武力統一」引き金となる3つのシナリオ
(画像=globeds/stock.adobe.com)

5月下旬から開催されるWHO(世界保健機関)のオンライン年次総会に、台湾の参加が認められなかったのは、今年で5年連続だ。背景には、『一つの中国(=台湾は中国の一部)』原則を主張する中国の強い反対がある。

しかし、中国外務省の華春瑩報道官は5月中旬の定例記者会見で、「中央政府は『1つの中国』原則下で、台湾が参加できるように適切な手配をしている」と発言した。このように阻止の事実を覆い隠そうとする中国に対し、台湾が猛烈に反発した。呉釗燮(ごしょうしょう)外相はTwitterで、「中国が台湾の参加のために適切な手配をしている、中国ほど台湾のことを気にかけている国はないといった発言は恥知らずな嘘だ」「中国が新疆ウイグル自治区やチベット、香港でしてきたことを見れば、誰がそんな嘘を信じるのか」などと、矢継ぎ早に批判した。

台湾侵攻の引き金となる3つのシナリオ

中台の対立が過熱する中、「レッドライン(平和的解決に至らず、軍事的解決に移行する一線)」を越える可能性が懸念されている。

中国は台湾統一の手段として武力行使という選択を排除しておらず、米国も中国の侵攻から台湾を保護する手段として、同等の選択を迫られる事実を否定していない。つまり最悪の場合、台湾を巡って米中戦争が勃発する可能性がゼロではないということだ。

CIA(米国中央情報局)の元シニア・インテリジェンス・オフィサー、ジョン・カルバー氏いわく、中国がレッドラインを越えるシナリオは3つある。一つ目は台湾が主権国家を目指し、中国からの独立を試みるというもの、二つ目は台湾が中国の武力行使に備えて、核兵器の開発・確保に動いた場合だ。三つ目は「台湾が第三国と過度に親交を深めている」と中国が判断したときで、いずれのシナリオも、米国の「影」が背後にある。

中国を最も苛立たせているのは、米国が台湾の「武装」を後押ししている事実だろう。米国から台湾への兵器売却はトランプ政権下で急加速し、2020年10月の時点で台湾が武器購入に使った額は、年間国防予算をはるかに上回る、総額174億ドル相当(約1兆 8,925億 円)だ。そして、台湾が「先制攻撃を仕掛けることはないが、対中国防衛準備を前倒しで進めている」ことを明らかにすると、中国は台湾に売却する武器の製造元である米ロッキード・マーチンなどに、制裁を科す形で報復に出た。

米国の介入はそれだけではない。台湾軍との軍事演習を実施するなど、「いずれ台湾に米軍基地を設置するのではないか」と一部でささやかれるほどの勢いで台湾に助力している。

米中台の関係を巡る複雑な歴史

米中台を巡る背景には複雑な歴史がある。

1972年、当時の大統領だったリチャード・ニクソン大統領の中国訪問は、「世界の歴史を変える瞬間」として大きな波紋を呼んだ。出迎えたのは中国の初代最高指導者、毛沢東主席である。米中関係和解の裏には、中国・ソビエト連邦の関係悪化やベトナム戦争(1955~1975年)、冷戦(1945~1989年)などに絡む両国それぞれの思惑があった。

興味深いことに、会合後に発表された米中共同声明の一部分に、ニクソン大統領は最後まで合意しなかったという。『米国は台湾が中国の一部であることを認識し、それに対して異論を唱えない』という下りだ。

「一つの中国」という主張を完全に受け入れたのは、1977年に就任したジミー・カーター大統領だった。カーター政権は1979年、米中の外交関係を樹立し、台湾について「中国大陸と台湾がともに一つの中国に属する」と認めた。

当時、上院議員だったジョー・バイデンを含む共和党員および民主党員は、この決断に異論を唱えて台湾との関係を維持するため台湾関係法(TRA)を可決し、米台の継続的な経済および安全保障関係を法典化した。これにより米国は防衛目的で台湾に武器を供給し、台湾の平和が危機に晒された際には対抗措置をとることが法的に可能になった。

米国の「戦略的あいまいさ」を巡る議論

ここで重要なのは、米国は台湾の防衛に惜しみなく力を貸すが、自国の立ち位置はあくまであいまいなままにしてきた点だ。TRAには「台湾へのいかなる武力行使も、米国は深刻な懸念と見なす」と記されているが、台湾が侵攻を受けた場合に米国がどのように対応するのかについては、具体的な明言を避けている。この辺りが「戦略的あいまいさ」などと称される所以である。可能な限り中国を刺激せず、台湾への武力行使を回避させたいという意図がうかがえる。

バイデン政権発足後もこのような潮流が急に変化するとは考え難い反面、米国内では「戦略的あいまいさ」の見直しを迫る動きが活発化している。直近では、インド太平洋軍のフィリップ・デヴィッドソン提督やジョン・アクイリーノ提督が上院軍事委員会の公聴会で、「予想より早く中国が台湾に侵攻する可能性がある」とし、米国の対応を明確にするよう提案した。

脅威?けん制?割れる専門家の見解 

台湾の中原クリスチャン大学のジョセフ・ファン教授は、現状について「嵐の前の静けさだ。中国は侵攻に最適な時期を待っているだけ」と懸念を露わにしている。米国ジャーマン・マーシャル財団アジアプログラムのディレクター、ボニー・グレイザー氏は、「中国が虚勢を張っているだけとは思えない。レッドラインを越えればたちまち事態は武力化する」と警告した。その一方で、中国が日常的に軍事的示威活動を行っている事実を挙げ、台湾への脅威もその一つと楽観視する意見もある。

台湾は今後も、国際的支援を要請すると共に防衛力を強化し、台湾の主権と民主主義、自由の保護のために戦う構えだ。日本も台湾有事阻止に向け、日米声明を通して重い腰を上げた。中国の台湾侵攻が現実となるのか、それとも可能性で終わるのか。世界が固唾を呑んで見守っている。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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